美少女なお姫様をやることにしましたー4
スフェラ王国
中庭に
「お待ちしておりました、
レイのエスコートで向かった中庭には、
リノルから
「申し訳ありません、陛下。お待たせしてしまいまして」
カルヴァの姿を見つけると、アドルは小走りで
「うつくしい姫を待つ時間が苦になるはずもないな。お手をどうぞ、姫」
しまった……!
(くっそ……女装に集中していると、
「……ありがとうございます」
しかしここでエスコートを
興味の無い花を見ていたところで心が
「──花は
「え? いえ……」
(やばい、顔に出てた!?)
カルヴァの声でアドルは
「浮かない顔をしている。……
すぐそばに、とは言わないがこちらから見える
「そ、それは……わたしの──わたしだけの、騎士ですから」
答えになっているような、いないような──そんな返答になってしまう。
失敗が許されない
その緊張を
「……わたしだけの?」
「ええ。わたしに
剣の誓いと呼ばれるそれは、騎士が
──レイは。
彼女は、二年前にアドルに剣の誓いをたてた。
「だから、
レイについてのことだったから、アドルは
今の自分はリノルなのだという意識すら消えて、ただ素直にアドルは言葉を
「……剣の誓い、ね……」
ぽつりと呟かれたカルヴァの言葉に、アドルは顔を上げた。南国にはあまり
「あ、の……?」
どうかしましたか、と問いかけようとしたところで、ぐらりと視界が
足に力が入らなくなって、アドルは浅く息を
「姫っ?」
カルヴァがいち早くアドルの異変に気づいた。その声に、レイも
「ア……リノル様!」
二人の声がアドルの耳にぼんやりと届いて、返事をしなければ──と考えたけれど
ぐらりと
息苦しい。熱が身体の中を
「向こうに
瞼が重くて目を開けることができない。カルヴァがそう言う声が聞こえると、身体がふわりと抱き上げられた。
それから少しすると、どこかに下ろされる。
「う……」
どうにかして目を開けると、そこには心配そうにアドルを見つめるレイがいた。その手には
「
「……だいじょうぶ、だと思う」
「水分をとってください」
もともと、庭の散策のあとでこの東屋で休息をとる予定だったらしい。アドルの意識が
心配そうなレイに、アドルは南国の気候を甘く見ていたことを反省する。
「……さて、
数回にわけて水分をとり、意識もはっきりしてきたらしいアドルを見てカルヴァが口を開いた。
「どうして君がここにいるのかね、アドルバード王子?」
紡がれるはずのない本来の自分の名前に、アドルはさっと青ざめた。
「な、なんのことでしょう? なぜ兄の名前が?」
どうにかごまかそうと笑顔で首を傾げてみせるが、
(バ、バレた……!?)
「もうリノルアース姫のフリをすることはないぞ。男か女かくらい、
「さ、さわっ……!? どこ触りやがった変態!」
とんでもない発言に焦りも動揺も
思わず少女のように自分の身を抱きしめて
「失礼な。男女で骨格は
何をバカなことを言っているんだ、と言いたげな様子にアドルは身の危険を感じてカルヴァから離れた。
いやいやだって、骨格だけで断言できるほどはっきりわかるわけないと思う。
「あとは、そうだな。剣の誓い、かな」
「へ?」
くすりと笑うカルヴァに、アドルは首を傾げた。
「ハウゼンランド国の王子に剣の誓いをたてた騎士がいる、と聞いたことがあるが姫だとは聞いていない。まして、ここ数十年どこかの王族へ誓いをたてた騎士は他にいないだろう」
しまった、と叫びだしそうな顔でアドルは表情を
ハウゼンランド国で起きたことなどスフェラ国まで
「アドル様……」
(や、やらかしたー!)
もちろん、バレる可能性がゼロだと思っていたわけではない。だがこれだけ気合を入れてやってきたのだ、こんなに早くバレてしまうなんて思ってもみなかった。
(俺の努力は!? こんだけ女装に力を入れてきたのに全部ムダ!?)
血の
「いやしかし見た目は
「それ、あんまり
たいそう感心した様子のカルヴァにアドルは
カルヴァはどこか楽しげで、腹を立てているわけではなさそうだ。
腹芸のできないアドルは、これ以上騙すことなどできない。ならば、誠意を
「──まずは、謝罪を。申し訳ありませんでした、国王陛下」
立ち上がってきちんと頭を下げようとするアドルを、カルヴァが片手で制する。
「かまわん。男だろうが目の保養になったことに変わりないしな! うつくしいものは好きだぞ」
「はぁ……」
(男でも
いっそ
居住まいを正しながらアドルはカルヴァを見る。
「改めまして、ハウゼンランドより参りました。リノルアースの兄、アドルバードと申します」
すっと背筋を
「それで、なぜ王子である君がやって来たのかな。招待したのは
正体が知られたら、必ず聞かれるであろう問い。
もともと、
「……それは、私にどうしてもスフェラ国に来なければならない事情があったんです」
「ほお? ……事情か。それを私に話していいのかね?」
「陛下を騙していた以上、
きっぱりと答えるアドルに、カルヴァは興味深げに目を細める。
「ハウゼンランド国では立太子において試練が課せられます。私に課せられた一つ目の試練が、スフェラ王国の
立太子の試練については周辺諸国でも知られていることだ。
アドルが話さなければならないのは、試練の内容である。
「なるほど? だがそれならそうと、正式に訪問を申し入れてくれれば良かったのでは?」
それも言われるだろうと思っていた。
アドルは
ここでカルヴァを味方にできなければ、今回の試練はおしまいだ。
「おっしゃる通りです。ですが立太子の試練は、
答えながら、アドルは従兄のハーラントを思い出した。四歳上の彼は、まさしく理想の貴公子だ。武芸に
アドルはそんな、アドルのほしいと望むものを当たり前のように持っている従兄が少し苦手で──うらやましくて、仕方なかった。けれど、今は違う。うらやむだけはやめた。
だからアドルは、アドルとして王になりたいと思えた。
ハーラントは
「そうまでして王になりたいと? 別にならなくてもいいだろう?」
カルヴァはアドルを観察するように見つめながら、
アドルは
「私には王になりたいと思う理由がありますから」
きっぱりと言い切り、アドルの青い
その様子に、カルヴァがにやりと笑った。
「ではアドルバード王子、私と取引をしようじゃないか」
それは決して厳しい口調ではないのだが、自然とアドルの背筋が伸びた。
「……取引、ですか」
何を提案されるかわからない以上、
その顔は、本当に王になる
「我が王国の真珠は、確かに近年では知名度も上がり人気がある。だがそうそう量産できなくてね、簡単に流通できるものではない」
もとより真珠が量産できるものではないのは知っている。だがそれではいそうですかと
カルヴァは指先でこつり、とテーブルを
「しかも真珠の産地はバーグラスという貴族の領地でね。
「なるほど。では私はそのバーグラス
問いかけると、カルヴァは目を丸くした。予想外の反応だったのだろうか。
ここまでまわりくどい話をしているのは、アドルに何かしらの役回りを求めているからだと思ったのだが、どうやら正解だったらしい。だてに
「話が早くて助かる」
楽しげに笑うカルヴァに、アドルは内心で
「こちらとしてもそれで事が進むならありがたいくらいなんですよ」
「ちょうど、真珠の産地への視察が予定に入っていただろう? そこで、バーグラスの弱みを握るなりして断れなくしてくれれば、ハウゼンランド国へ真珠を輸出しよう」
「……弱み、ですか?」
なかなか
人を騙すこともだが、
「あれは
「先王の頃から……」
「私の
「本当に尻尾を
「
「だが確たる
「そういうことだ。今あるのは
悪事に手を染めている、と断言できるほどのものではない。
限りなく黒に近いグレーといったところだろうか。
「状況証拠のみ、というのはいささか説得力に欠けると思いますが」
「そこは
カルヴァは「だがね」と意味ありげに笑う。
「同類にはわかるものだよ、アドルバード王子」
──それはつまり、カルヴァも腹黒の狸だと思っていいということだろうか?
ウチの王子が可憐すぎる!/青柳 朔 角川ビーンズ文庫 @beans
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