【64+滴】榊原真人と六条優也2
「その依頼内容というのは、そちら側――つまり御伽について色々と情報が欲しい。ということだ」
「僕に仲間を売れということですか?」
「住処や居場所を教えてくれと言っているわけではない。現状の勢力図や情勢を教えて欲しいだけだ」
唐突な依頼に当然ながら迷い悩んだ。
だがそう簡単に答えが出ないことは明白。それに加え優也自身そこまで情報を持っている訳じゃない。
「僕もまだそんなによく知らないですし、何より一人で決めていいことではないと思うので今すぐ返事はできません」
「あぁもちろん構わない。急にすまないな」
「いえ、そんなことは」
「では。もう他に何も無ければそろそろ仕事に戻るとするよ」
そう言い立ち上がろうとした榊原だったが優也がそれを止めた。
「最後に一つお訊きしたいんですが」
「何だ?」
「僕がこんなことを訊くのはおかしいと思いますが――しかもそんなお願いをされた後に。あの、御伽について詳しい人を知りませんか? 歴史とかどんな種族がいるとか」
あまり考える時間は要せず榊原の頭には思い当たる人物が浮かび上がったようですぐに答えは返ってきた。
「御伽について研究している人物を一人知っている。正しいかは別として私の知る限りではそういう事に関しては彼が一番知っているだろう」
「その方の名前って……」
「森川茂正先生。元々妖怪関連について研究していたが現在は御伽について研究している。先生に会いたいのか?」
「はい」
「その研究の性質上、森川先生は政府と契約を結んでいる。もし御伽について訊くなら許可書を書こう」
「ありがとうござます」
立ち上がった榊原はデスクに行き引き出しから書類を取り出すと流れるようにサインし封筒に入れた。
「先生は日本海に浮かぶ孤島、小ノ
榊原はソファへ戻り付箋が張られた封筒を渡した。
「秋田県の幸ノ
「こんなにしてもらって感謝します」
「いいさこれぐらい。さて、私は夏希に怒られる前に仕事に戻るよ」
「長居してすみませんでした」
「君のおかげで休憩時間が延びた。普段ならすぐに夏希に怒られるからな」
そして二人は最後に別れの握手を交わした。
「夏希!」
それから榊原の少し大きな声に呼ばれ秘書室のドアが開いた。
「なんですかー?」
「六条君を下まで送ってくれ」
「はーい」
返事をすると一度中へ戻る夏希。
「ちゃんと靴を履けよ」
「はいはーい」
夏希の姿が秘書室に消えると榊原は優也へ視線を戻す。
「ありがとうございました」
最後にもう一度お礼を言った優也は夏希と共にエレベーターへ乗りロビーへ。
そして夏希に見送られ受付で外したIDBを返すとビルの外へ出た。
「秋田かー」
優也は無いとわかっていたがポケットを触り財布を確認した。
「どうやって行こう」
悩みながら何となく封筒へ目をやると裏側に一枚付箋が貼られていた。
その付箋には――。
『行く方法がないのなら空港へ向かうといい航空券は手配しておく』
その下には書き足されたように。
『空港へは封筒の中に入れておいたタクシー代を使うといい』
と書かれていた。封筒の中を見てみるとそこに入っていたのは二万円。
優也はビルの方を向くと見えないと分かっていながらも頭を下げた。
「本当にありがとうございます」
そしてタクシーを拾い羽田空港へ行くと飛行機で秋田空港へ。余ったお金を使いメモにあった旅館『幸ノ村』まで向かった。
タクシーを降りるとそこには自然に囲まれ忙しい日常を忘れさせてくれそうな落ち着いた雰囲気の旅館。門を過ぎると等間隔で置かれた石の道が入り口まで導いてくれていた。
そして入り口までいくと和風のドアを開いて中へと入る。そんな彼を広めの玄関が出迎えた。
「すみませーん」
その声に少しして綺麗な着物を身に纏った女将らしき女性がやってきた。
「幸ノ村へようこそいらっしゃいました」
「あの、幸江さんという方に用があるんですが……」
「幸江は私ですが……あっ、六条優也さんですね。榊原さんからお話は伺っております」
軽くお辞儀をする幸江を見る限り話は全て伝わっているようだったので、優也は早速本題へ。
「それじゃあ、早速で申し訳ないんですが船を出してもらってもいいですか?」
だが幸江の顔からは笑みが消え申し訳なさそうな表情が顔を出した。
「それが船は只今、修理中でして……」
「え!? どれぐらいで直るんですか?」
「二~三日で終わると思うんですけど。ハッキリしたことは申し上げられません」
「そうですか」
船に関しては仕方が無いとすぐに受け入れた優也だったが、問題は夜を過ごす場所もお金も無いという事。余った時間を――それよりまずは今夜をどうするか、それは表情にも表れていた。
「もしお待ちになられるのであればお部屋をご用意させていただきます」
「いや……でも、僕お金を持ってないので」
「いえいえ、代金はいりません」
「でもそういうわけには」
だが結局、行く当ても無いということもあり優也はその言葉に甘えさせて貰う事に。
そして女将に連れられ向かった先にあったのは、廊下で繋がった離れ屋。
そこは昔の日本へタイムスリップしたような客室だった。囲炉裏や檜風呂・露天風呂、ハンモックなどがあり部屋というよりは家。
「え? こんなに良い部屋で大丈夫なんですか?」
「丁度空いていましたのでご安心ください。それではごゆっくりどぞ」
「ありがとうございます」
幸江は出る前に一礼すると静かに襖を閉めた。
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