【50滴】ミスディレクション
レイとアゲハを信じ先へと足を進めたノア、玉藻前、優也の三人は大扉を前に一度立ち止まっていた。
「やっと部屋かよ」
「この部屋に敵がいると思う?」
溜息交じりのノアに優也はドアを指差しながら意見を求めた。
だがそれに答えたのは玉藻前
「おると思うで。海座頭か
「入ってみれば分かるだろ」
楽観的な様子でそう言いながらノアはドアノブへと手を伸ばすが、それを優也が止めた。
「なんだよ」
眉間へ小皺を寄せるノア。
「ちょっと待って。ここに入ってから窓も無くて外の時間が分からないから、どれくらい時間が残ってるか分からないんだよ?」
「だから早く進んだ方がいいだろ」
そしてノアは再度ドアを開けようとするが、先ほどを再現しただけだった。
「中にいる敵は足止めしようとしてくるかも」
「だから何が言いてーんだよ?」
その声に若干の苛立ちが伺えるのは、二度も止められたからなのか、それとも優也がハッキリとしないからなのか。どちらにせよ、ノアの手は言葉と共にドアノブから離れていった。
「つまり、敵が足止めしようと思ってても思って無くても玉藻前さんを先に行かせようってこと」
「そらぁ、どうするん?」
「まず中に入ります――」
ドアを開け中へ足を踏み入れてみるとそこは天井が体育館のように高い部屋だった。
そしてそこには玉藻前の予想通り敵が一人。パーマの掛かったミディアムヘアにショートパンツ、上半身にはベアトップを着た姑獲鳥。両手は黒羽の翼になっており、足は鷹のように尖鋭な爪の四本指となっている。
そして姑獲鳥の後方には先に続くであろう襖。
『この時、僕達と一緒にいる玉藻前さんは本物じゃなくて幻影。中に入って敵を確認できたらノアはすぐに鬼手で攻撃を仕掛けて。玉藻前さん、姿を隠すことはできますか?』
予定通り拳を握った二発の鬼手は、挨拶も無しに最速で姑獲鳥に殴り掛かる。
だが一発は翼で防がれ、もう一発は対処するまでもなく顔を外れ横を通り過ぎていった。
『注意を引き付けてその間に姿を隠した玉藻前さんが端を通って行く。僕らと一緒にいる玉藻前さんと姿を隠し進む玉藻前さん。これで成功するよ。後は、僕らが気を引くだけ』
真正面から殴り掛かったものの黒い翼に防がれた鬼手は呆気なく崩れ去った。
「いきなり殴り掛かってくるなんて物騒ね」
「ならおしゃべりでもしたかったのか?」
「少しはいいでしょ」
「随分と余裕じゃねーか」
「こういうゲームは楽しまなきゃ」
「悪いですけど、僕達には時間がないんです」
「そうみたいね」
すると姑獲鳥は折り曲げた左の翼を真横へと振った。それと同時に翼から飛び出した数十枚の黒羽が姿を隠して移動する玉藻前を捉える。
黒羽が突き刺さり姿が露となった玉藻前はそのまま踏み出していた一歩を追うように倒れていった。首や脚、腕や顔――黒羽が刺さった部分からは容赦なく血が滲む。
「こっそりなんてつれないわね。そんな幻影まで作って気がつかないとでも思ったの?」
そう言いながら姑獲鳥が飛ばした一枚の黒羽が二人と共にいた玉藻前を貫くとその幻影は霧のように消えた。
だがノアと優也はそれどころではない。すぐさま急いで玉藻前へと駆け寄る。
「おい!」
「大丈夫ですか!」
「やっぱりこんなんじゃ甘かったんだよ」
「ノアだって納得したじゃん!」
「お前が大丈夫だって自信満々に言うからだろ」
「何だよ! 今更!」
「チッ! おい! 大丈夫か?」
ぐったりと力の入っていない玉藻前を抱き上げ声を掛けるが返事は無い。その間も彼女の肌を鮮血が伝う。
「あぁ~ごめんねぇ。殺さないようにしたんだけど見えなかったからつい」
そんな二人を見ながら姑獲鳥はニヤり口角を上げた口元を翼で隠しながら空々しく言葉を並べた。
「成功するって言ったくせに!」
するとノアは優也を指差し、優也もそれに反論。
だがそんな言い合いをしている二人をご機嫌そうに眺めていた姑獲鳥はあることに気がついた。
それはノアの抱き上げていたはずの玉藻前が消えているということに。姑獲鳥はそれに気が付くと慌てて後ろを振り返るが、閉まっていたはずの襖はすでに開けっ放し。
「だから成功したでしょ?」
襖の開いた隙間以上に目を見開き戸惑いを隠せずにいる姑獲鳥は、優也の声で再び二人へと視線を戻す。
「そうだな」
先ほどとは打って変わり二人は勝ち誇ったような表情のまま乾杯するように拳同士を軽くぶつけた。
「どういうこと!」
姑獲鳥は一杯食わされたことに対しての憤懣で顔を酷く歪めていた。
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