第3話 皆さんからの質問コーナー! Aパート

『ゆーゆー! 勇者アマリリスチャンネルをご覧の皆様、こんにちはー! MARIRINこと勇者アマリリスです! 今日はですね、先日救った町の温泉宿からお送りしてます。いやー、ここのお風呂とっても気持ち良かったですよー!』


 フッ……先日のビキニアーマーも良かったが、今日のパジャマ姿も愛らしいじゃないか。湯上がりで上気した赤い頬がまた良い。


 こう、露骨に温泉に入る動画を撮影するより、「さっきまでゆっくり入ってました! 全裸で!」と視聴者の想像を煽るようなやり方、なかなかのものだな……。


『山の魔人も倒して、今日は村でおもてなしされちゃいました。さっきまでゴハン食べてたんですけど、イノシシのお鍋がとってもおいしくて――』


『あっ、そうそう、今日はですね、冒険がお休みなので、視聴者の皆さんからの質問にお答えしようと思います。今までのコメントから、拾っていきたいと思ってます』


 ほう、質問コーナーか。


『ええと、それじゃ最初の質問――“オレモユーシャ”さんからの質問ですね。“そもそも“勇者”とか“勇通部”ってなに? なにする人なの?“ あー……確かに知らない人もいるかもしれませんね』


『勇者っていうのは、魔王を倒す資格を持ってる人なんです。子供の頃に精霊様に選ばれたら、修行をして旅に出るんですよ』


 その通り。我が身を滅ぼす聖なる加護を受けた、忌々しい人間だ。さらに厄介なことに、勇者はひとりではない。精霊の加護は資格さえあれば何人も分け与えられる。


『ところがですね、勇者にもいろいろいまして――悪さをしたり、逃げ出しちゃう人がいるんですね。そういう人を監視するために作られたのが“勇通部”です。だけど今はご存じの通り、勇者の活躍を応援するための用途になっちゃってますよねー』


腐りきった人間どもが互いを監視するためのシステムが、よもや勇者や人間の士気をあげるはめになってしまうとは。まったく腹の立つ人間どもである。


『はい、じゃあ次の質問! “MARIRINたん親衛隊会員ナンバー01”さんから。“MARIRINたんの年齢は? 好みの男性のタイプは? 生まれ故郷はどこ?”』


 フン、くだらぬ。MARIRINの情報など根掘り葉掘り訊いてどうする。水晶板に映るありのままの彼女を応援すれば良いものを――


『えーっと、年齢は十六歳です。好きな男性のタイプは優しい人……かな?』


 ほう、優しい人……ちょっと世界征服を企んでいるが、私も充分優しいぞ?


『故郷はハイアン大陸のテンダーフォレストっていう小さな村。みんな優しかった、大切な思い出の場所でした』


 私は知っている。彼女の故郷はもはやこの世には存在しない。


『勇者の故郷ってことで、魔王に滅ぼされるといけないので、私の出立と同時に村は解体しました。両親を含む村人は他の場所に村を作って、元気に暮らしていますよ!』


 ――本当に忌々しい人間め。


『それじゃ次の質問いきますね。“サイキョー魔法使い”さんからの質問。えーと“いつもアマリリス様を撮ってるのは誰ですか?”……あっ、そうか、そういえばスタッフさんの事、あまり喋ってませんでしたね!』


 そう、そうだ。


 ずっと気になっていたのだ、勇者アマリリスを撮影しているスタッフ。あれはどんな連中なのだ?


 私が見る限り――只者ではない。


 そもそも通信魔法は膨大かつ繊細な魔力操作を要求する。大きな情報をそのまま遠方へ送るのだから、当然だ。


 このチャンネルが人気である理由のひとつに、“画質”がある。

 水晶板に映し出される映像はとてもクリアで、現実と見紛うほど。

 凄腕の魔導士が映像を送っているに違いない。


 しかも――MARIRINが絶対的な信頼を置いている者が。


 おそらく国が派遣した精鋭の魔導士どもだろう。さすがにあのレベルの通信魔法を単独で行っているとは思えない。有能なスタッフが何人もついているのだ。


『えっとぉ、スタッフさんの事はあまり言っちゃいけないんです。魔族に狙われるといけないから。でも、ずっと私と一緒に旅してくれてるんです。いっぱい迷惑かけちゃってるけど、お仕事だから仕方ないって言ってくれて……』


 お仕事だと? 本当にそれだけか? それだけなのか?


『あ、これ撮ってるカメラ係の人はですね、私と同い年で、でもすっごく頭良くって、魔法学校でも優秀だったって――え、“俺の話はいいから”だって。あはは、珍しく照れてる』


「おい、なんだその和やかなムードは! 本当に仕事だけの関係なんだろうな! おい、もうこの質問終わりなのか!? もっとちゃんと答えろよMARIRIN!」


「うるさいッスよ魔王様! 今何時だと思ってんスか!」


「あ……す、すまんデモーニア」


 思わず声に出してしまったらしい。私の声は魔力が乗っているので、うっかりすると壁を壊しかねない。今も机の上のコーヒーカップに亀裂が入ってしまったじゃないか。


「まーた“勇通部”ッスか? あ、MARIRINちゃんの質問ッスか。へー、食べ物の好き嫌いはないんだ。いい子ッスね」


 当然だ。MARIRINは勇者なのだから。お前のようなちんちくりんの悪魔っ子とは違うんだ。身の程を知れ。


『えーと、次の質問は――“MAOH”さん――これはマオーさんって読むのかな――からですね。どれどれ……』


「……魔王様?」


「静かにしろ、勇者が喋る」


『……“昨日のビキニアーマーにはびっくりしました。とても可愛かったのですが、私は露出は控えめにすべきだと思います”だって、ほら! やっぱり怒られたよ視聴者さんに! もー!』


『ええと、続きがあるね……“鎧もそうですが、盾も新しいものでした。スペックと購入先が知りたいです”だって。わぁー、よく気づいてくれたね! そう、盾も新しいものなんです! ミッズガルの職人さんが作ってくれたんだって!』


 これでミッズガルの職人とやらは明日から注文が殺到するだろう。

 勇者にとっても職人にとっても利益の出る関係。


 本当に忌々しい人間め!


『それじゃ次のお便り――“ブッヒィ”さんからの質問で、“またあのビキニアーマーを着る機会はありますか!?”だって。ストレートな質問きたなぁ……』


『えっと、あのね、あの鎧と盾は炎に強い耐性を持ってるんです。だから、強い炎を使う魔物と戦う時くらいしか出番ないかも……ごめんなさい』


「デモーニア」


「なんスか?」


「今すぐ炎属性の魔物をかき集めろ。再配置について検討する」

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