第24話 勇者として、戦ってみた! Bパート

 夜になると宿屋で変わった動画を撮るが、勇者の毎日の活動は魔物退治だ。


 魔王によって放たれた悪しき存在を倒す。

 そうして人々が安心する世界を作り出すのが、本来の仕事。


 本来映すべきはハナとユキの笑顔じゃなく、そういう人達の笑顔なんだよな。


「それでは……よろしくお願いします、勇者様」


 頭を下げる村長と、それを見守る村の人々。


「任せてください。絶対に魔物を退治してみせます。だけど危ないから、皆さんは避難所に隠れていてくださいね」


 白く染まった鎧を叩くハナ。


「おお……本当にありがとうございます」


 数十人の村人が泣き出しそうなほど感激している。


 この村の裏山に、数週間前から住みだした魔物。

 その魔物によって人にも畑にも甚大な被害が出ているのだとか。


 人を困らせる魔物を退治するのは、勇者として日常の仕事。


「二人とも、準備はいいか?」


「うん!」

「はい!」


 村の外れの森近く。

 俺の合図で、二人は武器を構える。


 今日は二人とも白い鎧に赤い武器。

 山に住む魔物は氷を纏う生き物らしく、田畑が凍らされているのだとか。


 そこで視聴者に送ってもらった氷属性を無効化する鎧と、弱点である火の武器を用意したってわけだ。


「……来るぞ」


 俺の“魔眼”が告げている。


 勇者が持つ強大な魔力に惹かれて、魔物が姿を現わす。


「こ、これは……!?」


 低い姿勢から森を抜け出したそれは、巨大な――氷の塊。


 まるで積み木のように重なった立方体が、地面を這う生き物のような形を作っている。

 その氷のひとつひとつに魔力が備わっており、連結して生き物のように動く。


 ゴーレムの一種か。


「ゆー! つー!」

「ばー!」

「どうもみなさん、勇者アマリリスチャンネルです! さっそくですが戦闘の様子をお届けしております!」

「今日はこの――なんだか分からないゴーレムを相手にしたいと思います!」


 しっかり挨拶をしてから氷のゴーレムに斬りかかる勇者ふたり。


 特に打ち合わせをしなくても、個々の役割はだいたい決まっている。


 素早く剣で斬りかかるハナが魔物の注意を引き、一瞬でも気が逸れたところをユキが攻撃する。弱点を的確に突いた後は、ハナと二人でトドメを刺す。


 いつしかこういう構図ができあがっていた。


「ROPちゃん!」


 ハナが叫ぶと同時に、ユキの炎の槍がゴーレムの連結部に刺さる。


「MARIRIN! 今よ!」


 ゴーレムの動きが一瞬だけ止まる。


 その首――と思われる部分にハナの剣が斬撃を繰り出した。

 しかし生き物であれば首を飛ばしていたであろう一撃も、ゴーレムの身体を素通りするだけで、なんらダメージを与えない。


「あれっ!?」


 驚くハナに、ゴーレムが反撃をする。


 巨大な腕を振り回し、ハナの胴を打ち付けた。


「うっ!」


「MARIRIN!」


 叫ぶユキ。


 俺も叫びだしたいが、ぐっと堪える。

 魔法で遮断しているとはいえ、余計な音を入れてはいけない。

 視聴者はともかく、ハナとユキの気が散ってしまう。


「平気……っ!」


 胴を強打されても立ち上がるハナ。


 そうだ。

 お前はこんな攻撃で倒れるほどヤワじゃない。


 がんばれ。

 ハナもユキも、カッコ良く魔物を倒す姿を俺に見せてくれ。

 二人の一生懸命な姿と、倒した後の笑顔を世界中に届けたい。


 そう願っていると、自然と拳に力が入る。


 もっと、もっと美しく――


「!?」


 背後で爆発が生じた。


 なんだ!?


 俺の後ろで何が起きてるんだ!?


 後ろを見たい。

 だが、今は勇者が戦っているんだ。

 視線を外す事ができない。


「テンちゃん、ごめん! ユキちゃんよろしくっ!」


 ハナがすぐに戦場から離脱する。


 それほどの問題があったのだ。

 俺は“魔眼”を止め、背後を見た。


「な……嘘だろ…………!?」


 家が燃えていた。


 村の避難所である二階建ての建物から火の手があがっているじゃないか。


 ハナはそれを助けに行ったのか。


 いったい、どうして火が……?

 村の人は無事なのか!?


「テンジクさん! 続けてください!」


 背後の炎に気を取られていると、前方のユキの叱咤が飛んできた。


 そうだ――炎も魔物も待ってはくれない。


 会話ができる魔物なら、待ってくれたかもしれないが……ゴーレムには口がない。

 自然発生した、意志のない魔物に交渉しても意味がない。


「テンジクさん! 私が戦いますから!」


 たったひとりで魔物に立ち向かうユキ。


「ハナちゃんほど強くもないし、笑顔も上手じゃないけど……私も、世界を救っているところを誰かに届けたいんです!」


 後ろのハナの事は、とても気になる。


 だが、今目の前で戦っているユキの意志の強さを無視はできない。


「ユキ! 3秒後に撮影再開だ!」

「はいっ!」


 俺は“魔眼”を再び起動し、ユキの戦いを見守る事にした。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 槍を回転させながらゴーレムに突撃するユキ。


 ゴーレムはその動きを察知し、巨大な腕で受け止めようとする。

 身を低くして腕を避けると、四本足のゴーレムよりさらに低い位置から、胴の下に潜り込もうとする。


「やっ!」


 胴に槍を突き刺すと、その槍に魔力を通した。

 槍から伝わる魔力がゴーレムの腹を爆発させる。


 なんという派手な攻撃――ユキの中に、こんな力があったなんて。


 緩急のある連続攻撃から一転、槍のリーチを生かした強力な突き。


 まるで舞いを踊るような美しさ――


 ハナの戦いがガチンコ同士の熱いぶつかり合いだとしたら、こちらは流れるようなスマートな戦い。


 しかし二人が合わさった時は、また別の美しさに変わる。


 変幻自在の戦いを持つ勇者達。


 ユキの戦いは、カメラに収める価値がある。


「――ハナ」


 だからこそ、背後で戦っているであろう彼女が気になる。


 炎上している村に迷わず飛び込んだ、俺の幼馴染み。


「……テンジクさん」


 そんな俺の表情を見たのか、ユキの顔が一瞬だけ曇る。


 言葉にして確かめたわけではない。


 だけどあの時のユキの顔は、明らかに俺に対する別の感情が見え隠れしていたんだ。

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