【37滴】神家島

 一ヶ月ほど月日は流れたある日。優也、ノア、レイ、マーリンの四人はひとつの部屋に集まっていた。


「やっと玉藻前たまもえの居場所の大体の目星がついたわ」


 苦労した。その声からはそれが良く伝わってきた。


「その居場所ってどこなんですか?」

神家島しんかとうという島よ」

「そこまで分かってるんなら後はすぐだな」


 ソファに深く腰掛けたレイは悠々とし既に見つかったと言う調子だったが、それに反しマーリンはまだ課題を抱えているような雰囲気で溜息をひとつ。


「あのね――玉藻前は強力な妖術を扱うの。真実を嘘とし、嘘を真実とする。屋敷を隠すなんてお手の物よ。だから、ここからも探すのは困難ってわけ」

「じゃあどーすんだ?」


 マーリンの視線はレイからノアへ。


「あとは、自分の目で探すしかないわね」


 そして翌日。五人は東シナ海に浮かぶ幻の無人島『神家島』に足を踏み入れていた。周りを取り囲む海を背にし、眼前には島の大半を占める広大な森。人の手が一切付いていないありのままの自然が四人を取り囲む。


「さて、ここは既に玉藻前の庭。気を抜かないでね」

「でも、僕らは戦いに来た訳じゃないですよね?」

「知らねー奴が勝手に庭に入ってきたら攻撃すんだろ。ふつー」

「その可能性があるから気をつけるにこしたことはないってことよ。とにかく屋敷を見つけないことには会えないわ」


 するとレイはキョロキョロと辺りを見回し始めた。


「そういや、アモさんは? さっきまで一緒にいたよな?」

「アモには拠点の片付けに行ってもらってるわ。拠点っていっても小さな小屋みたいな場所だけどね」

「おいおい、この島はもう玉藻前の庭なんじゃないのか? 大丈夫なのかよ?」

「小屋の回りだけアタシの結界を張ってるから大丈夫だと思うわよ。保証は出来ないけど」

「おい! お喋りしている間に早速お出迎えが来たみてーだぜ」


 レイとマーリン、優也はその声にそれぞれ辺りへと顔を向けた。

 いつの間にかぐるりと周りには刀を持った鎧武者が数体立っていた。顔には面頬をしており双眸の代わり何かが奥で光り輝いている。


「囲まれちゃってるわね」


 だがその言葉に焦っている様子はない。

 そしてノアと優也、彼らと背中合わせになるようにマーリンとレイが並んだ。


「背中は任せたぜ」

「そっちは任せたわよ」


 そう言うノアへ二体の前後に並ぶ鎧武者は少し覚束ない足取りで一歩一歩。徐々に足を進めていた鎧武者だったが、十メートルほど近づいて来ると突然、先頭の鎧武者は刀を振り上げ小走りで一気に残りの間合いを詰め出した。

 そしてあっという間にノアの眼前まで来ると頭上の刀を振り下ろすが、彼女は片足を軸に体を回転させするりと躱した。まるで余裕を示すように刀は顔先擦れ擦れを通過。空振した鎧武者は振った勢いに引っ張られそのまま目の前を通り過ぎて行った。

 ノアはその鎧武者を無視し、視線を続けて斬りか掛かって来たもう一体の鎧武者へ。前者同様に右手に握られた刀で単純に斬り掛かる。

 だが今回は刃が空を斬った後、ノアは頭上にいた。


「上だっての」


 そして体を捻りながら脳天に足を叩きつけ鎧武者を地面に這い蹲らせた。そのまま鎧武者の上に着地すると走り襲い掛かろうとする追加の鎧武者へ軽く広げた右手を伸ばした。

 すると現れた巨大な鬼手が鎧武者に掴み掛る。一拍遅れ横からは最初に攻撃を躱された鎧武者が再び刀を構え襲い掛かって来ていた。

 だがノアがその鎧武者へ顔を向けると足元から飛び出してきた鬼手が真っ直ぐ顎へ。鎧武者の手から放り出された刀は放物線を描きながら地面へ落ち本体は体を反らせながら飛ばされた。


「寝てろ」


 その体が地面に落ちるまで見守ると右手を握り締め、それに反応した鬼手が掴んでいた鎧武者を握り潰した。

 この時、ノアの背後では新手の鎧武者が既に両手で握った刀を振り上げていた。遅れながら気配を感じ後ろを振り返るが、最早そこまで迫った刃。

 だが刀はノアへ辿り着く前にどこかへ消えてしまった。いや、消えたのは刀だけでない。鎧武者ごと横から蹴り飛ばされ消えていったのだ。


「さんきゅー」


 ノアは助けてくれた優也にお礼を一言。

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