【86滴+】吸血鬼に次ぐ鬼を喰らう者2
だがこれに対しても二人は想定内なのか、居場所に検討が付くのか一切動じていなかった。
そして前腕が消えてからほんの数秒後、二人の背後には回り込んでいた璃奈の姿が。彼女は直接攻撃を仕掛ける訳では無く、まず片手を地面に着けた。すると玉藻前と心の三メートルほど後方の地面から腕ぐらいの太さはあるであろうツタが四本、地面を突き破り小さな水飛沫と共に姿を見せた。しかしツタは身をくねらせながらその場に留まり何もしない。
するとその時。尖鋭な頭を掛け声でもかけられたかのように同時に後ろに引き勢いをつけてから二人へ向かって突っ込み始めた。だが蘇比狐同様その行く手は阻まれた。一つ違っていたのはそれが籠手の腕ではなく地面から燃え上がった炎の壁【
「腕を上げたのぉ。もえ。さすがじゃ」
「ええ師匠のおかげやわ」
「失敗はわしのもん、成功はおまえさんのもん。成長はおまえさんが努力した結果じゃて」
一方で、そんな師弟の話している彼らの上空には既に
そんな弥次芦を受け止めたのは受け皿のように現れた籠手の左前腕だった。だが先程とは異なり拳と掌が触れると籠手側が一気に押し込まれてしまう。とは言えそのまま突破される事は無く、瞬時に新たな籠手の右前腕が出現し左前腕を支えたことで弥次芦は止まった。
そして両手でやっと止めることの出来た弥次芦を次は一気に押し返す。まるでバンジーの落下後のように弥次芦はそのまま幸の方へ飛ばされると、既に戻っていた璃奈の所へと着地。
弥次芦を加えて再び三人が集結した。
「やはり止めにせんか? 幸や」
「あんたひとりで止めればいい」
そう答える幸の足元に再び現れた一匹の狐。だが、今度は毛色が違っていた。先程は蘇比だったのに対し、この狐の瞳と毛は
そんな中、先陣を切ったのは璃奈。一歩前に出ると今度は両手を地面へ。
すると地面からは先程の倍以上のツタが現れ体をくねらせていたかと思うと頭から地面へとダイブ。数秒後、心らとは五メートル程距離を離した位置から再び地上へと姿を現した。そして少しでも早く辿り着こうとしているのか体を目一杯伸ばしその距離を縮めていく。
それに対し玉藻前は先程よりも範囲を広げた炎壁を眼前で燃え上がらせた。デジャブのように炎壁に向かっていくツタだったが、今回はそのツタ群の中を白狐が走っていた。
白狐はツタを追い越し一足先に炎壁へ辿り着くと、大口を開け吠えながら吹雪の如く冷気の息を吐き出す。それは燃え盛る炎をも一瞬のうちに凍り付かせ、息の掛かった一部分だけではあるものの炎壁を氷壁と変えてしまった。
そのタイミングで白狐と氷壁の間に弥次芦が上空から登場。着地するや否や曲げた腕を身に寄せタックルの姿勢を取りながら氷壁へ突撃していった。そして気持ちのいいほど綺麗に砕ける氷壁。破片となった氷は宙を煌びやかに舞う。それはまるで宝石の雨が降っているかのような光景だった。
だがその光景を楽しむ者などこの場にはおらず、弥次芦の正面へ拳を握った籠手の前腕が現れると突破された炎壁に蓋をするように殴り掛かる。それに対し逃げるどころか両手を広げ腰を落とし、真正面から迎え撃つ姿勢を見せる弥次芦。
「よし! 来い!」
挑戦の喜びを表情に浮かべながら全身で拳を受けると、同時に彼の壁のような体は後方へと押し込まれ始める。しかし最初の勢いは前腕の圧倒的優勢だったものの、ほんの数センチほど押されただけでその勢いは相殺されピタリと止まった。
そして弥次芦が開けた突破口からは遅れてツタが入り込み、その全てが玉藻前へと狙いを定め向かっていく。
それを確認するや否やその場に鎧武者を出現させ自身は後方へ下がる玉藻前。だがその隙間を三本だけだがすり抜けその後を追った。あっという間に追い付くとどうにか貫かんと尖鋭な頭を何度も突き出すツタ達だったが、たった一本の扇子に防がれ続け思惑通りにはいかない。
一方、心の元に敵影は一切なかった――訳でもない。心の前方で燃え盛る炎壁が白狐によって凍り破壊され、舞い落ちる氷の破片の中には幸の姿。付き従う白狐は三匹に増え、その三匹は上空に跳ぶと体を丸め回転し始める。段々と回転速度は増していき丸い球体になった三匹は、互いを引き寄せ合いついには一つとなった。
そして大きな球体となった三匹の白狐は弥次芦と心の間に落ちると、一瞬にして見上げるほど背の高い氷壁を築き上げた。上下左右に果てしなさを思わせるほど広がっていった氷壁はちょうど二つのグループ(幸・心と弥次芦・璃奈・玉藻前)に区切る形で戦況を二分した。
「やはり気乗りはせんのぉ」
「なら次は玉藻前を殺してやろうか? そうしたらあんたも本気で俺を殺しにくるだろう?」
幸が冗談でも煽りでもなく本気で言っていることはその変化の無い双眸を見れば明白。
「もしそのようなことをすればわしは確実におまえさんを殺すじゃろう。じゃが、あの子はそう簡単にはやられんぞ」
「だがそれはあいつらがやる。俺はあんただ」
そう言うと幸の両側の足元にはまた新たな狐、
二匹の猩々狐は現れるや否や口から火炎放射器の如き焔を吐き出した。それぞれの焔は標的を焼き尽くすために途中から混じり合うと大きさを増し、最後には心を飲み込んだ。かと思われたが焔は心を避けるように二つに裂かれている。
心の前では何者かが握った刀で焔を受け止めていたのだ。そしてそのまま断ち切るように刀を振るうと焔は掻き消えていった。
名残として辺りに散る火の粉の中から現れたその者は、地面に届きそうな程明るい緑色の長髪に握った太刀。そして全身が真っ白な肌で顔には赤い線で描かれた隈取、下は黒地に金の模様の行灯袴、上は真っ赤な長着と金の模様が入った真っ赤な羽織りを着ていた。
「たった一体で鬼をも凌ぐといわれる
「引退してからは出すのは初めてじゃがの」
会話の最中、心の前に立つ喰鬼は右手に持っていた太刀を左手に持つ赤に金の装飾が施された鞘に納めた。
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