【69滴+】九十九の赤いバラをあなたへ2
「青木ヶ原を住処にしているといわられている御伽だ。これは本当かどうかは分かってないんだが、御伽に関することなら何でも知っていると言われている」
「何でも。ですか……」
「種族について、御伽側で起きた事について何でもという噂だ」
「もし居るならぜひ話を聞きたいですね」
「私もだよ。だが、存在自体が都市伝説レベルだからね。どうだろうか」
そしてとりあえず目的の話をすることが出来た優也らは席を立ち上がった。
「それでは、魚住さんを待たせてしまっているのでそろそろ行きます」
「わざわざ来てもらったのにすまなかった」
「いえ、突然お邪魔したのにありがとうございました」
お辞儀をしてお礼を言った優也に森川は手を差し出した。
「また来てくれ。といっても気軽に来やすい場所じゃないがね」
「また来ます。森川さんも体に気をつけてくださいね。それと、また会えるといいですね」
優也と握手を交わした森川は続いてノアにも手を差し出した。
「今度は色んなお菓子を用意して待ってるよ」
「おっ! 次来るときが楽しみだな!」
二人は別れの握手を交わし終えると家を出て来た道を戻り始める。森川も外に出ると二人が見えなくなるまで見送った。
「なぁ」
船に戻っている途中、ふいにノアが優也を呼んだ。
「ん? 何?」
「あのじーさんが話してた着物のやつって玉藻前じゃねーのか?」
「奇遇だね。僕もそう思ってたんだ。でも、どうだろうね」
「そう思ってたんなら言ってやればよかったのに」
「確信もないし、変な期待させちゃうかもしれないじゃん。それに森川さんにとって僕らは人間なんだからさ」
「まぁ、お前がいいんなら別にいいけどよ」
そんな話をしているとすぐに浮桟橋は見えてきた。
「魚住さん、今戻りました」
「おう、もう戻ったか」
船尾側で釣りをしていた誠栄が振り向きながら返事をした。まだ釣り糸を海に垂らしていたが直ぐに巻取って片づけ始める。
「釣れましたか?」
「いや釣れてない。そもそも釣る目的でやってなかったからな」
「釣ることが目的じゃない釣りですか?」
優也の頭上に釣り上げられた疑問符は出来たての新鮮。
「昔から釣り糸垂らしてぼーっと海を眺めるのが好きなんだよ。だから、この釣竿には餌どころか釣り針もついてない」
「それって釣竿必要ですか?」
「俺も何でかは分からんが必要なんだよ。まっ! 深く考えるだけ無駄だな」
誠栄は豪快な笑い声上げながら運転席へと向かった。そして再び二十分程の時間をかけて戻ると誠栄にお礼を言い二人は船を降りた。
「で? 次はどうすんだ? ルグーグってやつを探すのか?」
「何でも知ってるって言われちゃ会いに行かない訳にはいかないでしょ。ノアはこの名前に聞き覚えないの?」
「ねーなぁ。マーリンならなんか知ってるんじゃねーか?」
「そうだね。聞いてみようか」
そうと決まると早速スマホを取り出しマーリンへ電話をかける。
「あっ、もしもし」
「おっ! この声は。久しぶりの少年じゃない」
弾んだ声に何年も会ってないかのような懐かしさを感じた優也は自然と口角を上げていた。
「お久しぶりです。色々と迷惑かけちゃてすみません」
「いいのよ。それよりどうしたの?」
「あの、ルグーグって名前に聞き覚えありますか?」
「んー、無いわね」
マーリンは椅子を回転させ近くにいるアモの方を向いた。
「アンタ、ルグーグって聞いたことある?」
「ルグーグですか……聞き覚えはある気がしますね。他に情報はないんでしょうか?」
そう言われたマーリンは通話をスピーカーにした。
「他に情報ないの少年?」
「青木ヶ原を住処にしているといわれているらしいですよ」
「青木ヶ原……富士の樹海ですか」
目を瞑ったアモは少し記憶の宮殿を歩き――ある情報を見つけた。
「フーヤ。ルグーグ・フーヤ。思い出しました。小さい頃、古い書物で読んだことがあります。ルグーグ・フーヤ、
「そんなすごい書物があるなんて知らなかったわ」
マーリンはその古い書物に興味を鷲掴みにされているようだった。
「じゃあ、そのルグーグって方に会うにはまず青木ヶ原に向かえばいいってことですね」
「ですがその為には結界の入り口を見つける必要があります」
「それって僕らでも出来ますか?」
「結界の入り口っていうのは、大体二種類に分かれるの。特定の何かに反応して開くタイプ。これは入り口の発見はさほど難しくないけど開くのが難しいタイプね。二つ目は常に開いているけど発見が難しいタイプ。例外もあるけれどほとんどがこの二種類よ」
電話越しだったがマーリンは指を立てながら説明していた。
「一の場合だったら僕らじゃ無理ですよね?」
「そうね。もしその場合ならアタシかアモが行くしかないわね。まぁ、まずは探してみなさい」
「何か目印みたいなのはないんですか?」
「一の場合は微かに違和感みたいなものを感じると思うわ。二の場合はとにかく探すしかないわね。ひとつアドバイスするなら視覚は信じないこと。そうねー、少年に分かり易く例えるなら九と四分の三番線ってところかしらね」
「えっ! それ知ってるんですか?」
思わぬ名前に驚きを隠せない優也の声が上がる。
「アタシあれ結構好きよ」
「見たことあるんですね意外です。それにしても違和感ですか……」
そう言われてもいまいちピンとは来ない。
「大体の御伽には人間で言うところの第六感にあたる感覚があります。個人や鍛え方によって差は天と地ほど開きますが、吸血鬼でしたら生まれつきある程度は鋭いので探すことは可能なはずですよ」
「なるほど。とりあえず青木ヶ原に向かってみます。見つけられそうになかったらまた連絡するかもしれません」
「分かったわ。頑張ってね」
電話を終えた優也はノアと共に早速、次の目的地である青木ヶ原へと向かった。
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