【77滴】溺れるほど愛している
それから各々、目の前の料理に伸ばしたお箸を口へと運んでいた。
「さっきの話だけど構わないってことはオッケーってことでいい?」
「いいけど、一体僕と何の話をするの?」
「それは色々」
ただ揶揄ってそう見せているだけなのか春は何か含みがありそうな笑みを浮かべて見せた。
「それじゃ今夜ここで待ってるからね」
「変に歩き回ってアイツと出くわしてもしらねーぞ」
すると向かいから片手に持ったお箸で優也を指しニヤつくノアの声が飛んできた。その言葉に対し訳の分からない春は首を傾げる。
「あいつって?」
「アゲハだよ、アゲハ。今のアイツとユウが顔を合わせるのはマーリンにババアっていうぐらいやべーな」
そう言いつつもノアは少し楽しそうだった。
「もしかしてノアそんなこと言ったことあるの?」
「いや、俺を狙って来たやつが言ってた。キレたマーリンに一瞬で消されたけどな」
お箸を持っていない手を軽く握った後に勢いよく広げノアは小さな爆発を表現した。
「優也君アゲハちゃんに一体何したの?」
ノアの話を聞いた春は少し眉を顰めた苦笑いで優也に真相を尋ねた。
「いやー、それが……」
理由を知らない春にあの出来事を話す優也は思い出し溜息を零しす。
「事故でも年頃の女の子にそんなことしちゃったら嫌われても文句は言えないね」
「もう口利いてくれなかったらどうしよう」
「ちゃんと謝れば分かってくれるよ。きっと。と思う。……多分」
保険の為か自信の無さを際立たせるような不安要素がどんどん追加されていく。
「あんな場所で水浴びするアイツも悪いんじゃねーか?」
「あっそか。二人は知らないんだ」
その言葉にノアと優也は疑問の目を向けた。
「あの場所、玉様がよく水浴びしているの。だから、みんなあまり行かないんだよね。特に男性陣は。それにほら、この島って玉藻家以外いないし」
「そうなんだ。覚えておこう」
「えっ、なに? まさか覗きに行くの?」
春は冗談交じりに冷ややかな視線を送った。
「ち、違うよ」
それに対し優也は必死で両手と首を横に振る。
「行くならバレないようにね。玉様は怒らないと思うけどアゲハちゃんに殺されちゃうよ。多分、自分の時以上に怒ると思うし……うん、確実にその場で殺される」
「だから行かないんだって」
そんなやり取りをしているうちに春は自分の分の料理を食べ切った。
「それじゃあ、私はそろそろ戻るね」
そしてトレイを持ってキッチンへ戻ろうとした春だったが途中でクルッと振り返った。
「今夜ここで待ってるから忘れないでよ」
それだけを言い残すとそのままキッチンへ。
それから先に食べ終わった優也はノアが食べ終わるのを待ち二人共食事を終えると客室へ向かった。もちろんデザートもしっかり食べて。それを忘れるノアではない。
食事の後は少しお腹を落ち着かせお風呂へ。男湯女湯と分れた大浴場は中も広々としていた。そんな大浴場はなんと温泉。肩までしっかり浸かった優也は体の芯から癒された。
そして心も腹も満たされた優也はホカホカした体を動かし部屋へ。中に入るとそこでは先に戻っていたノアが畳の上で更に睡眠欲を満たしている最中だった。それを見ると押し入れに向かい布団を取り出しそっと敷く。ついでに自分の分も敷きノアを一旦起こそうと試みた。だが体を揺すり声をかけるも反応は返ってこない上に目は閉じたままで時折唸るだけ。仕方なく首と膝裏に腕を滑り込ませて持ち上げ、そのまま起こさないようにゆっくりと移動させてあげる。布団まで行くと掛け布団を足でどけてから下ろし、一度どけた掛け布団を丁寧に首まで掛けた。
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