先に動き出したユウヤは真正面から堂々と向かっていく。一方、武士は微動だにせずユウヤの方を向いていたが間合いに入った瞬間に刀を振り上ながらもう片方の手を柄に加えた。

――そして一刀。

それは毎日何千何万と素振りをしてきた達人のような無駄のない見事な一振り。だが、その一刀でユウヤを両断することは叶わず空振りに終わる。その一刀を避けたユウヤは上にいた。上空から武士を見下ろすユウヤの軽く開いた手にはクリスタル型の血化羅が浮いる。そして武士が振り下ろした太刀を戻したのを見たユウヤはその血化羅を握り潰した。すると四方から血化羅の棘が武士を串刺しにしようと飛び出し、上空からはクリスタル型の豪雨が降り注いだ。一気に土煙が舞い上がりそれを眺めながらユウヤは地面に着地する。

「さて、お前はこの程度でやられる雑魚か？それとも...」

ユウヤの言葉を遮るように土煙の中から武士が姿を現す。しかも兜から甲冑にいたるまで全くの無傷。

「少しはやるやつか？答えは後者みたいだな」

そう言うと歩き向かってくる武士に対しユウヤも歩き出した。そして徐々に両者はそのスピードを上げていき最後は走り出す。武士とぶつかる前に血化羅の刀を手に出したユウヤは相手とほぼ同時にそれを振った。刃と刃が衝突すると火花が散り金属の音が鳴り響く。多少の鍔迫り合いはあったもののそれは長くは続かず、押し込めないと思ったのかユウヤは片手に血化羅の銃を出し武士に向けた。だが引き金を引こうと指に力を入れた瞬間、武士の握った拳が先に殴りかかる。殴られたことで照準はズレたが弾丸は武士の顔を捉えた。しかし頬当てを貫通することはできず、それどころか傷ひとつつけられず弾かれる。そしてユウヤの顔へ脳を揺らすほどの衝撃を与えた手はそのまま頭を鷲掴みにし地面へ叩きつけた。まだ殴られた衝撃が治まらなぬうちの叩きつけは頭が割れるのではないかと思わせるほど。草原に這いつくばるように倒れたユウヤの顔からは大量の血が流れ出しあっという間に血だまりを作り出した。だが武士の攻撃はこれだけでは終わらず叩きつけたユウヤが動き出そうとした瞬間にそれを阻止するためか蹴り飛ばす。放物線を描き飛ばされたユウヤは地面に落下すると最後は転がって止まった。

「クソっ！」

すぐさま片膝立ちになったユウヤは血液の混じった唾を吐き捨てるとゆっくりと歩き自分の元に向かっていくる武士を鋭い眼光で睨む。

「ただで済むと思うなよ」

そう言うユウヤの周りには小さな血の玉が数えきれないほど浮かび上がってきた。そしてその玉は一斉に武士に飛んでいく。撃ち出された弾丸の如く猛スピードで飛んでいく。この攻撃に対し武士は歩みを止めることなく太刀一本で玉を防ぎ続けた。だが反撃はそれだけではなかった。武士の両側に地面から浮かび上がるように現れた鬼手。巨人の手ほど大きな鬼手はトラバサミの如く閉じ獲物を潰そうと企む。しかし潰される前に武士は跳んで上空へ脱出。そんな武士を待っていたと言わんばかりに横から血化羅の竜がその身を食らう。武士を食った竜はそのまま空を泳ぐと宙で止まった。すると突然、竜の腹から血が噴き出す。その血と共に武士が飛び出し竜は地に落ちていった。武士はそのままユウヤの目の前に落下し着地。ユウヤは武士の着地と同時に左手に剣を出し、振り上げようとしたが武士の足が剣身を踏みつけそれを阻止する。そして太刀を振りユウヤの左腕を肩の部分で斬った。痛みに顔を歪めるユウヤ。武士は腕を斬るとすぐに真横の地面に太刀を突き刺す。その直後、初めに優也を殺そうとした細長い矢が武士目掛け射られた。だが地面に刺さった太刀に当たり弾け消える。その間に武士の膝蹴りがユウヤの顔に直撃していた。膝蹴りの衝撃で後ろに倒れていくユウヤ。武士は血化羅の剣を足で拾い上げ倒れたユウヤに跨ると剣先を下に向け腹部に突き刺した。剣身の根元まで一気に刺す。そしてそのままゾンビのように襲い掛かろうとした武士を足で止めると押し返し自分の上からどけた。武士は宙で一回転して着地し、ユウヤは腹に刺さった剣を消してから起き上がる。

「この野郎...。ふざけやがって」

それはどす黒い怒りに満ちた言葉だった。ユウヤはそう言うと残った手を開き武士に向ける。すると、武士を中心にして周りには血液が現れ始め球体の形を成し始めた。その球体は人1人は容易に囲えるほどの大きさ。そして球体が完全に内と外を分離するその直前に地面に刺さった太刀が武士の方へ引き寄せられる。滑り込むように太刀は球体内に入り、完全に武士を内側に閉じ込めた球体は地面から少し浮いた。そしてユウヤが手を握っていくつれ球体は小さく縮まっていく。

「これでしまいだ」

そう言い一気に握りつぶそうと手に力を入れるユウヤ。だがその前に球体は縦真っ二つに割れた。

「なっ...」

この技で仕留められる自信があったのかユウヤの表情は驚愕を隠すことはできなかった。そんなユウヤをよそに真っ二つになった球体は爆発と共に消滅した。しかし武士の姿はどこにもない。すると背後に気配を感じたのかユウヤが振り返ろうとした。だがその時、顔の側面に衝撃が走る。蹴り倒されたユウヤは地面で軽く跳ねるとうつ伏せで落ちた。そしてユウヤが地面に手を着け体を起こそうとしていると目の前で臑当を付けた足が立ち止まる。その足から視線を上げていき見上げると武士の赤い光と目があった。それと同時に今度は正面から顔を蹴り飛ばされる。口から血を吐きながら飛ばされたユウヤと地面との間には大人が立って通っても余裕があるほど間隔が開いていた。一方、ユウヤを蹴り飛ばした武士はすぐに太刀を構える。そしてユウヤは地面に落下する前に無数の斬り傷を体中に刻み込んだ。地面に背から落ちたユウヤはボロボロ。そんなユウヤに太刀を地面に刺した武士が馬乗りになると両肩を手で押さえつけ動けないようにする。そして頬当ての口の部分が開いたかと思うと首筋にかぶりついた。武士はゾンビの如く肉を食らい血をすすった。そして抵抗も出来ないままユウヤの意識は徐々に遠のいていく。