【37+滴】神家島2

 それに返事をしようとした優也だが敵の気配に顔を向けると、そこには既に斬り掛かる横振りの刀。しかしそれに斬られてしまう前に柄の部分を掴み流れるような手捌きで刀を奪い取り、逆に鎧武者の体を斜めに斬り上げた。斜めに切り分けられた鎧武者の体はゆっくりとずり落ちていくが、そこに血は一滴も見当たらない。

 だがそんなことを気にしている余裕はなく、優也は奥から縦に並び走ってくる三体の鎧武者へと目を向けた。そして鎧武者を確認すると右手に持った刀を持ち替え槍投げのように投げ飛ばす。刀は先頭の一体へと突き刺さるがまだ勢いは収まらず飛び続けた。しかし二体目は前から飛んでくる鎧武者をぎこちない動作で避け走り続ける。三体目は避けきれずに団子状に突き刺さった。結果、刀は串刺しにした二体の鎧武者だけを連れ木の幹にへと終着。

 優也は正面から走って来るこの残りの一体に対し身構えていたのが、横から飛び入り参加で新手が襲い掛かってきた。


「うそっ!」


 唐突な出来事に若干の狼狽えを見せたものの新手の鎧武者は何とか蹴り飛ばした。


「危なかったぁ」


 胸を撫で下ろしながらも直ぐに正面を向き直すが、先程の鎧武者はもう目前まで迫って来ていた。優也と目が合った鎧武者は振り上げていた刀を振り下ろす。


「やばっ!」


 躱すことが出来ない。そう思った優也は咄嗟に両腕を交差させた。

 一方、新鮮な血肉を渇望する刃は空を切り裂きながら腕へと迫るが、それは間に割り込んできた鬼手によって阻まれた。そして鬼手に刀を弾かれた鎧武者は体勢を崩し、優也はその隙を突いて胴へ罅が入る程の蹴りを喰らわせた。


「助かったよ」

「次が来るぞ」


 ノアと優也の周りにはまだ数多くの鎧武者が残っていた。

 そして彼らの背後でもまた、マーリンとレイが大量の鎧武者を相手にしていた。

 マーリンの周りにいくつか浮遊する小さな火球。それらは彼女の手の動きに合わせ一斉に敵の方へ。火球に当たった鎧武者達は一瞬にして全身が燃え盛る炎に包まれた。燃やされている苦痛の所為なのか鎧武者たちは頭を抱え悶えているようだった。

 その様子を見いてたマーリンへ真横から刀が襲い掛かる。しかしそれを見る事もせず彼女は右手で止めた。一見、素手で止めたように見えるが実際は手と刀の間には見えない壁がありそれが刃を食い止めていたのだ。均衡した押し合いの最中マーリンは伸ばした左手を胴に押し当てる。すると左手から発生した衝撃波が鎧武者を軽々と吹き飛ばした。そして鎧武者が左手から離れると無数の風刃ふうじんを飛ばし追い討ちをかける。蹌踉めきながらも立ち上がった鎧武者の体を風刃が撫でるように通り過ぎると、気持ち良いほど簡単にバラバラとなり地面へ崩れ落ちていった。

 その後、マーリンは別方向にいる数体の敵へ視線を向けると少し広げた左手を下から上へと動かす。それを合図に数体全ての鎧武者は足元から出てた黒い棺桶に呑み込まれた。


「お休み」


 そしてマーリンが左手をゆっくり握ると黒棺桶は収縮していき最後はまるで元よりそこには何もなかったかのように消えてしまった。

 両手で二体の鎧武者の兜を鷲掴みにしたレイは同時に地面へと叩きつける。その衝撃で兜ごと頭は砕け散った。兜の破片を落としながら両手を屍から離し上半身を上げたレイは、休む暇も無く斬り掛かって来ていた鎧武者を殴り飛ばす。

 そしてすぐさま振り返り後ろから襲ってきた刃を左手で掴んだ。


「出直してこいっ!」


 レイは刀を横にズラすと頭を引き頭突きを喰らわせた。ふらつきながら一歩後ろに退く鎧武者だったが、まだ刃を握っていたレイは刀を引き寄せる。そして鎧武者の引き寄せられる力と自分の殴る力を真正面から衝突させた。思わず刀から手を離した鎧武者は六メートルほど飛ばされた。

 しかしそれを見ることなくレイは左手に持ったままの刀を宙へ軽く投げ柄に持ち替えた後、両手で柄を握りその場で軽く素振りを二~三回。感触を確かめたのかレイは前から続々とやってくる鎧武者達へ刃先を向けた。


「よ~し、次はこいつで相手してやる。俺の刀捌きにビビるなよ」


 そしてまず最初に振り下ろされた刀を受け流して隙を作ると、一切突っかかることなく滑らかに体を斜めに斬った。二つに切り分けられた鎧武者が倒れると柄から左手を離しその屍を跨ぎ次の敵へ。

 右斜め前から歩み寄ってくる敵の左足を掬うように斬るとバランスを崩した鎧武者は短くなった片足が地面に着けた。そんな鎧武者を横目にレイは刀を左手に持ち替えると正面の新手の首を刎ねた。だが宙を舞う兜付きの頭などには見向きもせず、更に寄って来る鎧武者に目をやりながら後方の足が短くなった鎧武者の頭へと刀を突き止めを刺す。

 そして確認していた五体の鎧武者を流れるように処理した。

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