第11話 魔物退治の裏技、お教えします! Aパート
『ゆー! つー!』
『ばぁぁぁぁぁ!』
『はいみなさんこんにちは、新しい勇者が入った勇者アマリリスチャンネル、今日もMARIRINことアマリリスと!』
『ROPこと勇者スノードロップの二人でお送りします!』
おっ! 今スノードロップ、自分のこと“ROP”って言わなかったか?
私が送ったコメント読んでくれたのか!
それにしても「ゆーつーばー!」という掛け声はなんなんだ。
『ROPちゃん、掛け声間違ってるよー! そこは“勇通部”って言うとこだよ!』
『ご、ごめんねMARIRIN、緊張して噛んじゃった!』
『でも、なんかイイネ、ゆーつーばー!』
『ウフフ、そうかも』
『ゆー! つー!』
『ばーーー!』
『アッハハハハハハ!』
楽しそうに笑っている勇者。
嗚呼、なんと可愛い光景なんだ。ずっと見ていたい。
『はい、というわけで今日はですね、大陸南東にありますギッチシ地溝という場所に来ております! ここは大陸を横断する四街道から外れた場所にあるんですけど、見てください、今は魔族の巣になってます』
勇者アマリリスの背景は、荒れた岩山。
そしてその下に視線を移すと、背後に控えている大量の魔物達。
ギッチシ地溝は私が手を加えたわけではない、天然の魔物の巣だ。
昔からそこに住んでいる巨大トカゲ、レッドバジリスクが暮らしており、有事の際には私が命令して人間の村落を襲わせている。
『今日は付近の村から依頼が来たので、このレッドバジリスクを退治したいと思います!』
『私もこのチャンネルで戦うのは初めてなので、がんばります!』
フッ――勇者よ、そんな装備で大丈夫か?
見たところ防御を固めてきたようだ。
今日は二人とも胴をプレートアーマーで覆っている。しかし下半身を守るのは広がるフレアスカートのような鎧。
まるで姫騎士といったところか。
『今日はマゴロクの町に住む鍛冶職人さんにデザインしていただきました! 私とROPちゃんを見てピンときて、徹夜で作ってくれたんですって!』
『金属部分はオリハルコンで作られていますが、布地には耐性魔法がかけられています。これ、買ったらいくらくらいするんですか?』
『それが、なんと、七〇〇万ガッツ』
『な、ななひゃく……! そんな高いの、もらっちゃっていいんですか!?』
『その分、性能は保証されてるよ! これでレッドバジリスクも倒せるから!』
七〇〇万ガッツ――確か人間の一般的な成人男性の平均年収が四〇〇万ガッツ。
それを大きく上回る高級な鎧を無償で着る事ができるとは……宣伝効果とは本当に恐ろしいものだ。これで鍛冶職人はその数倍の利益を得ることができるのだから。
『武器も特注なんだけど――ねえROPちゃん、剣じゃなくていいの?』
アマリリスが手にしているのは、いつもの勇者の剣。
これも視聴者の鍛冶にプレゼントしてもらった高級品。
『はい、私はこれで――』
対するスノードロップが手にしているのは、巨大なハンマーだ。
そんな細腕で扱えるものではないが、精霊の加護があれば違う。
『よし、それではレッドバジリスクを倒してみたいと思います!』
武器を構える勇者二人。
対するレッドバジリスクは数十匹。その一体ずつが人間と同じくらいの体長を持つ。それこそ人間などまるっと飲み込めてしまう。
だがレッドバジリスクの本当の強さはそこではない。
「くっくっく……勇者よ、お前達の事は応援していたが、それも今日までだ。明日から別の勇者のチャンネルを登録させてもらおう」
「魔王様、レッドバジリスクってそんなに強いんスか?」
「おおデモーニア、お前はこの種族の事を知らないのか。まぁ辺境の魔物だから仕方ないか……」
「見たところ、フツーのリザード族に見えますけど」
「うむ、体表が赤いだけのリザード族に見えるが、それだけではここまで脅威にならぬ。レッドバジリスクの一番の強みは“硬さ”だ。あの鱗はどんな刃も魔法も通さぬ。私でも殺すのに手こずるほどだ」
「魔王様でも!? それ殺せる種族いるんスか!?」
「寿命が短く、繁殖能力も低いのが唯一の弱点といえよう。しかし私の“転生術”があればある程度までは増やせるがな」
さあ勇者よ、お前の悲鳴を聞かせてみよ!
勇者アマリリスチャンネル、今日が最終回だ!
『ROPちゃん、それ何?』
『はい、お水です』
『お水? それどうするの?』
『レッドバジリスクの鱗はとても硬いんですけど、お水をかけると柔らかくなるんです』
え、うそ?
初めて聞いたんですけど。
『それで、こうしてお水をかけて――柔らかくなったところを、上から叩きます!』
水をかけられたレッドバジリスクが戸惑っている間に、勇者スノードロップの容赦のない一撃が繰り出される。
内臓を潰されてたレッドバジリスクは、たった一撃で死亡してしまった。
『柔らかくなったとはいえ、刃で傷つけるのは難しいんです。だから鈍器で内臓を攻撃するのが一番なんですよ』
『へぇー! すごい裏技だね! 私もやってみます!』
アマリリスもハンマーを持ち、次々にレッドバジリスクを殺してゆく。
口からを血を吐いて倒れるリザードたちが積み重なっていった。
「……え、ええー……なにそれ、裏技って……」
「これ、“勇通部”に投稿されちゃったから、全世界の人間が知る事ができるんスよね。かなりヤバくないスか?」
「…………おのれ勇者」
「ねー魔王様。本当に対策取らなくていいんスか? このままだと、アマリリスの精霊の加護がさらに強くなるんじゃないスか?」
そうなのだ。再生数が伸びると、加護も強くなる。
そのためにはなんとしてでも勇者を抹殺しなければならない。
しかし抹殺のために下手な刺客を差し向けても返り討ちに遭う。
その様子を“勇通部”で投稿されたら、さらに再生数が伸びるという悪循環。
「……手を打たねばなるまい」
勇者アマリリスチャンネルは、心から応援している。
それは魔王として絶対に安全な場所から、弱い人間どもが足掻く姿を見る楽しみだった。
しかし勇者アマリリスの成長速度は懸念すべきレベルに至っている。
今はまだ私どころかデモーニアにも勝てないだろう。
しかし今後――そう、あと数ヶ月もすれば分からない。
「手を打つって、具体的に策はあるんスか?」
「策はある。だがそれを成すためには準備が必要だ。デモーニアよ、お前にも協力してもらう。勇者を抹殺し、人類を滅ぼすために私もあらゆる手を使うぞ」
「おお……珍しく魔王様がやる気だ。いつもそんくらいカッコ良ければなぁ」
「部下の前では凛々しくあるように務めているつもりだが」
「私、部下じゃないんスか……なんだと思ってるんスか」
「お前は特別だ。もう慣れた」
「と、特別って……! べ、別にそんな事言っても、騙されないッスよ」
デモーニアは口が固いからな。
私が“勇通部”を楽しんでいる事を他の部下にも黙っていてくれる優秀な娘だ。
『それでは! 次回もまた観てくださいね! チャンネル登録もよろしくお願いします! それではー! ゆー!』
『つー!』
『ばーーー! アハハハハ、ばいばーい!』
どうやらあの「ゆーつーばー!」という掛け声が気に入ってしまったようだ。
このセリフは……流行るかもしれん。
私も覚えておこう。
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