【54滴】勝利の美酒

 玉藻前が城を出るとそこではマーリン・レイ・アゲハ・ノア・優也の四人が彼女を待っていた。歩いてくる玉藻前に気がついたアゲハは真っ先に駆け足で近づいては抱き付く。


「玉様! 大丈夫ですか?」


 アゲハは玉藻前の体の傷を見て心配そうに訊いた。


「これぐらいは平気やで」


 そんなアゲハを安心させる優しい声と共に頭を軽く撫でると彼女はマーリンへ足を進めた。


「そちの言う通りやったな」

「あーゆう奴は大体そうなのよ」




 ――マーリンが一人残った後


 五人が移動していると通信機からマーリンの声が聞こえてきた。


「多分、隠神はどちらにせよ術を発動させる気よ」

「んじゃ、発動される前に殺せばいいだけだろ」

「アタシの予想が正しければ死んだとしても術は発動するようになにか仕掛けをしているはず」

「それじゃあどうするんですか?」


 戦いの最中だったマーリンは返事をするのに少し遅れる。


「隠神が戦いに気を取られている間に解術するのがベストだと思うわ」

「今の隠神が作り出した術ならそう簡単に無効化できひんと思うで」

「確かに確実に成功するとは言い切れないけど」


 通信機越しで戦闘の激しい音が鳴り響く。


「試す価値はあると思うわよ」

「――そこまで言うんやったら任せるわ。それで誰が解術するん?」

「アモに任せるわ。彼から適任だし何よりすぐに取り掛かれるわ」

「あたし達はどうすればいいのよ?」

「合図があるまで隠神側に優勢だと思わせるの。だから、耐えて」

「死なず殺さずってことか」

「そういうことね」





「つーかよ、隠神だけに優勢と思わせればいいんなら他の奴らを生かしておく必要あったのか?」


 二人の会話にそう割って入るノア。


「最初にいた磯女って覚えてる?」

「あぁ。あの蛇みたいなやつだろ」

「磯女はぬらり家なの」

「それは聞いただろ。コイツから」


 ノアは玉藻前を親指で指差す。


「なのに、隠神のことを『様』って呼んでた」

「だから?」

「確かに大嶽家とぬらり家は、今は組んでいるけど決して仲が良いわけじゃないわ。特にぬらり家と大嶽家は血の気が多いの。隙あらば他を取って食おうって考えてるわ。そんな彼らが他の勢力の奴をよく思ってると思う? ましてや『様』なんてつけるはずが無いわ」

「あー、つまりどういうことだ?」


 いまいちわかっていないノアは首を傾げた。


「隠神に操られてた、ちゅうことやな」

「その可能性が高いってことよ。もし、隠神の術に掛かってたらやられたことも伝わるかもしれないからね。警戒しすぎってことはないでしょ」

「でもよ、なら殺さないで動きを封じるだけでもよかったんじゃねーか?」

「どれくらい情報を伝わってるのか分からないじゃない。それに、アタシ戦ってたし」


 すると話をしていた彼女達の元に百鬼が合流した。


「玉様、無事でなによりです。お前さんたちもな」


 百鬼は玉藻前を見た後に他のメンバーへ順に視線を移した。


「そっちは終わったん?」

「はい。残党も狩り終わりました」


 返事を聞いた玉藻前は視線をマーリンに戻す。


「ほな、マーリンはんアレを頼んでええか?」

「えぇ、分かったわ」


 二つ返事をしたマーリンは城の前まで行くとしゃがみ片手の指先を地面に着けた。それから呪文を呟くと指先から城へ向かって何本かの光の線が伸びる。

 そして呪文を呟き終えると立ち上がり皆の所に戻った。彼女を加え一列に並びながら階段を下りていく七人。

 一歩一歩と階段を下りていると、後方で火の粉と破片を四方八方へ豪快に飛び散らせながら城が大爆発し、一瞬にして煙と炎に包み込まれた。

 それから玉藻家の隠れ家に戻るとそこに設置されたマーリン宅と繋がる扉を使いマーリンの屋敷へ。

 その日はそれぞれが傷を治療し疲れを癒し休息。

 そして次の日の夜、屋敷大広間では玉藻家を交えた盛大な宴会が開かれていた。大広間を用意された大量の料理や酒と多くの人が埋め尽くす。


「よくこんなに作れたわね」

「こちらのお姉様方がご協力してくれましたので」


 アモは玉藻家の女性達を手で指し示す。


「お姉様なんて、アモさんったらお上手なんだから!」


 隣にいた女性が満更でもない顔でアモの肩を叩く。


「あんたのことじゃないわよ」

「何よ。私もまだ若いわよ」

「自分のこと若いって言うんはおばさんだけやって」

「確かにそうやわ」


 一瞬にして彼女達は笑いに包まれた。


「まだまだお綺麗ですよ。さぁ、皆様方も楽しんできて下さい」


 女性達はアモに促されつつお喋りをしながらその場を去って行った。


「アタシ達が出掛けてる間、随分と楽しい時間を過ごしたようね」

「いつもの業務に加えお話にお付き合いさせていただいたり、子供達と遊んだりと――えぇ、楽しい日でした」

「お疲れ様。それと解術も」

「いえ。時間が掛かり申し訳ありません」

「出来ただけでもお手柄よ」


 宴会はすぐにどんちゃん騒ぎとなり、笑い声や話し声・乾杯の音など様々な音が飛び交った。

 そんな様子を眺めるマーリンの隣に二つの升と酒瓶を持った玉藻前が座る。マーリンに升を渡すとお酒を注ぎ自分のにも。二つの升が酒に満たされると軽く乾杯しそれぞれ一口ずつ。

 そして宴会芸に大声を出して笑う男達やお喋りをする女性達、遊びまわる子供達、寄り添う男女、食べ物を競い合うように食べるアゲハとレイ、それをお猪口片手に呆れた表情で見る百鬼、どんどん頬張り喉を詰まらせるノアと慌てて水を差し出す優也――宴会を楽しむ皆を眺めた。


「ここまで賑やかなんは久しぶりやで」

「とりあえずは一件落着ね。それで? 取り戻したいモノっていうのは取り戻せたの?」

「わらわの力を込めた数珠。取り戻したいうよりは破壊したんやけどな」

「力を持たない者でも術を使えるようにするモノね。似たようなのをアタシ達も作るわ」

「正確にはわらわの力を分け与えるモノや。わらわがおらんときでも身を守れるようにと思って作ったんやけどなぁ」


 玉藻前は升に口をつけ傾ける。


「これからもあの隠れ家に住み続けるの?」

「あの屋敷が直るまではな」

「かなり大変じゃない?」

「またあの屋敷に住みたいらしいからな。張り切っとったわ」

「そう。思い入れがあるのね」


 少し間をあけて玉藻前が口を開いた。


「次は、わらわの番やな。用がある時はいつでも言うてや」


 そう言うと玉藻前は右手で持った升をマーリンに差し出す。


「えぇ。思いっきりこき使ってあげるわ」


 それに対し笑みを浮かべながらマーリンも升を軽く触れ合わせた。そして二人は升に残った酒を一気に飲み干す。

 それから宴会は明け方まで続き多くの者は酔い潰れその場で寝ていた。

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