【75滴+】空からお邪魔します2

 中は映画で見るような自家用ジェットのそれと同じ構造。先に乗った三人は座席に座りシャンパンを注いでいた。


「吸血鬼のおねーさんとおにーさんも飲む?」


 オックスは持っていたシャンパンを顔の位置まで上げて見せた。


「アレするんだからあまり飲ません方がいいだろ」

「何言ってるの。アレするから少し飲んだ方がいいんでしょ」


 自分の前で飛び交うあまり愉快そうでないワード。


「アレってなんですか?」

「それはあとでのお楽しみですよ」

「それよりどーぞ」


 結局アレの正体が分からないまま半分ほど注がれたグラスを手渡されると二人は席へと導かれる。そして優雅な空のが始まった。

 するとそれは出発から二時間と少し経った頃。アディンはリュックのような物を二人の元へ持ってきた。


「これをどうぞ」

「なんですかこれ?」

「パラシュートです」

「えっ?」


 ハッキリ聞こえたが聞き間違えであってほしいという希望を込めて思わず聞き返す。


「もうそろそろ神家島の上空に到着します。そしたらこれを装備していただいて後は飛ぶだけです」

「こっから飛ぶのか!?」

「はい」


 テンションの上がっているノアに対し頭が状況を処理しきれてない優也。


「ちょ、ちょっと待ってください。僕スカイダイビングなんてやったことないですよ」

「飛んでパラシュート開くだけだ」

「しかもこれ一つしかないじゃないですか」

「タンデムだから大丈夫だよ」

「いや、でもやっぱり無理ですよ。着陸できないんですか?」


 優也はどうしてもやりたくなくどうにかそれを避ける方法を探した。


「あの島には空港と呼べる場所も滑走路と呼べる道もありませんので無理ですね」

「何言ってんだユウ! ぜってー楽しい」

「それでは使い方をお教えいたします」


 気が進まないものの身の安全の為に一応説明を聞く優也。そして一通り説明を聞き終えると前方にノア、後ろに優也の並びでパラシュートを装備しドア前へ。

 優也にとって死の門と表現しても過言ではないドアがゆっくり開くとまだ沈みきっていない夕日が神家島の森を照らす景色が双眸を染めた。それはもし鳥のように空を飛ぶことを望む人ならすぐにでも飛び込んでしまいたいほど美景。

 しかし気が気じゃない優也を引き連れ少し身を乗り出し下を見るノア。


「今から空飛べるのかぁ~」

「むり、ムリ、無理! 言っとくけど飛ぶんじゃなくて落ちるんだからね!」

「翼を持ってねー俺には貴重な体験だな」

「どうかしてるよ!」

「怖いなら落としてあげようか?」


 未だ決意の固まらない優也にオックスは両手を軽く前に出しながら尋ねた。


「やっぱり飛ばないとダメですか?」

「島に行きたいのなら」

「何も考えず一歩踏み出せよ。気が付いたら空中だ」

「覚悟決めろよユウ」


 四対一という状況に優也の抵抗心も少し身を縮めた。

 そして深く深くゆっくりと深呼吸をし優也は覚悟を決めようとする。


「よい空の旅を」

「やっぱむ――」


 だが無理なものは無理。そう思った瞬間――ノアに引っ張られる形で二人は空へ飛び込んだ。歓声と悲鳴の混合した声が広大な大空に響き――そして消えていく。


「飛んだな」

「オックス、それではよろしくお願いします」

「りょーかい」


 二人が飛んだ後、ドアは閉まりオックスは座席に戻ってノートパソコンを開いた。


「パラシュートは……」


 画面を見つめるオックス。

 一方、空中を落ちていた優也は慌てながらも言われた通りパラシュートを開いた。


「無事開いたよ」

「着陸予想地点はどうですか?」

「えーっと。今のところは大丈夫みたい」

「それではズレそうでしたら修正してあげてください。くれぐれも海には落とさないで下さいよ」

「りょーかい」


 パラシュートが遠隔操作されているとは知らぬまま二人のゆったりとした空中散歩は始まった。最初はちっぽけで本当に降りて大丈夫なのかと心配になった神家島も段々と大きくなっていき優也へ少しばかりの安心感を与えた。

 二人は風に流されつつも大地に目標を定めゆっくりゆっくり、ゆらゆらと降りていく。神家島は島の八割ほどが森でありノアと優也を運ぶパラシュートもその八割へと向かっていた。

 そしてパラシュートは森に生える一本の木に吸い込まれるように降下していき案の定、木に引っかかりノアと優也は宙ぶらりんとなった。

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