【72滴+】心臓の主2
「彼らの目的がノアだけならどうして力づくで奪いに来ないのかなって思ってたんだ。話を聞く限り僕らと彼らじゃ戦力に差があるみたいだけど、ならなんで総攻撃をしかけてこないんだろうって。そうじゃなくても攻撃の手が緩すぎるんじゃないかって。でも、ノア以外に目的があるのならそこに人員を注いでいるって考えたら納得がいくってことだよ」
「それもあるんかもしれへんが、一番はそっち側の魔女が頑張っとったからやろ」
白兎が横から意見を割り込ませた。
「どういうことですか?」
「直接本人に訊くんやな。それよりここへ来た本来の目的があるやろ」
「――そうでした」
優也は視線をルグーグへと戻す。
「僕を吸血鬼にしてくれたこの心臓の持ち主が誰なのかどんな人だったのかが知りたくてここに来ました」
「はい。それはお教えしましょう。彼の名前は、アレクシス・D《ドラキュラ》・ブラッド。この国に初めてやってきた吸血鬼の一人です。正確に言うならばやってきたではなく連れてこられたですが。当時彼は同族殺しという吸血鬼一族では最大のタブーとされる罪を犯した罪人として拘束されていました」
そのアレクシスという人物がなぜそのようなことをしたのか気になったが、優也は質問を割り込ませることはせずルグーグの話を黙って聴き続けた。
「本来であれば永久追放もしくは即時処刑されるはずでした。ですが当時吸血鬼一族の長であったファルシユ・キングレッドは彼の並外れた強さを扉を開く為に利用しようと考えたのです。入口を見つけたあと彼を使い門番を消耗させる、もし彼が一人で門番を殺しても彼を殺す予定でした。ですが、日本で出会った一人の陰陽師と一人の魔女によって予定は予定で終わりました。彼らはある条件でアレクシス・D・ブラッドの力を、つまり力の源である心臓を取り出すと提案してきたのです。その条件とは十名の吸血鬼の心臓を引き換えに渡すことです。ファルシユ・キングレッドは悩んだ末にその申し出を受け入れました」
「アレクシスってやつはそんなにつえーのか?」
「単純な戦闘能力だけを強さとし、その強さだけを価値とするならば彼は普通の吸血鬼十人と引き換えてもお釣りがくるほどです。それとこれは私の推測ではありますがファルシユ・キングレッドは心臓を自分で使い自身の力を更に高めたかったのではと考えております」
アレクシスの強さに心躍ったのかノアは表情を輝かせた。
「でも心臓が使われなかったということは入口は見つけられなかったってことですよね?」
「入口は見つかりました。ですが、直前で心臓を管理させていた部下に裏切られたのです。入口に入る前、心臓を持ち逃走した六名の部下。気が付いた時にはファルシユ・キングスレッドを含む計百名の吸血鬼は入口に足を踏み入れていました。そして入り口が閉じるまでそこから出てきた者はいません」
「どうしてその六名は家族同然の一族を裏切ったんですか?」
「それは私には分かりかねます。事実は知れても個人の心の内までは分かりません」
ゆっくり首を横に振るルグーグ。
「じゃあよ、アレクシスは何で同族殺しなんてしたんだよ?」
「確かに。この心臓がどうやって生まれたかは分かったけど彼がどんな人だったのかはよく分かってないもんね」
「アレクシス・D・ブラッドの生い立ちについて私がお話してもよいのですが、彼のプライベートなことではありますので、直接伺ってはどうでしょうか?」
「え? 直接とは?」
「彼はまだそこで生きてますよ」
ルグーグの伸ばした手は優也の心臓を指していた。
「まだ生きてるってどういうことですか!?」
「言葉通りの意味です。方法はご自分でお考え下さい」
「そんな……でも」
「兄ちゃん! ルグーグ様は自分で考えろっちゅうたんや」
優也は追及したくなる気持ちをグッと堪え引き下がった。それを見ていたルグーグは白兎の方へ視線を向ける。
「はくちゃん。虚現の様子はどうでしたか?」
「いつも以上に狂木が蔓延しておりました」
「はくちゃんが一緒なら安心ですが、客人を騒がしい場所へ行かせるわけにはいきませんね」
そしてルグーグは再び二人へ視線を戻した。
「六条優也さんノアさん。お二人共お疲れでしょう。お部屋をご用意いたしますのでお休みください。それから外までお送りいたしますので」
ルグーグの言う通り体に疲れが溜まっていた二人はその言葉に甘えた。
「はくちゃんよろしくお願いします」
「了解致しました」
白兎は頭を下げるとノアと優也の前に歩いて来た。
「ついてきぃ」
そう言うと優也らの右手にある本棚まで歩き一冊の本を手前に引いた。
すると、一部分の本棚が下へ埋まるように下がり通路が現れる。通路の先では小さな部屋が二人を待っていた。
「ここにあるもんは自由につこうてええから。ほなゆっくり休むんやで」
そう言って白兎は来た通路を戻って行った。
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