【39滴】怪力の鬼
レイと優也が狐面の少女と戦っていた頃、マーリンとノアの前にも立ちはだかる者が姿を現していた。
森の中を歩き暫くして、二人は木が一本も生えていない広場へと出た。そんな広場の中心には人影が一つ。
そこに立っていたのは、背中に金砕棒を背負った鬼だった。強面な顔で口の下に顎鬚を生やし大きな図体は筋骨隆々、草履と青を基調とした馬乗袴姿の鬼。茶色の短髪の中から一本の角が生えているその鬼は腕組みをしながらノアとマーリンを真っすぐな眼差しで見つめていた。
「俺様は玉藻家が一人、百鬼。この島から出て行ってもらおうか」
「鬼ね」
「なんでわかんだよ」
「だってほら」
マーリンは自分の頭を指差し角があることを教えた。
「なるほどなぁ」
一度マーリンを見た後、再度百鬼を見てその角を確認したノアは軽く頷きながら唸るような声を出した。
「確か角一本が青? お前、青鬼か?」
「そうだが……」
百鬼の言葉には続きがありそうだったが、その続きが出て来る前にノアの声が割り込む。
「へー、青鬼ってこんな見た目なんだな」
ノアは不用心に近づいていくと周りを回りながら百鬼を観察し始めた。
「なんか想像してたのとちげーな」
「分かるわよ。なんかナ○ィみたいなの想像してたわよね」
「何だそれ?」
「五九年? ぐらい前の人間が作った映画で……」
するとノアとマーリンは百鬼を他所に目の前で関係ない話を始めた。
だがその間、百鬼は襲い掛かる訳でもなく二人の前で腕を組み静かに待っていた。
「おっと、わりぃな」
少し話をした後、ノアは思い出したように百鬼の方を向いた。
「わざわざ話が終わるまで待っててくれるなんて優しさか? それとも余裕か?」
「俺様の使命はこれ以上先に進ませぬことだ。それに不意を突くような真似は信念に反する」
「おっ! そーゆう奴は好きだぜ」
その言葉に嬉々とした笑みを浮かべるノア。
「マーリン、下がっててくれ」
「はぁー、言うと思ったわ。でも遊びに来てる訳じゃないの。二十分だけよ」
悪い予想が当たったと言った表情を浮かべたマーリンは、そう言いながら後ろの木まで下がると凭れ腕組みをした。
「俺たちは玉藻前に用があんだよ。居場所教えてくんねーか?」
「では尚更これ以上は行かせられんな」
「なら力づくで聞き出すしかねーらしいな」
言葉を言い終えた直後、百鬼との間合いを一瞬にして詰め顔面に殴り掛かるノア。それに対し百鬼はただ黙り、腕を組んで目を瞑ったまま避ける様子も防御する様子もない。そしてそのまま無抵抗の百鬼の頬を固く握られた拳は捉えた。
だがまるで壁でも殴ったかのようにビクともせず、それどころか逆にノアの拳に傷が入り血が流れ出した。
「悪くない」
そう言って目を開いた百鬼は小指から順に握った拳を振り上げた。避ける時間も防ぐ時間も十分あったはずだが、ノアは何もせずその拳を無抵抗で喰らう。
しかし百鬼とは違いノアは、まるで拳が触れた瞬間に消えてしまったかのように殴り飛ばされた。彼女の体は一瞬にしてマーリンの横を通り過ぎ木を薙ぎ倒しながら森の中へ。少ししてノアは血の流れる口元を拭いながら森の中から戻ってきた。
「何やってるのよ」
「アイツが避けなかったんだ。俺もそれに応えるべきだろ。まぁ、挨拶代わりだよ」
「どれだけ真っ向勝負なのよ」
呆れた様子のマーリンは溜息交じりに言葉を零す。
そんなマーリンを背に百鬼の前へと戻ったノアだったが、既に彼女の口元から傷は消えていた。
「この怪力。さすが鬼だな」
「その再生力、お前さん吸血鬼か」
「あぁ。同じ『鬼』がつく者同士だ。仲良くしようぜ」
「いいだろう」
そう言うと百鬼は背中の金砕棒に手を伸ばした。
「だが悪いな。加減はできんタチでな」
「んなもんいらねーよ」
真剣な百鬼と違いノアの口には楽しそうな笑みが浮かんでいた。
先手は百鬼。金砕棒を軽々と片手で振り上げるとそのまま飛び掛る。それを見てからノアが腕を交差させると腕の前には、同じように交差した鬼手が現れた。そして鬼手と金砕棒がぶつかり合った瞬間、ノアの足元を中心に円を描き少し沈む地面。その重い金砕棒の一撃を歯を食いしばり耐え押し返したノアは直ぐに攻撃へと切り替えた。眼前まで一気に距離を詰めると拳を突き出す。百鬼は容易にそれを防ぐと金砕棒をバットのように持ちフルスイングした。
だがノアはその場にしゃがんで躱す。頭上を通過する金砕棒の風を感じた後、両手を地面に着けて体を支え片足で顎を突き上げた。これは躱されることなく初めて百鬼に天を仰がせた。
しかし空を見上げたままノアの脚をへし折ってしまいそうな力で掴むと金砕棒より軽い彼女を軽々と投げ飛ばし反撃。ノアは空気すら押し退ける程の速さで飛ばされながらも宙で器用に態勢を変え、木へ辿り着くと綺麗に着地した。足場にした立派な木はノアが齎した力を受け止める事が出来ず罅が入ったかと思うと一瞬にして粉砕。しかし木が粉砕する頃には、既にその場を離れていたノアは百鬼の元まで宙を走るように跳んで戻っていた。
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