【79滴】埋まった宝物

 屋敷に戻る元気のないアゲハを目撃した優也と春。


「どうしたんだろう。何だか元気が無かったけど」


 だがそれよりもひとまず春の体を見張り台の中に戻した。


「もしかしてまだ見つかってないのかな?」

「見つかってないって何が?」

「ちょうど優也君たちが食堂を出て行った後にアゲハちゃんもご飯を食べに来たんだけど、その時にいつも付けてる簪が無いことに気が付いたの。だから『今日は珍しくいつもの簪付けてないんだね』って言ったら慌てて頭を触りだして落としたって言ってたんだ。そしてご飯も食べないで出て行っちゃたの」

「それで今の今まで探してたってことか」

「でもあの様子じゃ見つかってないのかも」


 軽く頷きながら優也は今日会った時のことを思い出した。もちろん、無かった事にしたいあの瞬間には封をしながら。


「水浴びの後は確か付けてたと思うんだよね」

「だとしたら川からここまでの道のりで落としたのかもね」


 同じ事を考えていた優也は、春を落下から救う際にベンチに置き去りにしたマグカップに手を伸すと残りのココアを一気に飲んだ。


「僕ちょっと探してくるよ」

「今から!? 真っ暗だよ?」


 そう言いながら春は見張り台の外の暗闇を指差した。


「吸血鬼は暗闇でもよく見えるから大丈夫だよ。そうだ。部屋まで送ろうか?」

「ううん大丈夫」

「ごめんね。せっかく誘ってもらったのに」

「いいよ気にしなくて。それより私もアゲハちゃんを元気にしてあげたいから」

「頑張って探してくるよ」

「ちょっと待って」


 春はそう言うとまだココアの入ったマグボトルとマグカップ二つをバスケットに入れ差し出した。


「休憩も必要でしょ」

「ありがとう」


 バスケットを受け取った優也は梯子を下り、春も毛布を拾い一度森を見渡してから梯子を下りていく。

 そして優也は門から外へ行き春は屋敷内へと向かった。

 早速、屋敷から川までの道のりを思い出しながらちょっとずつ進みつつ、道を挟み生える草を掻き分けながら見逃さぬよう丁寧に探していく優也。

 そしてそれは丁度三分の一ほどを探していた時の事。屋敷側から懐中電灯の光が近づいてきた。ライトを眩しそうに見る優也はアゲハが来たのではないかと一瞬の焦りを浮かべるがそれはすぐに否定された。


「助っ人登場」


 近くまで来たライトの持ち主は春だった。


「部屋に戻ったんじゃなかったの?」

「戻ったよ。毛布置きに。あとこれ取りにね」


 春は手に持った懐中電灯を細かく左右に振った。


「そのまま寝てくれてよかったのに。いつまでかかるか分からないしさ。それに……」

「それに?」

「あまり遅くまで君を連れ出してたら朝食にされそうだもん。君のお父さんに」


 その言葉に声を漏らして笑う春。


「大丈夫だよ。好きで来てるわけだし、心配ご無用」


 そして春は懐中電灯を上に向け顔に下からライトを当てた。


「それにこれは夢のひとつを叶えてくれるって約束してくれたお礼でもあるのです」

「なんでちょっとホラーっぽく言うの」


 優也は少し笑いながら言った。


「これ持ってたらやりたくなるじゃん。とりあえず探し始めようか」

「そうだね。じゃあ、僕がこっち側を探すから春ちゃんは反対側をお願いね」

「りょうかーい」


 それから二人は道を挟む草むらを左右に分けて探し始めた。集中して探してた所為か気が付くとアゲハが水浴びをしていた川まで来ていた。

 だが、それらしき物は見つかっていない。そこで次は左右入れ替わり屋敷に向かって進みながら探した。しかし一往復して探してみても、結局は見つからない。


「この道を通ってる時に落としたならこれ以上奥に落ちてるとは思えないんだけど」

「見落としてる可能性もあるかな?」

「そうじゃなかったらここら辺には落ちてないってことになるからなぁ」

「屋敷内で落としたのかも」

「アゲハちゃんもまずは屋敷内から探したと思うんだよね」

「じゃあもう一回探してみる?」

「そうだね。次はも少し奥の方まで探してみようか」


 二人は再度草むらをかき分けながら見落とさぬよう注意を払って探した。

 だがそれでも簪を見つけることは出来なかった。眠気や疲労が溜まっていた春と優也は、ついに膝に手をつき視線は地面へと落ちる。

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