【85滴+】恐怖心2
一方その頃、外の世界にも不穏な影が訪れていた。優也の無事を願い待機していた心、ノア、玉藻前の三人は岩の祭壇から少し離れた場所に置かれたテーブルを囲い座っていた。
すると心は何かに気が付いたと言うような反応を見せた。
「もえや。ここに来る際に後をつけられたりしとらんかったか?」
「注意を払っとった限りやと怪しい影は無かったで」
「どうかしたのか? じーさん」
「うむ。どうやら招かれざる客が来たようじゃの」
そう言いながら心はゆっくりと立ち上がる。
「ほなわらわも行くわぁ」
「よしそんじゃ俺も」
玉藻前につづき立ち上がろうとしたノアだったが、玉藻前がそれを手で止めた。
「ノアはんはここに居といた方がええと思うで」
「なんでだよ。二人よりも三人の方がいいだろ」
「念の為にここで守るもんがおった方がええと思うからなぁ」
「そうなると、互いを知っておるわしともえが行った方がええということじゃな」
「そう言う事や」
「わーったよ。ここで待つよ」
諦めたようにそう言いながらノアは少し浮かせた腰を椅子へと戻す。
そして心と玉藻前は襖を開けるとその先に伸びる長い廊下を歩き出した。
「さてと、まずはイントスを破られる前にここの接続は切っておくとするかの」
「別空間作って誘導したらええんちゃう?」
「そうじゃの」
話をしていると廊下終りの襖が見えてきた。引手に手を伸ばし横へ引く。
その長方形から覗かせた世界は、沈みかけの夕日とそれに焼かれた空。上空の景色を鏡のように映す薄く地面に張った水。それとそんな空間にぽつりと立っていた一つの人影。
それは全身を白で包んだモーグ・グローリだった。
「息を呑むほど美しい。このような空間を創り出せるその能力とセンス。まさに脱帽ですね」
玉藻前と心に背を向けたままグローリは独り言というには大きな声でそう言った。
「その褒め言葉は素直に受け取るとするが、そんなことを言う為に人の家に侵入したわけじゃなかろうて?」
「それもそうですが、これほどの絶景と絶世の美女を同時に見られただけでも来た甲斐はありましたよ」
振り返ったグローリは両手の立てた人差し指と親指で作った枠の中に玉藻前を収めた。
「やはり絵になりますねぇ」
「そやったらもう帰ったらどうや? モーグ・グローリ」
開いた扇子で口元を隠した玉藻前はグローリの名前をゆっくりとだがハッキリと口にした。
「これはこれは。私を知っているとは意外ですね。いえ、光栄と言うべきですね」
目の前の男が何者か分かった心は髭を撫でながら興味深そうな視線を向けた。
「おまえさんがあの吸血鬼を絶滅寸前まで追い込んだ男か」
「お初にお目にかかります」
心に対してグローリは丁寧なお辞儀をして見せる。
「こんなことしてないで早く行きましょ」
すると左腕に巻き付いた白蛇のホズキがグローリに顔を向けながら言った。
「尊敬に値する方には敬意を払わないといけないよ、ホズキ。だけど……そうだね。そろそろ行こうか」
ホズキの方を見ながら返事をしたグローリは再度二人へ視線を戻した。
「お会いできて光栄でした。では私は六条優也君に用がありますのでこれで」
「正確にはアレクシス・D《ドラキュラ》・ブラッドの心臓でしょ」
ホズキは知ってると言わんばかりに訂正した。
「まさかそう簡単に通れると思ってないやろうなぁ?」
だがその名を耳にしてはそう簡単に通すわけにはいかない。玉藻前の双眸は鋭く、だが妖艶にグローリの姿を捉え続けた。
「確かにこの状況は少々分が悪いですね。ですので、私もお友達を呼んでおきました」
グローリがそう言うと彼の横へ襖が現れた。
「ひゃっふー! マジで突破しちまうなんてよ! やるじゃねーかよ!」
高揚した様子で出てきたのは皮膚がはち切れんばかりの筋肉をその身に宿した男。裸の上半身にはバネで作られた筋トレ器具を着けていた。
そんな彼に続いてハイヒールの足音と共に出てきたのは艶やかな長い髪を右側に流し、眼鏡をかけた艶ほくろのあるスタイル抜群の美人。レンズを通して世界を見るその目は彼女の気の強さを表してていた。
そして最後に出てきたのが白銀の髪に首部分が無い頬当を付け、装束に似た服装をした青年。視線だけで見る物を切ってしまいそうな目尻が細く少しつり上がった双眸は同時に冷静さを醸し出していた。
「これまた厄介な輩を連れて来よったもんじゃ」
「
「あぁ」
白銀の髪をした男から静かなトーンの返事を受け取ったグロ―リは彼らが出てきたとは別の近くに現れた襖へと入って行った。
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