【39+滴】怪力の鬼2
そんなノアを叩き落そうとタイミングを見計らい構えた金砕棒を振り下ろす百鬼。だがタイミングは完璧だったにも関わらず金砕棒は空振りに終わった。恐らく百鬼の目にはノアが空中で横に移動したように見えただろう。だが実際はそうではなく後ろに出した鬼手を使い自身を横にズラし避けていたのだ。
空振りの金砕棒が真横を通り過ぎた後、ノアの足が百鬼の顔を捉える。蹴り飛ばされるとまではいかなかったが、少しよろめく巨体。
それから殴り殴られ、蹴り蹴られ、躱し躱され、やり合うノアと百鬼の表情にはいつしか自然と笑みが浮かんでいた。
そしてノアが一本の木を背負った時、眼前では百鬼が両手で握った金砕棒をバッターのように構えていた。今にもはち切れそうな筋肉の腕は重さを感じさせない程の速さで金砕棒をスイングする。だが金砕棒はギリギリのところで避けられそのまま八つ当たりするかのように後ろにあった木を粉砕した。
「そんなの当たっちまったら頭吹き飛んじまうぜ」
百鬼は足元を通り後ろへと移動したノアの方をゆっくりと振り返った。
「吸血鬼の再生力なら直ぐに戻るんじゃないか?」
「さすがに頭無くしたことはねーからわかんねーな」
「なら試してやろう」
冗談と言った雰囲気ではない百鬼は金砕棒の先端をノアへ向けた。
「やれるもんならな」
そんな百鬼へ向かって走り出す彼女の中には今を楽しむということしかなかった。
そして再び始まったノアと百鬼の激戦。二人は当初の目的を忘れてしまうほど熱中し、ただただ戦いを楽しんでいた。
崩れた態勢を整えると間合いをとった百鬼は金砕棒を地面に思いっきり叩きつけた。すると、金砕棒からノアへ地球を真っ二つにしてしまいそうな勢いで地割れが伸びていく。足元が割れ始めた為ノアは一旦上へ回避。
その間に百鬼は金砕棒を手放し地面をくり貫いていた。巨岩を両手に一つずつ。その後、空中のノアを撃ち落とさんと順番に投げ飛ばす。ノアは慌てることなく下から飛んでくる巨岩を鬼手で粉砕するが、二つ目を破壊し地面へ目をやるとついさっきまでいたはずの百鬼が見当たらない。
百鬼はいつの間にか更に上空、ノアの背後に跳んで来ていた。その気配に振り返ったノアはほぼ同時に両手を交差させ防御の姿勢をとる。そんな彼女に百鬼は容赦など微塵も感じられない力で金砕棒を叩きつけた。金砕棒が触れた瞬間、落雷のように地面まで落ちるノア。
だがその様子を見ていた百鬼の頭上には両手を恋人繋ぎのように組んだ鬼手が。その存在に気が付いた時には、時すでに遅し。百鬼も地面へと叩きつけられた。
高く舞い上がった二つの土煙。それらが吹いた風に流されると骨折した両腕が既に元通りになったノアと口・頭から流血する百鬼の姿が露わになった。二人は土煙が風に流されたことで視界が晴れ、目が合うと讃え合うように笑みを浮かべる。
すると突然、百鬼の体を黄色い光の紐が縛った。
「時間よ」
そう言いながらノアの後ろからマーリンは歩いてきた。
「こっからがいいとこだったのに」
「ここからはアタシも参加させてもらうわよ」
するとマーリンの視線の先では、縛られた百鬼の肩へ青い蝶が飛んできては止まった。百鬼はゆっくりとその蝶へと目を向ける。
「いや、その必要は無いようだ」
その言葉の後、百鬼が力を入れると体を縛る紐はいとも簡単に千切れる。それを目にし瞬時に身構えるマーリンとノア。
「吸血鬼。お前さん名前は?」
「俺は……ノアだ」
「ノアか。覚えておこう。どうやらお前さんたちはアイツらとは関係なさそうだ。俺様の直感がそう言っている。だがあまりこの森を荒らすなよ」
それだけを言い残すと百鬼は霧に包まれ消えてしまった。少し周りを警戒し百鬼の気配が完全に消えたことが分かると二人は拭い切れぬ戸惑いを感じながらも警戒を解く。
「消えたみたいね。それよりその名前気に入ってるのね」
「確かに、しっくりきてるな。なにより、短くていい」
同時期、優也とレイが戦っていた狐面の少女の元にも青い蝶が現れると霧と共にその姿は消えた。
「結局なんだったんだ?」
「さぁ? それにしても強かったね」
「まぁそうだな」
返事をするとレイは上を見上げる。木の所為で空は見えずらかったものの微かに色が変わっているのが見えた。
「日も落ちてきてるし、とりあえず一旦帰るか。体も痛いしな」
そう言うレイの体は所々に小さな傷が出来ていた。それに比べ優也は傷ひとつない。
「あーあ、俺の体の傷もすぐに治んねーかな」
レイは優也へ羨む視線を向けながら愚痴るように言った。
「確かに傷が直ぐ治るのは便利だよ。傷ついた時は痛いけど」
「こっちなんて治るまで痛いんだよ」
そう言うとレイはポケットから呪文の描かれたお札状の紙を取り出した。
「行くぞ」
その言葉に優也はレイの肩に手を乗せた。そしてレイが紙を破ると二人の周りの景色は一変。
木々から変わりテレビとテーブルを挟んだソファ、その後ろにテーブルとイスが置かれた小さな部屋。そこは四方は木でできておりマーリンの言っていた小屋だった。
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