【79滴+】埋まった宝物2
そして一旦休みに戻ろうと提案しようとした優也の前を一匹の鼠が通って行った。その時、これまでの苦労を見ていた神様からの贈り物なのか優也はふと、その鼠のことを思い出した。
「スモカネズミだ」
「え? 鼠?」
だが夢中になっていた優也は春の反応など聞いておらず、すぐにバスケットからマグカップを取り出すと逆さにして鼠に被せた。
「もしかしたらコイツが持っていったのかも」
少し興奮気味な声と共に優也の指はマグカップに向けられていた。
「その鼠が?」
一方で何を言っているのか分からないといった様子の春は優也が疲れているのではないかと思っているのか少し心配そうだった。
「この鼠はスモカネズミ――っていうのは小さい頃に図鑑で読んだことがある鼠なんだけど。確か、餌とは別に気に入ったモノを発見したら巣に持ち帰る習性があるって書いてあったと思うんだよね。特にキラキラしたモノとかが好きで見つけて運べるモノなら何でも持ち帰る。そんな鼠なんだ」
「じゃあ、その鼠がアゲハちゃんの簪を見つけて巣に持ってちゃったってこと?」
「さすがに断言は出来ないけど、そうじゃないかなって……」
初めは可能性を感じていた優也だったが、話している内に段々とその自信が身を顰めていくのを感じていた。自分で自分の説明を聞きながら疑いすら覚える。
「でもどうやって巣を探すの?」
最早、半信半疑になりつつも優也は腕を組み考える。今の彼は藁にも縋りたい気持ちだった。
「こういうのどうだろう」
そう言うとポケットから財布を取り出し硬貨を一枚取り出し、逆さになったマグカップの近くに落とした。
「それちょっと貸して」
次は春の持っていた懐中電灯を指差し、それを受け取る。右手で懐中電灯を持ち硬貨に向けもう片方の手でマグカップを掴む。暗い夜道でライトを浴びた硬貨はキラキラと煌めいていた。
そして硬貨側に出られるようにマグカップを傾ける。突然上から降って来たマグカップからようやく解放されたスモカネズミの目に真っ先に映ったのはライトが当たり輝く硬貨。スモカネズミは鼻をひくひくと動かしながら硬貨の方へ歩み寄って行った。何度か硬貨を確認すると口で咥え草むらに向かって歩き出す。
「あとを追ってみよう。巣に戻るかもしれない」
見失わないように一定の距離を保ちながらスモカネズミを追う。
「この子とは違うネズミが持って帰ったってこともあるよね?」
「もしそうなら見つけるのって難しいかもね。今はコイツだってことに賭けようか」
そんな話をしつつスモカネズミを追っていると、二人はようやく巣に辿り着いた。木の根元に掘られた握り拳より少し小さな穴。
「見つけられたけど、これってどうやって巣の中にあるか確認するの?」
「……。どうしよう」
優也はその場で額に手を当て静かにあの時に気が付かなかったことを悔やむ。その間、春は巣の中を懐中電灯で照らしていた。
「棒とかあったら探れるかもね」
そう言うと辺りにライトを当てて棒のような物を探す。いい感じの大きさの物を探し右や左を向いていた懐中電灯は巣の近くにふんわりと盛られた土を発見した。首を傾げた春はライトでその部分を照らしながらもう片方の手で払いながら掘り始める。
一方優也は巣に背を向け立ったまま腕組みをし中を探る方法を模索していた。そんな彼は肩を叩かれ振り返る。
後ろで立っていた春の手にはライトで照らされた簪が握られていた。
「どうやって取ったの!?」
「ハンドパワ~」
春は簪を持つ手を揺らしながら回した。
「っていうのはもちろん嘘。近くに埋められてたよ」
「埋められてたの?」
半信半疑で訊き返す。
「うん」
だが春の純粋な眼差しでその疑いは一瞬にして消え去った。
「何で巣の中じゃなくて埋まってたのかは分からないけど、とりあえず見つかって良かったぁ」
簪を目にした瞬間、安堵に力の抜ける二人。
「そうふぁ~ね」
そして春は返事の途中で大きな欠伸をした。
「戻ろうか」
そして頷くだけで返した春と優也は屋敷へと戻って行った。門の前まで戻ってくると優也はバスケットを拾い上げる。その後にマグカップも。
「ごめん。これで鼠捕まえちゃったよ」
「大丈夫。まだまだいっぱいあるし」
少し眠そうに返事をする春。
すると暗闇を照らす一筋の光が射し込み二人を祝福するかのように照らした。
「朝になっちゃったよ」
「夜更かしは乙女の天敵っていうのに徹夜しちゃったよ」
春は半球の旅から帰って来た太陽を眺めながら呟いた。
「今の僕たちに必要なのは日の光じゃなくて睡眠だね」
そう言って優也が歩き出し春もほぼ同時に歩き出す。
「私、今なら立ったまま寝れそう」
「さすがに立ったままは無理でしょ」
優也は少し笑いながら返した。
「確かに立ったままは無理。出来て座りながらかな」
「布団の中でぐっすり寝てね。それとその簪、返しといてもらえる?」
「いいけど、優也君これ持って謝りに行くんじゃないの?」
「最初はそのつもりだったけど。物で許してもらおうとしてるみたいでズルいかなって思っちゃって」
そんな会話をしていると玄関に着き、上がった二人は足を止め向かい合った。
「そうことでよろしくお願いします」
優也は顔の前で手を合わせ顔を少し下げた。
「いいけど……」
「ありがと。それじゃあおやすみ」
まだ何か言いたげな春だったが優也はお礼を言うと部屋へ戻ってしまった。そして部屋に戻るとノアを起こさぬよう布団に入りすぐに眠りに落ちた。
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