【71滴+】狭間にある空間2

 そして足音も振動も消えるところまで走り切ると優也は両膝に手を着け息を整えるほど疲れていたが、一方で白兎は頭上でのんびりとしていた。


「兄ちゃん情けないなぁ」

「だって白兎さん、ハァハァ……乗ってるだけじゃないですか」

「ほれ姉ちゃんを見てみぃ」


 白兎の言葉にノアを見ると肩で息はしてたのものの平気そう。


「え? 何であんなに走ったのに平気そうなの?」

「何でって言われてもな」


 優也は落ち着いてきた息を最後に深呼吸して整えた。


「さっきのヤツ一体何なんだ? 理性がないみたいだったぜ」

「それは歩きながら説明したるわ」


 それからノアは優也と共に頭に乗った白兎の指示する方へと取り敢えず歩みを進め始めた。


「ええか。狂木っちゅーんは姉ちゃんが言った通り理性なんてもんはあらへん。認識した対象を誰彼構わず襲い続ける化物や」

「そういえば狂木のことを流行ってるって言いましたよね?」


 その言葉に白兎は頭の上から優也の顔を覗き込む。


「ええとこ気が付くやないか。狂木は元々、ただの木や」

「なんでただの木がバケモンになんだよ?」

「簡単に言うたら病気みたいなもんやな。感染した木はあんな風になるんや。ただ、感染する条件も原因もよくわかっとらんけどな」

「樹海にあんな化物が出るんだったらニュースになってそうだけどな」


 優也は独り言としてボソッと呟いただけだった。だがその言葉を白兎はしっかり聞いていた。


「兄ちゃんここを外やと思っとるんか?」

「どういうことですか? ここって青木ヶ原の樹海ですよね?」

「なんや兄ちゃんら来たんやなくて迷い込んだだけかいな」


 頭上で白兎は溜息交じりの落胆とした様子を見せる。


「何かあるぞ」


 そう言って立ち止まったノアの指差す方にあったのは数段の上り階段とその上に建つ霧に紛れた鳥居。白兎は優也の頭から飛び降りると階段の前で振り返った。


「今わいらがいるんは次元結界の内と外との狭間、虚現きょげんや。迷い込んだだけやったら今から結界の外に出したる」

「結界? お前がルグーグか?」


 その言葉にノアは白兎に疑念の絡み付く視線を向けていた。


「なんや、姉ちゃん。ルグーグ様を知っとるんか?」

「僕たちその方を探して青木ヶ原に来たんです」

「なんややっぱりわいの考えは当っとんたんかいな。ええで、ついてきぃ。この先にルグーグ様はおる」


 そう言うと白兎は一足先に鳥居まで歩き始めた。そしてそのまま鳥居を通り抜けると霧に呑み込まれるようにその姿は消えた。

 目の前で起きた不可思議な光景に優也とノアも顔を見合わせ素直に不思議そうな表情を浮かべるが、兎に角今は白兎の後を追い鳥居へ。

 遅れながら後に続き鳥居を通過すると景色は一変。そこは先ほどまでの濃い霧が一切かかっていないどころか快晴で心地よい場所だった。花の混じった草原が限りなく続き爽やかな風に揺られ踊っている。

 そんな楽園のような場所に建つ小ぢんまりとした家は煙突から煙を吐いていた。


「あの家や」


 すると若干の驚きと若干の感動を混ぜ合わせた感覚を抱えながら辺りを見回していた優也の頭に白兎が飛び乗る。


「ほれ行くんや兄ちゃん」


 白兎はそう言いながら優也の頭を軽く叩いた。


「はいはい」


 そしてまるで白兎が操るロボットのように返事をした優也は歩き出した。ノアもその後に続いて歩き出すが、すぐに歩みを止めると後ろを振り返る。この場所に不釣り合いな鳥居を気がかりがあるような様子で眺めていた。


「ノア! 行くよ」


 だが名前を呼ばれ我に返ったように動き出し、先を歩いていた優也の方を向いた。


「あぁ」


 そして返事をするともう一度鳥居の方を振り返り優也の後を追った。

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