第17話 エルフの森に突撃してみた! Aパート

「魔王様――轟魔将ディテュレイオス、ここに推参致しました」


「よく来てくれたディテュレイオス、お主に尋ねたい事と頼みたい事があったのだ」


「身に余る光栄でございます。して、どのような――」


「うむ、お主、好きな“勇通部”のチャンネルは何だ?」


「は? な、何をおっしゃっているのか意味が分かりませぬが」


「隠さずとも良い。夜な夜な水晶板に向かっていると、デモーニアから聞いている」


「……私は…………勇者クレマチスチャンネルと勇者セントポーリアチャンネルが好きで……彼女達は新人ながら非常にがんばっているというか、まだ幼くとも一生懸命なのが琴線に触れると言いますか、小柄な身体のどこにあんなパワーが秘められているのか」


「いや、良い、そこまで話さなくても良い」


「二人ともまだ十歳と九歳というのが、またこう――はっ! それで魔王様、私にはいかような処罰が……!?」


「処罰をしに来たのではない。お主は勇者アマリリスを知っているか?」


「もちろんでございます。今、一番人気の勇者ですな。このままいけば我が魔王城に侵攻してくるのも時間の問題かと。魔王様はそのために対策を準備しているとデモーニアから伺いました」


「その準備のためにお主を呼んだのだ、ディテュレイオス。お主は“勇通部”の魔力網について詳しかったな」


「はい、世界中の魔導士どもが結託して作り上げた魔力網――世界中に動画を届けるための巨大な通信魔法は我が軍にとっても脅威ですので。その魔力網を妨害せよとおっしゃるのでしたら、お任せください」


「いや、我らがあの膨大な魔力網に手を出したところで焼け石に水だ。魔力網の根幹を成している世界樹を破壊すれば止まるだろうが、あれは私が欲しい」


「では……私は何を?」


「うむ、少しだけ魔力網に細工をするだけで良い。作戦はこうだ――」


                         *


『ゆー! つー!』

『ばー! 勇者アマリリスチャンネルをご覧のみなさま、こんにちは! ROPこと勇者スノードロップと――』

『勇者アマリリスです! 今日はエルフの森に来ています! どうですか、この巨大な木、見えてますか? ここからでも見えますよね?』


 鬱蒼とした森の入口。そこからカメラが上方にパンすると、一本だけ巨大な木が生えているのが見える。

 大陸中央に位置する“世界樹”より数倍小さいが、それでもこの世のどんな建物よりも高い。


 あれは東のエルフの“守り木”と呼ばれるものだ。

 その木から発生する聖なる力が森を守っているのだとか。

 勇者に力を与える精霊の、木バージョンといえよう。


「ふん……」


 私は手から小さな魔力を放出し、水晶板の画面を操作する。

 勇者アマリリスの顔が消え、別の動画が再生される。


「あれ、魔王様いいんスか? アマリリス観なくて」


「デモーニアか。今は別の動画を観なくてはならんのでな」


「ああ、例の奴ッスか」


 水晶板に映し出されるのは、先ほどと同じ森の景色。


 しかしアマリリス達の時とは違い、すでに森の奥深くに入り込んでいる。

 背の高い木々に囲まれたそこは、エルフの領域。


『どうも初めまして』


 人も動物も入れないほど草が生えたその場所に、ひとりの少女が立っている。


 カールした長い赤髪に、スレンダーな体型。

 黒いスーツは身体にぴったりと貼り付いて、ボディラインを強調させている。


『勇者ブラックローズと申します。以後、お見知りおきを』


 ブラックローズと名乗った少女は、画面の向こうの視聴者に向かって笑う。

 それはアマリリスのような元気な笑顔でも、スノードロップのような優しい笑顔でもなく、見たものを戦慄させるような肉食獣の笑みだった。


『さっそくですが、今日の動画の趣旨をご説明しましょう』


 カメラが引き、エルフの森が映し出される。


『ここは千年もの昔より続くエルフの森――とは言われていますが、別にエルフがこの森を作ったわけではありません。古くからある森に勝手に住み着いたエルフが領有権を主張しているだけです』


 勇者ではなく森のみを写し続けるカメラ。

 メッセージ性の強い動画である。


『それなのに森に入ろうとする人間は拒絶され、うっかり足を踏み入れた人は最悪殺される場合もある。理不尽だとは思いませんか?』


 ブラックローズは問いかけるように語り続ける。


『だから私はエルフを“悪”だと断定し、勇者の名の下に裁きを下します』


 その手に持っているのは、杖。

 先端が花のように広がっており、その中央には空洞がある。


 その花が燃えた。


 強い魔力の火を宿した杖を手に、ブラックローズはこう続ける。


『今から、この森を燃やしてみたいと思います』

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