【38滴】狐面の少女

 無数に散らばる鎧武者の屍。その中に刀の峰を肩に乗せたレイは立っていた。胸の中で一息つくとレイは辺りを見回しもう敵がいないことを確認するとマーリンの元へ。

 同様に彼女の周りにも転がっていた数え切れない程の屍。そんな中、上半身だけしかない鎧武者が忍び寄るように背後からマーリンへ手を伸ばそうとしていたが、頭上から降ってきた刀に刺されロウソクの程度しかない生命の炎はふっと吹き消された。


「とりあえずは片付いたみたいだな」

「あっちも大丈夫そうね」


 マーリンの視線の先では、丁度ノアが最後の一体を片付けていたところ。

 突然現れた鎧武者全てを倒し終えた四人は最初の場所へ再び集まった。


「随分と歓迎してくれてるみてーだな」

「これって僕達がこの島に来たことがバレたってことですよね?」

「誰かまで特定できているかは分からないけどそういうことね」

「あー、ちょっといいか?」


 その声にノア・マーリン・優也は同時に視線をレイへ移した。レイはそこら辺に転がっている鎧武者を指差している。その指の先では鎧武者の残骸が徐々に霧となって消えていっていた。


「悪い予感しかしないのは俺だけか?」


 そして霧となった全ての鎧武者は四人が森に入るのを阻むように一箇所に集まり渦を巻き始める。段々と規模を大きくしていきついには渦というより竜巻となったそれは一気に晴れた。中から姿を現したのは、さっきまでのとは比べ物にならない巨大な図体をした鎧武者。それに加え巨大鎧武者の足元では数多くの鎧武者が地面から這い出している。

 四人は一列に並びその巨大鎧武者を見上げた。


「でっけー」

「はぁー。巨大化ねー」

「おいおい、まじかよ」

「これって良くないパターンですよね?」


 そんな四人を他所に巨大鎧武者はその図体に見合った刀を両手で頭上まで振り上げる。そして刀は四人を分断するように振り下ろされた。マーリンとノアは左へ、優也とレイは右へ。


「こいつはちょっと面倒だな」

「作戦はDに移行よ!」


 マーリンはレイ達の方を向いて叫ぶ。その言葉に優也とレイ、マーリンとノアはそれぞれのグループに別れて左右へ走り、違う場所から森へと入って行った。

 森の中はさっきまでの戦いが嘘のように静まり返っていた。蒼穹のように頭上に広がる緑、新鮮で澄んだ空気、一歩一歩踏みしめる大地の安心感。静寂と神秘的な雰囲気の木漏れ日も合わさり心地好い空間を作り上げていた。

 森に入り巨大鎧武者も鎧武者も追ってきていないことを確認したレイと優也は更に奥へと進んで行く。だが代わり映えしない森をどんどん進むにつれ方向感覚は徐々に狂わされていった。


「ったく。どこに進めばいいんだか」

「元々どこに屋敷があるかも分かってないからね」

「そうなんだよなぁ」


 それからもレイと優也はしばらく勘を頼りに歩き続けた。


「そういや玉藻前ってかなりの美人らしいぜ。昔、人間のお偉いさんが寵愛して傍においていたが玉藻前の妖力で病に伏したとかなんとか」

「どこからそういう情報を手に入れてるの?」

「色々な奴から。まぁ、その美人の姿も化けてるだけって噂もあるけどな」

「本当の姿は分からないんだね」

「俺は美人だと信じてるぜ」

「その心は?」

「そっちのほうが探すのが楽しいしやる気が出る」

「レイらしいよ」


 会話をしながら適当といっても過言ではないほど何も考えず歩いていた二人だったが、唐突に足が急に止まる。

 その視線の先には弁慶の如く仁王立ちし立ち塞がる狐の面を被った少女。つまみ簪を付けた短い髪、右近下駄を履きピンク色のミニ丈着物を着ていた。そして右手に握る毛槍の鋭く尖った槍頭は空を見上げている。


「ん? 誰だろう」

「優也。気を引き締めろよ」


 ガードが緩い優也に対してレイは瞬時に身構え鋭い眼差しを少女へ向けていた。その声のトーンから多少なりとも緊張感を受け取った優也が再度狐面の目を見たその瞬間、彼の全身を切り刻まれるような感覚が一気に駆け抜けた。


「殺る気満々って感じだな」

「僕達、戦いに来たわけじゃないんです!」

「……」


 しかし少女からの返事は無い。

 すると突然、少女の姿が消えた。レイは真っ先に上を見るが優也は少し遅れてしまう。頭上から降ってきた毛槍を構える少女の一撃が二人を左右に分断した。


「やるしかないみたいだな」


 二人の間に落ちてきた少女を見てレイは一人呟いた。

 そして目で意思疎通をはかったレイと優也は、同時に走り出しタイミングを合わせ左右から殴り掛かった。だが優也の拳は毛槍に止められレイの拳はもう片方の手で止められてしまう。少しの間、鍔迫り合いのようになった後、少女は毛槍を持つ手を内側にクイッと曲げ優也の拳を槍杆から外した。力の均衡が急に崩された優也は覚束ない足取りで前へよろける。

 一方少女は槍を持つ手を内側に曲げた直後、左手からレイの拳を捨てるように離した。そしてよろけながら近づいてきた優也の背中に石突を当てるとレイの方に押し出し自分はそのまま反対側へと移動。転びそうになりながらレイに突進する優也はもう自分で自分を制御出来ずただ慌てていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る