【50+滴】ミスディレクション2

 <部屋に入る前>


「玉藻前さん、姿を隠すことはできますか?」

「もちろん出来んでぇ。完璧とまではいかへんけどなぁ」

「それって幻影もですよね?」

「そやね」

「それじゃあ、部屋に入ったらまず玉藻前さん自身は鬼手に化けて幻影と入れ替わりノアの攻撃と一緒に飛んで行ってください。わざと外して後ろに回りこみます」

「似せられるんは見た目だけやで?」

「十分です」


 優也は頷きながら答える。


「もし相手が防いだらどーすんだよ?」

「わざわざ当たらない二発目も防ぐ?」

「まぁ、そうだな」


 その言葉にノアは納得した様子だった。


「そしてノアが話し始めたら相手の横辺り、部屋の端に姿を隠した幻影を出してください。相手が気が付くぐらいの気配は出してくださいね」

「相手がわらわをやったと思ってる隙にドアを出るってことやな」

「本当に殺したと思うか? あっさりすぎるだろ?」

「殺したと思われなくてもこっそり先に進もうとするのを防いだと思わせられれば少しは時間が稼げるでしょ」

「それともうひとつ」


 ノアは重要そうな表情で指を立てた。


「何を話せばいいんだよ?」

「何でもいいよ。適当に」


 そして中に入ると鬼手に化けた玉藻前は姑獲鳥の顔横を通りすぎ、後ろの襖まで行くことに成功した。ノアの声が聞こえると鬼手のまま幻影を出す。姑獲鳥が幻影を攻撃しノアと優也が近づいたのを確認すると襖に近づき元に戻ってこっそりと先を急いだのだった。




 一連のネタ晴らしに姑獲鳥は依然と顔を歪めたまま。


「騙したのね」

「上手くいって良かった」


 ホッと安堵の溜息を交らせる優也は、少しもう終わった気持ちだった。


「おしゃべりしてーんだろ? 今なら少しぐらい付き合ってやるぜ」


 だが悠々としたノアの言葉を無視した姑獲鳥は翼を広げると空へと飛び立った。


「まぁいいわ! どうせ楽しんだら彼女は隠神様の所に行かせようと思ってたのよ」


 先程のイラついた表情から一変し、笑みを浮かべた姑獲鳥が両翼を扇ぐと無数の黒羽が地上へと降り注ぐ。

 二人はすぐさまその場から離れ避けると、優也は壁をひと蹴りし空中の姑獲鳥に接近。そして握った拳で殴り掛かるが、それはあっさりと翼で防がれた。翼と拳がぶつかった瞬間、手から伝わる電気のような衝撃。

 その所為で次の行動に移るのが遅れた優也を、姑獲鳥は翼を開きながら床まで送り返す。背中で不時着した優也は起き上がると痛みを逃がそうと右手を何度も振った。


「ノア! あの翼とっても硬いから気をつけて!」

「おっけー」


 姑獲鳥は頭上から聞こえた返事に空を見上げた。

 ノアの姿が一瞬見えた後、眼前に現れた鬼手がその姿を隠す。だが間一髪のところで翼を盾としそれを防いだ。

 しかし真上からの攻撃を両翼で防いだことで、連鎖的に懐に出来た隙。それを狙ったノアは懐えと潜り込む。上手く隙を突けたと笑みを浮かべ殴り掛かろうとしたノアだったが、脚を何かに掴まれた。

 手を止め視線を感覚の場所へ向けると、姑獲鳥の鷹のような足が獲物を捕らえるが如く脚を掴んでいた。

 それを確認した直後、ノアは床へと全力で投げ飛ばされた。既に下へと戻っていた優也はそれを見るや否や瞬時に落下地点を予測しノアをキャッチ。だが勢いは抑えきれずソリのように床を滑っていった。

 その間、姑獲鳥を見続けていたノアはニヤリ不敵な笑みと共に中指を立てた


「落ちろ」


 それと同時に、いつの間に出していたのか鬼手は姑獲鳥へと殴り掛かった。

 そして速度が落ち、最後は壁にそっと当たって止まった優也。

 一方で姑獲鳥は隕石の如く壁まで殴り飛ばされていた。

 先に立ち上がった優也とノアは塵煙を吐く壁を見つめる。

 すると突如、塵煙を掻き消しながら巨大な竜巻が巻き起こった。竜巻は周囲の空気を巻き込み上へ上へと渦巻いてゆく。

 突然の事に二人は何かをするより先に、その竜巻へと有無を言わさず呑み込まれては身動きが取れないまま宙へ飛ばされてしまった。

 だが一方で巻き起こる風など関係なしに飛び回る姑獲鳥。一人自由に動く彼女は容赦なく攻撃を繰り返す。まさに彼女の独壇場。

 それから暫く弄ばれるように攻撃を受け続けるしかなかった二人。体へは一つまた一つと傷が増えていく。

 そしてようやく竜巻が止むと二人は用済みと言わんばかりに宙へと放り出され、体は傷を再生しながらも床へと落ちていった。

 無抵抗のまま最後の一撃として叩きつけられたノアと優也の元へ降りてきた姑獲鳥だったが、その表情には勝ち誇った笑みが浮かんでいる。


「もっと楽しめると思ったのに残念ね」


 そんな彼女に対し、突然起き上がったノアは勢いそのまま殴り掛る。

 だがその拳は足に鷲掴みされた。

 しかしそれは予想済みなのか瞬時にその足首をもう片方の手で押さえつけては、残りの片足を寝転がりながら両足で拘束。ノアの行動に理解出来ないといった表情を浮かべる姑獲鳥の横には、優也が僅かにふらつきながらも立っていた。

 そして優也は振り上げた足で姑獲鳥の鳩尾辺りを、今までやられた分を返すと言わんばかりの力で蹴り飛ばす。一方でノアは優也の蹴りが減り込んだと同時に両足を放す。

 優也に蹴り飛ばされた姑獲鳥の体は、地面を何度か跳ねながらも最後は壁へ激突。破片を辺りへ飛び散らせながらも煙すら晴れぬ内に、彼女は姿を現した。数歩進むんだ所で止まった足。

 そして多少なりとも傷を与えた姑獲鳥と二人は視線と視線を合わせた。

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