第9話 商品レビューしてみた! Aパート

『ゆーゆー! 勇者アマリリスチャンネルへようこそ! MARIRINこと勇者アマリリス、と!』

『え、えっと、勇者スノードロップ、です!』

『今日から二人でお送りする事になりました! よろしくお願いしますっ!』


 おお……スノードロップはこれから永続的にアマリリスチャンネルに出るのか?


 しかも前回のような痴女っぽい格好ではなく、きちんとしたブラウスを着ているではないか。となると、前回のアレはなんだったんだ?


『えっと、視聴者の皆さんは混乱してると思うでしょうから、スノードロップちゃんから簡単に経緯を説明してもらいますね』

『は、はい……あの、ご説明いたしますと、うちのスタッフが“凍結”されてしまいまして、スノードロップチャンネルを継続する事が難しくなってしまいました。ファンの皆様には本当に申し訳ないと思っています』


 凍結――だと?


 勇者の資格を悪用する者に対し、憎き精霊が罰する行為だ。


 おおかた、スノードロップの美貌を利用して一儲け企んでいたスタッフが凍結されたのだろう。自業自得だが、スノードロップ本人は利用されただけ、というところか。


『でも、アマリリスちゃんと一緒に冒険を続ける事が許されたので、これからは一緒にがんばっていきたいと思います! これからも応援よろしくお願いします!』

『うん! 頑張ろうね、スノードロップちゃん!』


 スノードロップに抱きつくMARIRIN。

 なんだかずっと昔からそうしていたかのように仲良しだ。


 可愛い女の子同士がこうしてイチャイチャしているのも……うむ、良いぞ。


『今日はお知らせだけではありません! ちゃんと勇者としての活動も撮らないといけませんからね! と、いうわけで、前回予告していた通り、今日はこちら!』

『フォスの町の名物を買ってみた、です!』


 彼女達がいるのは、宿屋の一室。


 そのテーブルの上に様々な物品が並んでいた。


『前回フォスの市場で買ってきたものが、たくさんあります! 今日はその中でもオススメの逸品をご紹介したいと思います!』


 こうしてMARIRINはフォスの町を宣伝する。

 町は潤い、勇者も潤う。


 私もよく知らないのだが、再生数が上がれば勇者は喜ぶらしい。


 各地で援助を受けられるだけでなく、金銭も儲かり、さらには勇者の力も強まる。


 あのクソ精霊が「おっ、あの勇者は世界中から注目されとんのか! じゃあ加護を増やしたろ!」というノリで強化してくれるのだとか。


 まったく忌々しい人間のシステムだ!


『まずは――こちら! お肉のサンドイッチ!』


 MARIRINが手にしているのは、紙に包まれたパン。

 切れ目を入れたパンの間に挟まれた肉には茶色いタレがかかっており、野菜もふんだんに盛られている。


『市場で大人気のサンドイッチで、行列ができてました! もう肉がめっちゃはみ出てて、包み紙がないと食べるの大変そうですね! それじゃ、いただきまーす! …………うわぁ、おいし~い!』


 肉にかぶりつくと、すぐに笑顔が緩くなる勇者アマリリス。


 何か食べている時の彼女は本当に幸せそうで、見ているこっちも幸せになる。


『あ、でもやっぱりこれ、包み紙があっても肉がはみ出て、タ、タレが! あ、あー!』


 紙から零れそうになるタレを指で掬って舐めとるMARIRINもまた可愛い。

 庇護欲をそそられるのだろうか、見ていてハラハラするのに飽きない。


『……これは……ウンガドードーのお肉を使ってますね』


 同じようにサンドイッチを食べるスノードロップがそう評する。


『なーにウンガドードーって?』

『ええと、この大陸の南の方に生息する鳥です。育てるのがとっても難しいので、とても高価だと言われてます――そのお肉をふんだんに使ってますね』

『へぇー! スノードロップちゃん、詳しいんだね! 凄い!』

『い、いえ、そんな……たまたま知っていただけです』


 頬にタレをつけたまま笑うアマリリスとスノードロップ。


「おい、デモーニアはいるか!」


「なんスか」


「あのパンが食べたい。買って来てくれ」


「クッソ面倒なんで嫌です」


「いやだってお前も観てみろって。ほら、フォスの町の肉サンド」


「あ……おいしそー…………あれ、でも魔王様、フォスの町って、今度滅ぼすって言ってませんでしたっけ? あの塔が邪魔とか言って」


「マジで? そんな事――あー、言ったわ。儀式の邪魔なんだよ、ちょうど太陽の光があの塔に遮られて」


「どうします? 滅ぼしたらあの肉サンド食べられなくなりますよ?」


「くっ…………作戦は中止だ!」


「了解ッス。軍団にも伝えておきます」


「あ、伝えるならついでに肉サンド買ってきてくれ」


「嫌ッス。代わりにアタシが作りますよ。ウンガドードーの肉さえ手に入れば、ま、なんとかなるっしょ」


「おお……ありがとうデモーニア。お前はよくできた部下だ。次の転生先はもっと強い魔物にしてやるからな」


「……別にいいスよ、今のままで」


 私が夜食を楽しみにしている横で、映像の少女達は楽しそうにしている。


『食べ物だけじゃないんですよ! 市場で売ってた服も買っちゃいました! スノードロップちゃんが着てるこのブラウスもそうです!』

『は、はい……とてもいい服、ですよね』

『他にもたくさん服あるんですよ! なので、これからファッションショーです! フォスの町の服飾技術、しっかり覚えていってくださいね!』


 たくさんの服を抱えて、画面外へ出ていく勇者達。


 次はどんな衣装に着替えてくるのか……ふふふ、人間め、期待させるではないか。


『じゃーん! どうですか? フォスの町の狩人装備でーす!』


 アマリリスが着替えたのは、森林で活動するハンターが着る革の鎧。

 なめした動物の皮で作られたそれは、新緑に染められている。


 今までのキュートな路線から外れた、冒険心溢れる服だ――しかし、今までのMARIRINを知っていると、どうにもコスプレ感が否めない。


『ど、どうですか? ヘンじゃないですか?』


 対するスノードロップの衣装は、先ほどまで着ていたブラウスとは違い、フリルがついたもの。それにエンジ色のロングスカート。


 褐色の肌に、清楚な服のミスマッチ。


 いや、だが、これは良い――激しく良いぞ!


 もともとこの勇者、どこかのお嬢様だったのではないか――

 そう自然に思わせるほど似合っている。


『すっごーい! とっても似合うよスノードロップちゃん!』

『ほ、本当ですか?』

『可愛い! ね、視聴者の皆さんどうですか!? すっごく可愛いですよね!?』


 ずっと可愛いを連呼するアマリリスに、スノードロップも困惑している。


 よし、ここは彼女に同意して私もコメントを送っておこう。


 ――スノードロップさんの衣装、とてもよくお似合いです。以前は貴族の令嬢だったのでしょうか? これからもこの調子で頑張ってください。あと、スノードロップさんの愛称ですが、名前からとって“ROPロップ”というのはどうでしょう?


 うむ、これでいい。届け、私のコメント!


「魔王様、ごはんできましたよー! ここで食べます?」


「いや、もう動画は終わったからそっちに行く。一緒に食べよう」


「えへへ、魔王様、アタシの肉サンド食って腰抜かさないで欲しいッスよ!」

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