【87】妖狐vs妖狐
2匹の
するとそっと首から手を離した喰鬼へ答え合わせのように余所から焔の玉【
「今ので死ぬほど老いてはなかったようだな」
「いや老いたものじゃ。あの頃なら殺りきれたんじゃがの」
心の言葉の意味を教えるかのように1匹の鮮緑狐が喉元から血を吹き出し倒れる。そして空気に溶け込むように消えていった。もう1匹の鮮緑狐は前足に深い傷を受けておりそのせいで片膝を着いてしまう。もう戦えないと悟ったその鮮緑狐は自ら消えていった。その頃、髪をかき分けるように腰辺りから伸びた喰鬼の狐尾が猩々狐の両前足後足を捕らえていた。身動きを封じた喰鬼は手に持っていた短刀を猩々狐の首に突き刺す。と同時に猩々狐の体は炎上しその焔が狐尾から喰鬼へ燃え移り、道連れと言わんばかりに喰鬼のその身が滅ぶまで燃やし尽くした。喰鬼が焼き尽くされると心の持っていた太刀も同時に燃えて消えた。
「どうした?こんなものじゃないじゃろう?」
「隠居していたじいさんにはウォームアップが必要だろう」
「なんじゃ。優しいところも持ち合わせとるんじゃな」
幸の視界に居た心は一瞬姿を消したかと思うと次の瞬間には顔先に現れた。それと同時にしわくちゃで細いが鋭い手刀で首の側面を狙う。が幸の腕に平然と防がれた。
「あんたが本気になる前に死んでしまってはつまらんからな」
「本気を出そうがどっちでもよいと言っとったじゃろ」
「言ったがそれではつまらん。だがあんたが出しそうにないと分かった時点で殺す」
警告にも聞こえる言葉を告げると心を下から膝蹴りで突き上げようとする。しかしそれは右手で防がれた。そこからは第二ラウドといったところか激しい格闘戦が始まる。心は年を感じさせないほどの動きを見せ、幸は相変わらず平然と戦っていた。
時は少し戻り3匹の白狐が巨大な氷壁を作り出した直後、弥次芦が受け止めていた籠手の前腕は消滅。鎧武者とツタは相討ちになり玉藻前を追ったツタは返り討ちとなった。玉藻前とは少し離れた場所に立つ弥次芦と隣に歩いて来た璃奈。
「なるほど。じぃとの勝負には邪魔が入らへんようにしたかったんやなぁ」
「そうよ。その間は私達がじっっくりと相手してあげるわよ」
「遊んでくれるんか。楽しみやなぁ」
玉藻前は笑みを浮かべた口元を隠すように扇子を開く。
「遊びねぇ。いいわよ。でも私あんた嫌いだから殺しちゃうかも」
少し鋭さを帯びた笑みを見せながらそう言う璃奈。
「せやけどわらわはなんでそない嫌われとるんやろうか?」
玉藻前は扇子の向こう側で首を傾げる。
「何故かですって?そんなの決まってるでしょ。――あんたが絶世の美女!?はっ!私の方が美しいに決まってるわ!」
そう言うと自信満々に後ろ髪を手で踊らせた。
「それ、別にわらわが言うてる訳ちゃうしなぁ」
「そういうところも癪に障るのよ」
「璃奈、お前ッチは昔から他がどう思われようが気にしないだろ。嘘はいけないぜ」
すると弥次芦は隣の璃奈を見ながら指を差す。
「はぁ、分かったわよ。幸様の興味を引いてるのに腹が立つ。でも、さっきのも別に思ってない訳じゃないから嘘じゃないのよ」
「相変わらずの嘘嫌いやなぁ」
「アレルギーみたいなもんだ」
そう言うと弥次芦は体格に見合うような豪快さで声を出して笑った。
「わらわが自分の分のおやつをあげようとした時もそうやったからなぁ」
「その話もいいが幸に昔話をしにきてないって言われたからな」
「それとあんたの力を試せともね。でも、殺すなとは言われない」
璃奈は片方の口角だけを上げ意地悪い笑みをする。
「それは安心やなぁ。わらわもそちらを殺す気はあらへんから安心してええで」
つい先ほどまで笑みを浮かべていた璃奈だったが玉藻前の言葉を聞いた瞬間に眉間に皺を寄せた。
「まずはその長くなった鼻を折る必要があるようね」
「なんや?野狐のよしみとやらで顔は狙わん言うてへんかったやろうか?」
「ほんと腹が立つ」
揚げ足を取られたことにより璃奈の怒りゲージが更に溜まる。そんな璃奈に対し弥次芦は笑い声をあげていた。
「たしかに言ってたな」
「弥次芦あんたどっちの味方よ!?」
更に不機嫌さに表情を歪めた璃奈は睨みつけるように弥次芦を見る。
「もちろんお前ッチの味方だ」
「じゃあ手を抜くんじゃないわよ」
そう言う璃奈の右横から後ろ、左横まで半円を描き何度も玉藻前を襲ったツタが生えてきた。
「それじゃやるかっ!」
体を叩き気合を入れた弥次芦は振り上げた拳を地面に叩きつける。全力なのかまだ余力を残しているのか、ともかく腕力だけで地割れを起こした。割れ目は寄り道することなく伸びていくが、あと一歩のところで扇子を閉じ上へ跳んだ玉藻前に逃げられる。だが、空中で無防備になった彼女を璃奈のツタは見逃さず、というよりもこれが目的だったかのか伸びていくと四肢に巻き付き捕らえた。文字通り地に足がついていない状態の玉藻前だったが相も変わらず落ち着いている。
「はて、どないしようかぁ」
すると特に困っている様子のない彼女を下から食虫植物のウツボカズラが包み込むように呑み込んだ。地面から伸びる極太の茎で支えられているウツボカズラ。人ひとりどころか5~6人を一気に呑み込んでもまだ余裕がありそうなその大きさはもはや食虫植物などというかわいらしい植物ではなく食人植物と表現しても問題ないもの。玉藻前の四肢に巻き付くツタごと捕虫袋もとい捕人袋に収めると瞬時に蓋の部分が獲物を逃がさぬようツタを食い千切りながら閉じた。蓋が閉まると辺りは静まり返る。
「こんなものじゃないんでしょ?」
璃奈はウツボカズラを見上げながら言った。
「オレッチも実力は知らないがあの心さんが唯一鍛えた弟子だからな」
すると何の前触れもなく、彼らの期待を裏切らない程の爆発でウツボカズラが吹き飛んだ。
「綺麗な花火にはならへんかったなぁ」
爆発を見ていた璃奈は左横から聞こえてきた玉藻前の声へ視線を向けると同時に上げた足で蹴り飛ばそうとする。左足を軸に振られた右足の甲は顔の位置まで上がっており彼女の軟体さを表しているようだった。それを玉藻前はひょいと後ろに軽く跳び躱すが璃奈の周りに残ったツタが後を追う。ツタを確認すると今度は脚に力を入れより長い距離を跳び退く。着地しては後退し着地しては後退していく玉藻前だったが彼女を追うツタはより速くその距離をどんどん縮めていき今にも届きそうだった。そしてツタが顔の目の前まで迫ってくると玉藻前は扇子を開き扇面を上に向けてそこに息を吹きかける。扇面を通った息は炎となり追手のツタを包み込む。体を炎で覆われたツタは減速していき止まると体を曲げ苦しんでいるようだった。その間にも炎はツタを伝い根元に向けどんどん進んでいく。だが最後までいくことは璃奈が許さずツタを切り捨てることで炎の進行を止めた。ツタを排除した玉藻前だが一息つく暇もなく振り返る。そこに立っていたのは弥次芦。玉藻前が振り返ったのと同時に拳を大振りで殴りかかる。咄嗟に6枚の細く強くそった白い
「馬鹿力やなぁ」
「そうだろ!」
弥次芦は白花曼珠沙華を打ち破った右腕の力こぶを自慢げに見せた。それは異物が入ってるのではないかと疑わせる程の大きさ。
「それにしてもあのまん丸とした体をようそこまで鍛えたもんやなぁ」
感心しながら弥次芦の鍛え上げられた体を見ていた玉藻前は気が付いたように足元へ視線を落とす。そこにはぱっくりと口を開けたハエトリソウが現れていた。それはウツボカズラ同様に人を食べられるほどの大きさであり食虫植物というよりは食人植物。だが玉藻前はハエトリソウが口を閉じる前に範囲外へ避難したことで食べられずに済んだ。
「弥次芦!」
ついおしゃべりをしてしまった弥次芦に璃奈のお叱りの言葉が飛んできた。
「おっと。すまない」
璃奈は謝罪を聞くと玉藻前に向けて広げた左手を突き出す。すると玉藻前に四方八方からサメの歯のように鋭い棘を茎に携えた薔薇が生えてきた。そして璃奈が手を握ると薔薇たちは巻き付くように周りを囲み襲い掛かる。玉藻前の姿はあっという間に薔薇の茎に覆われ見えなくなった。しかしそれは数秒間の沈黙をもたらしただけですぐに茎の壁は斬り開かれた。中から出てきたのは刀を持った玉藻前。ではなく鎧武者。いつの間にか変わり身の術の如く入れ替わった玉藻前は璃奈の後ろにいた。それに気が付き振り向いた璃奈の後ろでは鎧武者がゆっくりと歩みを進め始める。
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