第4話 続続・男は顔で選びますが、何か?
トイレから戻ると、近くにいた他の店員から、席のご移動をお願いします、と声がかかった。
男性3人組があっけに取られた後に「え、チェンジ? もう?」と抗議の声を上げるが、店員は「申し訳ございません、席でお待ち下さい」とにべもない言葉を返す。
しおりはその様子に違和感を覚えたが、金本も友美はよほど退屈していたのか勢いよく立ち上がり、振り返りもせずに店員の後に付き従う。
それまでは気付かなかった店の奥の通路を店員が先に立って案内し始めたところで、
「えー! うっそ、VIP!?」
前を歩く金本が思わずといったように声を上げ、慌てて口元に手をやる。
「先輩、何ですか?」
友美がいぶかしげに尋ねると同時に、先頭を歩いていた店員が唐突に立ち止まった。
そして通路脇に並ぶ二つのドアのうちの奥側のドアを開き、三人の入室を促した。
「え? 個室?」
てっきりホールフロアのみだと思い込んでいた為、個室の存在にまず驚いた。
そして肝心の個室の中は、4、5人も入れば一杯になるような、決して広いとは言い難い空間であるものの、さっきまでいた席とは明らかに雰囲気が違っていた。
床が高級感のある木目調に変わり、奥には暖炉が見える。
その暖炉を囲むようにおかれた二つのソファは、三人掛けのものと二人掛けのものとがあり、店員によって三人掛けの方に揃って誘導される。
腰かけると絶妙な柔らかさに体が沈み、自然と背もたれに寄りかかりリラックスできる体勢になるソファは、かなり値の張る品であることに間違いない。
頭上の照明器具は、先程まで三人がいたフロアが豪奢なシャンデリアであったのに対し、北欧デザインと一目でわかる柔らかな光を内から放つ花のような形をしている。
一体何が起こったのか把握しきれないままの三人の様子に頓着する様子もなく、
「只今お相手様いらっしゃいますので、少々お待ち下さい」
とだけ告げ、店員が立ち去った。
その心なしか緊張でこわばったような背中を見送り、やっぱり何かがおかしいと感じる。
ここに案内されることが決まってからこっち、店員が皆おびえとも緊張ともつかない様子を見せている。
「よっぽどすごいお金持ちが来たとか…?」
しおりが呟き、問うように金本の方を見て、ぎょっとする。
「やばいやばいやばいやばいやばい」
両手を口元にあて、ぶつぶつと呟きながら床の一点を見つめる金本だが、その目はギラギラと光っている。
「せ、せんぱい…? なんか様子おかし過ぎません?」
オタク属性で、挙動不審ではなかなか他に追随を許さない友美ですら、その様子に引きまくりだ。
「ココ、VIPルーム」
「え? VIPルームってなんですか?」
「金持ち、権力者、クル。貧乏人、コナイ」
なぜかカタコトだ。
「え、それすごいいいじゃないですか! ラッキーですよね!」
友美が声を上げるが、金本はぶんぶんと頭を振る。
その様子にはたと気づき、一気に青ざめる。
「あの、もしかしてコレ、とか」
そう言って友美は、頬を人差し指で斜め上から切るような仕草をする。
それを見てしおりも震え上がった。
「え!? 次の相手って、そのスジの人!?」
思わず腰を浮かすと、金本が今度は顔の前で激しく手を振った。
「違うんですか?」
コクコクコク。
「じゃあ、誰なんですか!?」
「……しま」
「はい?」
「ふ、じ、し、ま」
一語一語を息を吐き切るように言った金本の言葉が、脳に到達するまでしばしの時間を要した。
結果、思い出せず。
「えっと、誰でしたっけ?」
「「えええええ―――――っ!!!!」」
友美は金本の言葉に驚きの声を上げ、金本はしおりの言葉に驚きの声を上げ。
その絶叫のさなか、その人はノックとともに現れた。
「失礼致します」
マジメに婚活中の三十路OLが夜の世界の王様にいいようにされるのは間違っていると思います! @nonrin
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