第23話 勇者として、戦ってみた! Aパート

 おのれ……おのれおのれ……!


 勇者アマリリス……ことごとく私の邪魔をしおって……!


「魔王様。ブラックローズのコメント、どんどん伸びてるッスよ。すっごいバカにしたコメントばっかで、でも再生数も伸びてるからいいじゃないスか」


「うるさい! そんな事は分かっている!」


「……す、すいませんッス」


「ああ、すまないデモーニア、当たり散らすつもりはなかったんだ」


「いえ、自分も空気読めてなかったッス」


「本当にすまない……だが、ブラックローズの再生数が伸びるだけではダメなのだ。アマリリスをはじめとする、他の勇者の人気を下げる事が目的なのだから」


 勇者は悪いものだ、と大衆に植え付ける。

 それこそが“勇通部”を衰退させる一番の方法なのだ。


 やり方そのものは間違っていない。


 問題はアマリリスの力が、私の策略を上回っている事だ――


「ただ衝撃的な動画では意味がない……もっと勇者の威光を地に落とすような動画でなくてはならないのだ……」


「……ねーねー魔王様」


「なんだ」


「そのへん、勇者ブラックローズはどう思ってるんスか? 魔王様の部下なんですよね、ブラックローズって」


「ああ、うむ、そうだ……そうだが、ブラックローズは関係ない」


「えー? なんでッスか? “勇通部”って勇者とスタッフが協力して作るもんだって、アマリリスも言ってたッスよ?」


「う、うむ……確かにそうなのだが、やんごとない事情があってな……」


「……???」


 答えに詰まっていると、慌ただしい足音が近づいてきた。


「失礼します! ま、魔王様!」


「どうした」


 翼を生やした下級悪魔が走ってきた。


「勇者です! 久々に勇者が魔王城まで来ました!」


「ほう、何ヶ月ぶりか」


 この魔王城まで到達する勇者はごく少ない。


 それだけ経験と修行を積んだ者なのだろう――だが、どこまで行けるものか。


「どうします魔王様。今回はどのコースで」


「そうだな……」


 配下の魔物全てで出迎えるコース、城の罠を全て起動するコース、おどろおどろしい恐怖の演出で心を削るコース――どれも楽しい結果が待っている。


 しかし――今日は別の趣向でいこう。


                    *


『チーッス! 勇者オオイヌノフグリでーっす! 今日の俺サマはぁ、なんとぉ、あの魔王城に来てみましたー! ヒュー!』


『今まで応援してくれたみんなサンキュー! このチョーシで魔王とかブッ殺してぇ、世界平和を取り戻してみせるよー! ついでにぃ、魔王城のお宝とかいっぱいパクッてくるんでぇ、それを視聴者プレゼントにしちゃいまーす!』


『それじゃさっそく城の中に入ってみたいと思いまーす! なんかチョー弱そうな門番いるけど、俺のスーパーセイントカラミティブレードのサビにしてやるっつーの? マジで弱そうなんですけど! すげぇ笑える!』


『んじゃ戦ってみたいと思いまーす! おーい、そこの門番さーん! ちょっとカメラ映していいですかー? やられ役になっちゃうと思うんですけどー!?』


『アッハッハ! めっちゃ怒ってる怒ってる! オラ来いよ! こっちは精霊の加護を受けた勇者オオイヌノフグリ――へぶっ!?』


『あ、あれ、おかしいな……ぎゃぶっ! ちょ、タンマ、待って、ごふっ!』


『やめ、やめて、おねがい、すいま――ぐぶっ! がはっ! 待っ、ぎゃっ!』


『お、お前ら、た、助け――た、助け――え? ……スタッフは手出しできない? いや、そういうこと言ってないで、俺このままじゃ死――がはっ!』


『…………………………………………』


『…………………………………………』


『…………………………………………ひっ、こっち来た! た、助けて』


『え? カメラの“魔眼”ですか? はい、私ですけど……?』


『この勇者の恥ずかしいシーンを撮ってアップロードしたら、命を助けてくれる……んですか? え? え?』


『あの、本当にそんな事くらいで許してくれるんですか?』


『だってよ、おい、みんな!』


『マジかよ! よっしゃ、やってやろうぜ! 今まで勇者って事でさんざんワガママ言ってきたんだ! 王様じゃねーんだっつの!』


『オラっ、脱がせ脱がせ! おい誰か魔法のペン持ってるか!?』


『え、はい、何か言いたいんですか……あ、じゃあ録画と録音しますので、どうぞ』


『人間共へ告ぐ――そしていい気になって旅を続けている勇者に告ぐ。いくら貴様らが精霊の加護を受けようとも、半端な加護ではこの男のように無様な姿を晒す事になる』


『それでも良いならば、魔王城の扉を叩くが良い。私――いや、魔王様はいつでも歓迎する、と言っている――』


『おい、誰かバリカン持ってるか!? 上の毛と下の毛全部刈ってやろうぜ! あん? 女装させる? それもいいアイデアだな!? あと、俺これ持ってるんだけど……』


『……お、おい、人間達、それはさすがに魔族でもドン引きだぞ…………』


 クックック……たまには身体を動かすのも良い。

 身の程知らずとはいえ、勇者の実力も知る事ができた。


 この分だと、私を殺せる勇者が現れるのは当分先だな。


「魔王様、さっき戦った時の変装セット、洗濯しますから出しといてくださいね」


「分かった分かった、これ観たら出しとくから」


「そうやっていっつも出し忘れるんスよ! ほら、出して!」


「チッ……!」


 まったくうるさい部下だ。


 しかし――そうだな。少しブラックローズにも働いてもらうとするか。


 これからは、もう少し積極的に勇者を殺しにかかろうではないか。

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