第27話 コラボのお誘い! Aパート

『ゆー! つー!』

『ばー!』

『どうもみなさん、勇者アマリリスチャンネルです! さっそくですが戦闘の様子をお届けしております!』

『今日はこの――なんだか分からないゴーレムを相手にしたいと思います!』


 ふん……勇者め。


 あの撮影スタッフは生き延びたようだな。

 背中から心臓を貫いたというのに、なんという生命力だ。


 撮影しながら傷を治すとなると、相当な魔力消費になる。

 今回は命を守るだけで精一杯だろう。

 次に出会った時は、頭を直接破壊すべきだな。


『たぁーーーっ!』


 二人がかりでアイスゴーレムに立ち向かう勇者達。


 ますます動きが良くなっている。


 精霊の加護も高まりつつあるこの勇者、どうにかせねばと思ったのだが……。


『……!?』


 やがてブラックローズが村を燃やし、アマリリスが画面から消える。


 すると一瞬だけ画面が乱れ、また元通りになった。

 画面にはスノードロップとアイスゴーレムのみが映し出される。


『ちょっと村の方でトラブルが起きたので、MARIRINはそちらに向かいました! というわけで、今日は私ひとりであのゴーレムをやっつけてみたいと思います!』


 気丈に声を張るスノードロップ。


 彼女が単独でアマリリスチャンネルを持たせるのは初めてだ。

 おそらく緊張しているに違いない。


 だが――フフフ、この後のことを思うと憐憫の情が湧いてくる。


『やーっ! たぁーっ!』


 勇者スノードロップが戦い始めてから、わずか数分。


 美しい槍さばきがゴーレムを翻弄し、槍からほとばしる魔力の粒子が空中に絵画を描くようだ。

 その美麗な戦いの風景が、もうすぐ途切れる。


 そうだ、ちょうどここ――ゴーレムの関節部分に槍を刺したところ。


 そこでブラックローズが撮影係の青年を刺したのだ。


『……!?』


 スノードロップがカメラの方向を向いて絶句している。


 だが、どういう事だ?


 カメラがまったくブレていない。

 それどころかスノードロップの戦いはいまだに続いている。


「なぜだ……!?」


 背後から心臓を刺したのに、なぜ撮影が続いている?


 まさか、あの撮影係のスタッフ、刺されてもなお撮影を続けていたというのか?

 なんという執念――いや、もはやそんな生やさしいものではない。


 生命力、集中力、そして魔力、あらゆる技能が理解の範疇を超えている。


 まさかあのスタッフ、勇者よりも……?


『はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


 そんな瀕死のカメラマンに向かって、スノードロップがゴーレムを投げつける。


 そこでようやくカメラが動いた。

 ゴーレムの挙動を追って、視線が動く。


 背後にいたブラックローズが、そのゴーレムを受け止めた。


 視聴者にとっては、何があったか分からないだろう。


 そう、確かにブラックローズはここで撮影係を刺したのだ。


 唐突なブラックローズの出現に、もしかしたら視聴者は戸惑うかもしれない。


『……………………』


 そして何かを呟き、そのゴーレムを投げ捨てる。


 次に勇者アマリリスが戻ってきた。


『…………………………………………』


 そんな勇者たちに、また何かを呟くブラックローズ。


 やがて彼女の背中に翼が生え、どこかへ飛んでいってしまった。


「なんだ……?」


 ブラックローズを動画に残したのは、どういう事だ?


 動画の後半、敵の勇者をわざわざ撮影した意味があるのか?


 これでは視聴者は本当においてけぼりではないか。


 そして動画の最後に、勇者達はカメラに向かって笑う。


「はいっ、というわけでゴーレムを倒す事ができました!」


 スノードロップが手を振っている。


「途中、本当にごめんなさい! 村の方で火事があったので、そちらの救助に向かってました! ROPちゃん、ありがとね!」


 軽く頭を下げるアマリリス。


 少しだけカメラが動き、消火作業中の村が映し出される。

 すでに火はあらかた消し止められており、村人が桶リレーをしている。


「ううん、大丈夫だったよMARIRIN」


 スノードロップも笑顔で答える。


「ゴーレムはとっても強かったけど、ブラックローズが助けてくれたから」


 ……は?


「そっか! ブラックローズと連携してゴーレム倒してたもんね!」


「あの魔力を込めた投擲がなかったら、きっとやられてたと思う。普段、悪いことばかりしてると思ってたけど、ちゃんと勇者として助けてくれたんだよ!」


「じゃあ、火をつけたり犯罪を教えたのも、正義感からくる暴走だったんだ……。本当は悪い子じゃないんだね!」


 待て待て待て!


 なんだそれは!


 なんでブラックローズがスノードロップを助けた正義の勇者みたいな扱いになっているんだ!?


 いや……だが、そう思われても仕方のない編集をしている。


 あの撮影係が刺された瞬間は映されていない。

 傷口も、派手に吹き出した血も、いっさい映っていなかった。


 余計な言葉もカットされている。


 この動画だけで判断するなら、ゴーレム退治に協力するために現れた正義の勇者にしか見えない――


「そんな……そんな事をされたら…………!」


 悪の勇者として話題になったブラックローズの信頼はガタガタだ。


 実はいい人だなんて評判を流されたら……!


「おのれ……おのれ勇者ども! 許さんぞぉぉぉぉぉ!」


 殺してやる!


 もはや回りくどい手段など選んでいられない。


 ブラックローズが勇者を殺す瞬間を、全世界に配信してやる!


 今に見ていろ……アマリリス、スノードロップ!


 そして“勇通部”のスタッフ!

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