【45+滴】Contrato Con la Muerte2
――丁度その頃、ノアと優也は森の中の川沿いを歩いていた。
「見渡す限り木、だな」
「風で揺れる葉の音、水の流れる音。なんか落ち着かない?」
「確かによく眠れそうだな」
「んー。そういうこと?」
言いたい事とは違っていたが分からなくも無かったのでよしとした。と優也がそんなことを考えている間に、ノアは川の中に無作為に置かれた岩のひとつへ飛び乗った。岩に着地するや否や落ちそうになるが腕を振り体を反らし、なんとか耐える。
そして優也は川沿いをノアは岩から岩へと飛び移りながら更に奥へと進んで行った。
「ノアってさ。戦ってる時たまに笑ってるけど、そんなに楽しいの?」
「おいおい。人を戦闘狂みたいに言うんじゃねーよ」
岩に飛び移ったノアは眉を顰ませた顔を川沿いを歩く優也へと向けた。
「片足ぐらいは突っ込んでるんじゃない」
「確かにつえー奴とやんのは燃えるけど、別に命のやり取りにテンションが上がってるわけじゃねーよ」
「三度の飯より戦いが好き?」
「まさか! 飯のほうがいいに決まってるだろ! 美味いし。特にアモの作る飯はどれもうめーからな。一生食ってられるぜ」
「僕もあれぐらいは……出来ないけど。美味しい料理、作れるよ」
突然、張り合いだし少しムキになった声になる優也。だが自分でも分かっていたが、結果は食べ比べるまでも無く完敗。
「何ムキになってるんだよ」
「なってないよ」
それから暫く歩くと二人は大きな滝に辿り着いた。
「おぉー! すっげーな」
「わぁー。初めて生で見た」
感嘆の声を漏らした二人は早速、滝壷の近くにある巨大な岩上に登り滝へ更に近づいた。上から下へ。流れ落ちる水の束は迫力満点で自然の力強さを感じさせる。
「迫力あるなぁ」
感動に表情を緩めながら滝を眺め、そう呟く優也。そんな優也の後ろでノアは、一人ハッとした表情をすると悪い笑みを浮かべていた。
すると、ノアは足音を立てぬよう静かーに優也へ近づき両手を構えると、最後は力強く背中を押しその体を滝壺へと突き落とした。傍から見れば崖から突き落とす殺人現場だろう。
「え?」
背中へ衝撃を感じたかと思うと気が付けば体は空中。一瞬思考が停止した優也だったが、もはや意思とは関係なく叫声を上げながら滝壺へと吸い込まれるように落ちていく。
そして程なくして滝壺からは水飛沫が空へ手を伸ばすように高く上がった。その水飛沫が滝壺へと帰りると、間を置いて水面から顔を出した優也は岩上でご満悦に笑うノアを見上げる。
「何するの!? ビックリするじゃん!」
「いやー、わりぃわりぃ」
あまり悪いとは思ってなさそうな謝罪を受け取ると優也は登り易そうな場所まで泳ぎ、ノアも笑いの余韻を残したまま下へ。
そして泳いできた優也に上から手を差し出した。
「ほらよ」
「ありがと」
お礼を口にしながら優也は差し出された手を握った。
その瞬間、優也は逃がさぬよう手を強く握り締め全力でその手を引っ張った。不意を突かれたノアは抵抗する間もなく水へと引きずり込まれる。自分の意思ではなく強制的に水へと飛び込まされたノアは上がった水飛沫の後に水面へ顔を出した。
「お返し」
「ったくやられたぜ」
笑みを浮かべながらノアは水面を払い水飛沫を浴びせた。
そして二人は水から上がると再び滝が間近で見られる岩の上へと登った。
「あーあ、服が水浸しだよ」
そう呟く優也は岩の上で脱いだ白シャツの水を絞りながら視線をノアの方へ。彼女は既に脱いだジャケットとパーカー、黒いパンツを岩に寝転ばせていた。そんな上は薄手のインナーに下は下着という姿となったノアを唖然としながら数秒見つめると、優也は我に返り少し赤面した顔を逸らす。
「な、何やってるの?」
「何って、そりゃ……」
言葉を止めたノアは滝壷に向かって走り出し、大きく跳んだ。
「遊ぶに決まってるだろ」
滝の音に負けないぐらい大きな声が聞こえた頃には彼女の体は空中。数秒後、下の方で水飛沫が上がり遅れて水面からノアが顔を出す。
「来いよユウ!」
「僕はいいよ」
「何言ってんだよ。ほら早く」
手招きをするノア。その表情には子どものような笑顔が浮かんでいた。
「――分かったよ」
渋々、そう返事をすると服を脱ぎ乾くように置く。そしてTシャツと下着姿になった優也は滝壺を一度覗き、飛び込もうとしたが直前で躊躇し立ち止まってしまった。
だが直ぐに意を決し再び下がると助走をつけ、そのまま飛び立ってしまいそうな勢いで跳んだ。今度は自分の意志で。数秒の落下旅行を経て優也の体を冷たい水が包み込む。
それから何度も岩に登っては飛び込んだり、泳いだりと夏休みの子どものように遊んでいた二人は心の底から楽しそうだった。
そしていつしか遊び疲れ滝壺から岩に上がる頃、空では所々で星は目覚め出し夕日は舟を漕ぎ始めていた。
「服は乾いてるけどタオル無いから今着たらまた濡れない?」
「それもそうだな。まぁ、疲れたし体が少し乾くまで休むか」
二人はそれから暫くの間、岩上で寝転がり体を乾かしていた。
「いいな。この島。毎日が楽しそうで飽きなさそうだし」
「玉藻前さんたちが住む理由が分かるね」
「俺もこういうとこ住みてーなー。――いや、ここじゃまだ足りねーな。あと断崖絶壁と昼寝にちょうどいい丘がほしい」
「それは欲張り過ぎだと思うけど。ていうか断崖絶壁って何?」
「そりゃあ、崖登りするに決まってるだろ。滝が流れてる場所だとなおよし。ここはちっと、ちげーかな」
それからも他愛のない会話をしていた二人の遥か上空では、暗くなり始めた空で星々が本格的に活動を開始していた。
「暗くなってきたしそろそろ戻ろうか」
「そうだな」
起き上がった優也は早速、乾いた服を着始める。
「そういや上、着たままだったからまだ濡れてるな」
聞こえてきたその声に優也はノアへ背を向けた。
「着終わったら言ってね」
そして優也より僅かに遅れ、ノアの声が終わりを告げた。
「終わったぞ」
「じゃあ行こうか」
振り返りながらそう言った優也の目に映ったのは、インナーとパーカーを手に持ち下着の上からジャケットを着たノア。
「さすがにさ。前、閉めてくれない?」
「嫌だよ。窮屈だろ」
「そのままだと気になるっていうか……。あんまり良くないんじゃない?」
「何がだよ。別にいーだろ。ほら、行くぞ」
そしてそう言って先に行ってしまったノアの後を追い、二人は来た道を通り小屋へと戻った。
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