第21話 間違った情報を正したい! Aパート

『ゆー! つー!』

『ばー!! こんにちはみなさん! 勇者アマリリスチャンネルのアマリリスと!』

『スノードロップです!』


 ククク……性懲りもなく配信をするか、勇者アマリリスチャンネルよ。


 だが先日のエルフの森の動画はなかなかだった。

 まさかブラックローズが燃やした森に偶然居合わせたとは。


 あの火消しの動画はかなりの再生数だった。

 あれで一層アマリリスとスノードロップのファンが増えたとも聞く。


 だが、一番は我がブラックローズだ。


 前回の動画もなかなかの再生数だった。

 麻薬を“燃やした”事で、さらに火がついたぞ。


 その炎を、どうやって消すか――


『はい、今日はですね……ええと、みなさん、この部屋どこか分かります?』


 む……おい待て、この部屋は……。


『そう、みなさんブラックローズって勇者、知ってますよね? 最近“勇通部”で悪いことばっかりしてる勇者――その人が、こないだ撮影したとされる宿屋です!』


『宿屋のご主人に伺って、同じ部屋に案内してもらったんですけど……いいですか、見てください』


 スノードロップが魔法を使う。

 それは部屋全体を照らし出す、光の魔法――いや、それだけではない。


『魔導士じゃない視聴者の方には分かりづらいと思うんですが、今の私の魔法で麻薬の痕跡が出るはずなんですが……いっさい存在しないんです。あとで魔導士のお友達に聞いてみてくださいね』


 そんな魔法も使えるのか、勇者よ。

 あるいは、誰か優秀な魔導士が伝授したか。

 いずれにせよ、厄介なマネを……!


『なので、ブラックローズが撮影したのは、この宿屋ではありません! きっと偽の宿屋で撮影したんです! だからこの宿は安全なので、泊まっても大丈夫ですよー!』


 笑って手を振る勇者アマリリス。


 そういう事か、宿屋の評判を取り戻すために撮影したのか。


 直接被害を受けた者を救済する、それが勇者の仕事というわけか。


『偽物の撮影場所、偽物の映像――私達は、ただ動画を撮るだけの“実質的なバーチャル勇者”には絶対負けません!』

『魔王を倒し、世界を救うのが勇者の役目です! きっと世界に平和を取り戻してみせますから!』


 拳を上げる勇者達。


 か、可愛い……!


 いや、そうじゃない、忌々しい!


 フッ……ヤツらがどれだけ吠えようとも、すでにブラックローズは走り出している。


「ふん……バーチャル勇者……か」


 なかなか面白い名をつけるではないか。


 確かにブラックローズには実体がないが、勇者としてそこに存在する。


 宿屋の信頼は取り戻せても、麻薬を広めたという事実は変わらない。

 やがて世界中で麻薬が蔓延するだろう。

 レッドバジリスクの血を求めて、殺し合いをするがよい、愚かな人間よ!


『はい、それでは今日は、この宿屋のご主人に来ていただきました!』


 アマリリスが呼ぶと、画面外から男性が現れた。


『ど……どうも……当宿屋“イーグルズイン”の主人でございます……あ、あの勇者様、本当に私が……?』


『はい! 私達も少しくらい料理しますけど、ご主人の料理が一番上手ですから! ぜひ動画を観ている人にも教えてあげて欲しいんです!』


『は、はぁ……それでは…………といっても、本当に簡単なものなんですけど……』


 そう言って宿屋の主人が取り出したのは――


「ブッキカズラの葉だと!?」


 麻薬の原料になる、あの葉ではないか。


『このブッキカズラを利用して、なんだか麻薬を作っている勇者がいるとの事でしたが……もっと簡単で、もっと便利な利用法がありまして……』


 テーブルの上に置かれているのは、茹で上がったパスタ。

 それから……トウガラシ?


『この葉をよく揉んでから、どこにでも手に入る“シロカラシ”の根っこをすり下ろしたものと混ぜるんです。そうすると、とてもおいしい調味料になるんです』


 なんだと……!?


『これを油と一緒にパスタにあえると、簡単で誰でも作れる料理になるんですね。麻薬を作るよりもずっと簡単ですよ』


『うわー! もうこの時点でいい匂いがしてきます! 本当に簡単にできちゃうんですね!』


『しかもお医者様の話によると、麻薬を作るよりも幸福感がある上に、血行を良くして身体にもいいんですって! 断然、オトクですよ!』


 バカな……!


「おいデモーニア!」


「へいへい、そう言うと思ってすでに作ってきたッス」


「お前、最近本当に察しがいいな。偉いぞ」


 部下の頭を撫でて褒める。


 その後、皿に載ったパスタをフォークに絡めて一口食べると――


「こ、これは……! 適度な辛さと刺激、なのに口の中に広がるコクと旨み……! い、いや、しかし麻薬に比べると快楽は――しかし――」


「どうッスか!? おいしいッスか魔王様!?」


「……はっ!」


 感想を言う前に、もう一皿食べ終わってしまった。


「足りない! デモーニア、もう一皿作ってくれ!」


「オッケーッス!」


 なんだこの味は……止まらない……依存性があるのか……?

 それともデモーニアの料理の腕のせいなのか……!?


 くっ……勇者めぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!

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