第13話 ドッキリ仕掛けてみた! Aパート
『ゆー! つー!』
『ばぁー! みなさんこんにちは、勇者アマリリスチャンネルのROPこと勇者スノードロップと!』
『MARIRINこと勇者アマリリスです! よろしくお願いします!』
魔物のいない草原を歩く勇者達。
『今日も新しい装備のご紹介をしたいと思います! 見てください、この服!』
今日の勇者達が着ているのは、黒いドレス。
ゴシック風の衣装に身を包んだ彼女達は、まるで魔界の貴族のようだ。
ドレスだけでなく、悪魔の耳を模したカチューシャまでつけており、より一層ダークな雰囲気が漂っている。
『似合いますか? 悪魔風っていうのかな? 勇者にはちょっと合わないかもしれないけど、でも可愛いから許してください』
うむ、可愛いから許そう。
『ROPちゃん、この服はどうしたの?』
『はい、宅配コンドルが今朝届けてくれたものです。いつも観てくださってる“MAOH”さんからのプレゼントだそうで、なんでも世界の果てにある魔導具職人が作ったのだとか』
ククク……その通り、世界の果てとはこの“魔王の領域”の事だ。
貴様らにその服をプレゼントしたのは、何を隠そうこの私。
「魔王様、先日からずっと部屋に篭もって何やってるのかと思ったら、そんなモン作ってたんスか」
「おおデモーニアよ、お前が普段着ている服を参考に作ってみたのだ。非常に良いデザインだったから真似してみたぞ」
「そ、そりゃどもッス……って、とうとう魔王様、勇者の手助けまでするようになったんスか? 何か手を打つって言ってたけど、もしかして勇者に寝返るとか……?」
「馬鹿者、私がそんな事をするはずがなかろう」
勇者達は何も知らずに、私が送った服を着ている。
『この服、ただの服に見えるんですけど、ものすごく強い防御魔法がかけられてます! 鋼鉄の鎧より硬くて、衝撃も吸収してくれるんですよ!』
クルクル回ってスカートを巻き上げる勇者アマリリス。
そうだ、そうやってその服を着続けるといい。
私が作った――特製の呪いがかけられた服をな!
「フフフ……その服を身につけてどれくらいになる。あともう少しといったところか」
「魔王様、あの服にどんな仕掛けをしたんスか?」
「うむ、一定の時間が来れば自動的に溶けて消滅するように細工しておいた」
「……なんつーか、セコイ手ッスね。爆発するとか、呪い殺すとか、そういうんじゃダメだったんスか?」
「強い呪いをかければ、精霊が気づく。その加護はあらゆる呪いをはね除ける。それにそんな禍々しい呪いをかければ、スタッフの誰かが気づくであろう」
「でも、服を脱がすだけなんでしょ?」
「脱がすだけ――とお前は言うが、“勇通部”においてそれがどれだけ危険な行為か分かっているのか?」
「……あっ、そうか!」
過度な露出は精霊の怒りを買う。
服が全て消え去り、全裸になったらどうなるか。
精霊によって――そう、“凍結”されてしまう。
私自らが手を下さなくても、こんな簡単な呪いで勇者を滅ぼしてしまえるのだ!
装着者ではなく服そのものに呪いをかけているので、着た者も違和感に気づかない。
誰も気づく事なく作戦は完遂するだろう。
「クックック……! もらった高性能な道具は使ってレビューしたがる“ゆーつーばー”の心理を突いた我が作戦、完璧すぎる……!」
「……んん? でも、ちょっと待ってくださいッス」
「どうしたデモーニア」
「これってリアルタイムじゃないですよね? つまり撮った動画を、後から編集したものをアタシ達が観ているわけで――問題がある動画だったら、そもそも“アップロード”できないッスよね?」
「……む」
しまった、そうだった。
「という事は、この動画はどうなるのだ? 服が溶けたら裸になるだろう? 彼女達はいったいどうやって切り抜けるというんだ!? くっ……気になる!」
「……魔王様、完全に術中にハマってますよね」
しかし、我が呪いは完璧だ。このままいけば、あと数秒で服が溶ける。
恥ずかしい姿を全世界に晒してみよ、勇者よ!
『あれ……なんだろ、何か違和感が……』
『本当です、あれれ、服が!』
ドレスがドロドロに溶け、白と褐色の肌が見えだした。
やった! 呪いは成功した!
『きゃーっ! なにこれ、服がっ!』
次第に露わになっていく勇者達の肌。
肩、太股、腕、そしてたわわな胸が――
んん?
『ちょっと! なんなんですかこの服! 騙された!』
『もう! 最初に言ってくださいよ!』
アマリリスもスノードロップも、溶けた服の下にビキニアーマーを着ていた。
アマリリスはマグマの時と同じ鎧だが、スノードロップもそれの色違いを着ている。
『コレ着てなかったら、全裸だったんですよ! どう責任とってくれるんですか!』
カメラに向かって激怒するアマリリス。
『まぁまぁMARIRIN、ビキニアーマーが役に立ったじゃない。それより、今日の“本題”に入りましょう』
『むー……あとでたっぷり話を聞かせてもらうからね! もう! ――それじゃ、今日も魔物退治、がんばってみたいと思います!』
カメラが横に動く。
どこまでも続く草原――かと思いきや、すぐ近くに小高い丘がある。
その丘を越えたカメラが映したものは――海岸だった。
『今日はこの海に最近現れたという、ヘルファイアバグという虫を退治したいと思います! 周りは海だし、炎属性の攻撃を使ってくるんで、このビキニアーマーがまた役に立ってしまいます……』
『最初は恥ずかしいと思いましたけど、海なら普通のファッションに見えますねこれ』
少し照れながら笑う勇者達。
スノードロップの言う通り、背景が海ならばまったく問題ない。
「くっ……ロケーションと討伐対象、そして私が送った服、どちらもビキニアーマーのための布石だったというわけか……!」
なんという緻密な作戦。
きっと私が送った服の呪いも早々にバレていたに違いない。
アマリリスのスタッフはどれだけ賢いのだ。
「なぜ今日に限ってヘルファイアバグの討伐など……誰だあんなところに配置したバカは!」
「魔王様が配置したんじゃないスか……勇者のビキニアーマーがまた観たいって言って」
「そ、そうだった……!」
「で? 勇者達への対策ってこれで終わりッスか?」
「い、今のは第一弾だ。まだ策はある! これはほんの前哨戦だ!」
おのれ勇者め……!
それはそれとして、やはりビキニアーマーはけしからん。空を飛ぶヘルファイアバグを叩き落とそうと何度もジャンプしているアマリリスとスノードロップ。
色々な部分が揺れに揺れており、非常に目のやり場に困る。
だが、これは魔物討伐の動画だ。
必要な場所で必要な装備を着て、必要な動きをしているだけだ。
ククク……さすがにこれなら女神も手が出せまい。
「ねー魔王様、アタシもそういう格好した方がいいッスか?」
「いや……いいよ別に」
「むー…………」
「いや違う、別に似合わないとかそういう意味でなくてな、お前にはもっと似合う服があると言いたくてだな」
「じゃあもっと似合う服作ってくださいよ! 勇者にプレゼントしたみたいに!」
「う、うむ……」
「わーい! 約束ッスからね!」
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