第14話 ドッキリ仕掛けてみた! Bパート

「うーん、またコレかぁ……」


 ビキニアーマーを着たハナは、自分の腹肉を摘まんで不満そうな顔。


「最近、またお腹の肉が出てきちゃって、恥ずかしいよぅ……」


 俺は多少肉付きが良い方が好みだ。

 が、以前そのことを口に出したらめちゃくちゃ怒られた。なんでだ。


「次は浜辺での戦いだから、ビキニアーマーの方がいいだろ」


「いや、あのねテンちゃん、私はまだいいけど、ユキちゃんが……」


「その事はちゃんとユキとも話して納得してくれた。そうだろユキ?」


「は、はい。テンジクさんは『嫌だったら着なくていい』って言ってくれました。でも私は大丈夫だから……」


 ビキニアーマーを身につけているユキ。


 以前の扇情的な格好と比べると、胸と腰を大きく隠す鎧を着ているだけで非常に爽やかに見えた。これなら精霊も怒らないだろう。


「それにね、海辺でビキニなら恥ずかしくないっていうか……逆にガチガチの鎧を着た方が浮いちゃうような気がして……」


「た、確かにそうかも」


 浜辺で鎧を着ている二人を想像したのか、ハナも納得してくれた。


「それに、もう私はちゃんと自分の意見を言えるよ。嫌な事があったら、ちゃんとテンジクさんに『嫌だ』って言うから」


「うん、私もちゃんと言うようにするよ!」


 それでいい。自分の意見はじゃんじゃん言ってくれ。


「ビキニアーマーになるのは浜辺だけだ。それまではこれを着てもらうから安心しろ」


 そう言って俺が用意したのは、ゴシックめいたドレス。


「うわっ、なにこれ、可愛い! だけど大人っぽい! これテンちゃんの趣味!?」


「……と言いたいところだけど、視聴者さんからもらったんだ。俺も調べてみたが、この服、すごく強い防御魔法がかけられてる。刃も通さないし、あらゆる属性に対して有効な一着だ。たぶん、そのビキニアーマーより強い」


「ふぁー……すごいね、どこの職人さんが作ったんだろ」


「手紙には、最果ての地に住む魔導具職人が作ったって書いてあったな。送ってくれたのは、いつもコメントくれる“MAOH”さんだ」


「あっ、MAOHさん知ってる! すごく真面目なコメントくれるんだよね!」


「私が恥ずかしい格好をした時、私の身を案じて叱ってくれた方です。厳しいけれど、とても優しい方なんでしょうね」


 ハナもユキも嬉しそうだ。


 次の動画ではこの服を着て、MAOHさんにアピールしよう。きっと喜んでくれる。


 そんでもって、浜辺についたら服を脱いでビキニアーマーで戦ってもらおう。

 ドレスの下にビキニアーマー……きっと視聴者も驚くぞ。


 よし、今日の動画はこれで決まりだ。


                *


 ――と思っていたんだが、いきなりトラブル発生。


 なんでドレスが溶けるんだよ!


「ちょっと! なんなんですかこの服! 騙された!」

「もう! 最初に言ってくださいよ!」


 撮影している俺に向かって怒鳴る勇者達。


 正直、俺もわけがわからない。

 あのドレスの魔力が強すぎたせいで、生地が耐えられなかったんだろうか。


 まるで呪いに近い魔法がかけられていたからなぁ。

 よくあるんだよ、気合い入れすぎて魔法付与に失敗する事。


 くっ……せっかくMAOHさんが送ってくれたのに。

 あのドレスが欠陥品って分かったら悲しむだろうなぁ。


「えっと、その、あれだ……これは、そう、ドッキリだ!」


 まさか欠陥品を宣伝するわけにもいかないから、これは俺が用意したドッキリ用の衣装という事にしよう。

 あとで画面の下部にでも「ドッキリ大成功!」というテロップも書いておこう。

 そうすればMAOHさんも自分が送った服とは別物だと……思ってくれるかな。


「コレ着てなかったら、全裸だったんですよ! どう責任とってくれるんですか!」


「騙して悪かったな。でも、ビキニアーマーを下に着てるって分かってたからさ」


 嘘だ。


 本当はビキニアーマーを着ていたのはまったくの偶然だ。

 もしも着ていなかったら……女神に“凍結”される動画になっていたかもしれない。


 そうなったら動画はお蔵入りだ。


 再生数で女神の加護を得ている以上、それは勇者にとって少し困る。


「まぁまぁMARIRIN、ビキニアーマーが役に立ったじゃない。それより、今日の“本題”に入りましょう」


 スノードロップがとりなしてくれて、なんとかこの場は切り抜けた。


 しかし……MAOHさんには本当に悪い事をした。

 もっと俺が服の魔力を調整していれば、こんな事にはならなかったはずだ。


                      *


 その日の夜、宿屋にて――


「……というわけで、溶けた服を作り直してみた。今度はバッチリだ。前と同じくらいか、それ以上の防御魔法をかけてみたぞ」


「うわぁ、ありがとうテンちゃん!」


 ドレスを抱きしめて、明るく笑うハナ。


 この服はまた別の日の動画で使おう。

 きっとMAOHさんも喜んでくれるはずだ。


「前と違うのは、いつでも色を変えられる点だ。魔力を調節する事で生地の色が変わるから、その日の気分や他の服との組み合わせに応じて調節してくれ」


「そんな事までできるように……テンジクさん、本当にすごい才能ですね」


 さっそく色を変えて、白いドレスを着ているユキ。

 彼女は白色の服が好きなようだ。覚えておこう。


「それもこれも、楽しい動画を撮って二人の良さを伝えるためだ。面白い動画のためならどんな厳しい魔法でも習得してみせる」


「うんうん! 世界平和のために、テンちゃん頑張ってるんだよね! 私ずっと見てたから知ってるんだ! “勇通部”のために努力してるって」


 無邪気なハナの言葉が刺さる。


「……ああ、そうだな」


 それでも構わない。

 結果としてハナが笑ってくれれば、俺は別にいいんだ。


 今も新しいドレスを着て、一秒ごとに色を変えながらバカみたいに踊っている。

 いや、バカなんだろうな。

 俺のミスで服を溶かした事なんて、もう完璧に忘れてやがる。


「テンジクさんって、器用なのか不器用なのか時々分からなくなります」


「なんだよユキ、いきなり」


「フフ、なんでもありません」


 口元を押さえて笑っているユキ。


「ところでテンジクさん、明日はどんな動画を撮るんですか?」


「ああ、それなんだけど、実はこの町に来たのは目的があってな。“ぜひ来て欲しい”ってコメントがあったんだよ、町長から」


「町長さんから? 魔物討伐の依頼ですか?」


「それもあるんだけど、どうもこの町、勇者アマリリスのファンが多いらしくてな。小さな町だから、もうほぼ全員が動画を観てくれているらしい。それで、一目アマリリスに会いたいって人がたくさんいるらしくて……」


「まぁ、それじゃ町の人みんなに挨拶しないとですね」


「あ、もちろんスノードロップのファンもいるぞ。ちゃんとコメントに書いてあったし」


「い、いえ、そんなフォローしなくても……嬉しいですけどね」


「じゃあ、交流会しようよ! ファンのみんなとごはん食べたりして!」


 回っていたハナも会話に加わってくる。


「私、いつも応援してくれてる人に直接お礼言いたいよ! みんなのおかげで勇者がんばれるって、直接伝えたい!」


「そうだな……よし、そうしてみるか」


 明日はファンのみんなとの交流会を撮影しよう。

 きっとハナもユキも喜んでくれるはずだ。


 念のため、警戒はしておこう。

 二人とも年頃の女の子だ。変態に絡まれる可能性がないわけではない。

 俺は撮影兼ボディガードというところか。


 絶対に二人には手出しさせない――いや、待てよ?


「いっそのこと、明日もビキニアーマーを着て交流会というのは」

「嫌だよ」

「絶対に嫌です」


 魔王よりも怖い二人の笑顔だった。

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