【45滴】Contrato Con la Muerte
黒い壁に囲まれている所為か部屋の中はマーリンと玉藻前が挟むテーブル以外、疎らに星が光る広大な空間が宇宙のように広がっていた。
すると二人それぞれ前へ浮き出るように白紙の古びた紙が一枚ずつ。それと同時にテーブル横には大鎌を手に黒いローブを身に着けた立会者が姿を現した。被っているフードの中には顔などなく覗き込めば吸い込まれそうな果てしない闇。
「その手を、契約書へ」
立会者は低く喉元に刃を添えるような声で指示を出し始める。
二人はその指示に従い、古びた紙の上に手を乗せた。その瞬間、紙から飛び出してきた鎌の先端が掌を貫く。激しい痛みの所為か二人は一瞬、顔を歪めるが刃は直ぐに引っ込んだ。
直後、玉藻前は痛みに引いた手をすぐさま確認するが、そこには貫通の穴どころか傷ひとつ――鮮血一滴たりとも無い。その間、紙上では手から流れた血が見たことない文字を形成していく。
そして、瞬く間に血文字で書かれた契約書が完成した。
「述べよ」
その言葉と共に立会者のフードはマーリンへ向いた。
「報復が終わるまで共に戦い、力を貸す」
「誓いの血印を」
マーリンはその指示に従い契約書の隣に飛び出してきた針へ親指を軽く押し当てる。そして溢れ出した血で球体が出来た親指を契約書の右下――自分の名前の横に押しつけ、血印を押した。
それを確認すると立会者のフードは次に玉藻前へ。
「述べよ」
「そやなぁ。――わらわの報復後、左手で彼女と握手するまでは協力したる。もちろん彼女の意思でな」
「誓いの血印を」
そして玉藻前も同じく契約書に血印を押した。
「同意の印を」
その声でそれぞれの目前に置かれていた契約書は卓上を滑り入れ替わった。目の前に来た契約書へ玉藻前は躊躇いなく(マーリンの血印の横に)自分の血印を押し、それを見たマーリンも続いて親指を押し当てた。
そして契約書は再度入れ替わると表が見えるよう浮遊し――かと思えば周囲に激しい光を放ち燃立ち始めた。だが一瞬にして契約書を燃やし尽くした炎はそれでも尚消える事無く、そのまま真っすぐ二人の左薬指へと飛んでは円を描き巻きついた。
そして炎はそのまま染みるように鎮火。二人の薬指には指輪のように一周した鎖の刻印が刻まれていた。
「契約は命よりも重い。果たせねば待つのは死」
そう言い残すと立会者は闇へ溶け込むように消えて行った。
その後、二人が立ち上がると扉は重々しい音を立てながら開き、外へ出ると背後で部屋は一気に崩壊。何も存在しなかったようにそこには破片一つ残ってはいなかった。
「あんな内容。どうなっても知らないわよ」
「かまへん。そもそも、そちが何をしたいのか分からへんしなぁ」
「もしかしたらアタシが一生アンタをいいように利用し続けるかもしれないわよ」
すると玉藻前は胸元から取り出した扇子を笑顔でマーリンの喉に向けた。
「大丈夫やって。その時はそちを殺すからなぁ」
「知ってるでしょ。契約が終わる前に相手を殺せばあなたも死ぬわよ?」
「わらわが殺したらやろ? 最後に息の根を止めるんは他にやらせたらええだけや」
だがマーリンは無駄だと言わんばかりに首を振った。
「――この契約の怖さを分かってないようね。誰が殺すかは関係無いわ。契約が完了する前にアタシが死ねばあなたも道連れよ。他にも制約はあるけど、最終的には互いの契約内容が完了してやっとこの刻印が消え、契約が終わる」
そう言い左薬指を顔に近づけ刻まれた刻印を見せる。
「ほな、別の方法を考えとくわ」
「それにはおよばないわよ。報復が終わった後、ちゃんとアタシ達の目的も話すわ。それが終わったら契約も終わらせるわよ」
「ほな、信用しとるでぇ」
それから二人が小屋へ戻ると中では、きびだんごと抹茶を飲む百鬼の隣でアゲハとレイが口喧嘩をしていた。アゲハの前には少し減ったクッキーとオレンジジュースが並んでいる。
「あたしが呼び戻されなければあんたなんてボコボコよ」
「全く……俺が手加減をしてたのにも気が付かないなんてな」
「まぁあたしだって、二割ぐらいで闘ってたけどね」
「嘘つけ……」
言い合いの最中、開いたドアの音で中にいた全員の目がマーリンと玉藻前へ向いた。
「玉様!」
その姿を見るや否やアゲハは玉藻前に駆け寄る。彼女に続き抹茶で口の中の団子を流した百鬼も玉藻前の元へ。
「契約とやらは済んだんですか?」
「終わったでぇ。せやからこれからは、仲間やから仲良うするんやで」
「……」
だがばつが悪そうに少し視線を逸らすアゲハ。
「どないしたんアゲハ?」
「いえ。頑張ります」
「よろしゅう頼むで」
その間にマーリンはアモと話をしていた。
「少年の姿が見当たらないけど?」
「外にいらっしゃるかと思いますよ。こちらに戻るときに見かけませんでしたか?」
「見てないけど、まぁいいわ。先に玉藻前に話を聞かせてもらうわよ」
「かしこまりました」
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