第4話 皆さんからの質問コーナー! Bパート

「あっ……んっ……はぁっ………………だめ……そこ…………んんんっ!」


「あのさハナ、変な声出すのやめてもらっていいか?」


「んっ……だってぇっ……! そんなとこ……触られたら……やんっ!」


「お前が風呂上がりにマッサージして欲しいって言うからやってんだろ! なんだ、ダメなのか? やめて欲しいのか?」


「やめちゃ……だめぇ……! だって、テンちゃんのマッサージ、超気持ちいいんだもん……」


 そりゃそうだ、魔法学校の先輩から教わった回復魔法マッサージだ。魔力の経路図を刺激しつつ、全身に回復魔法を行き渡らせる――


 学生時代はこの技で何人もの先輩を骨抜きにしてやったぜ。へっへっへ。


「いやー……ありがとねテンちゃん。疲れてるのに、悪いね」


「疲れてるのはお前の方だろ。それに、これも俺の“仕事”のうちだからな」


「そっかー……仕事かぁ」


 仕事だよ。


 俺達“勇通部”のスタッフは、勇者が勇者らしく勇者っぽい事をしているところを全世界に届けるのが使命だ。


 持てる力の全てを使い、全力で勇者をサポートする。それが俺の仕事。


「仕事でも、嬉しいよ。テンちゃんのおかげで、私も人気が出たんだもん」


「馬鹿言うな。人気が出たのはお前が頑張ったからだ」


 俺がどれだけサポートしても、魅力のない勇者にファンはつかない。

 最初からハナの努力のおかげで、ここまでやってこられたんだ。


「……いや、それも違うな。人気が出たのは“ファン”のおかげだ。そうだろ?」


「うん、そうだね!」


 マッサージを終え、上半身を起こすハナ。宿屋のベッドに腰掛けて肩を回す。


「つーわけで、今日はファンに向けて動画を撮るぞ。質問コーナーの回にしよう」


「え、これから撮るの? やだ、じゃあ着替えないと……」


「いや、そのままでいいよ。湯上がりのハナを撮る」


「えー……恥ずかしい。なんでテンちゃん、いつも私の変なところばっかり撮ろうとするの? 変態なの?」


「前にも言ったが、冒険してない時は変わった事を撮りたいんだ。視聴者を飽きさせないための工夫だな」


 答えながら、俺は“ステータス画面”を呼び出す。


 魔導士ならば誰でも呼び出せる、自らの力をデータ化した画像。


 魔力の残量や属性を把握し、ガス欠や暴走などを防ぐための情報を文字にしたもの。最近では魔力を持つ剣士なども利用している、便利な魔法の一種だ。


「えーと、動画の“コメント”は……と」


 この“ステータス画面”を応用して、“勇通部”では動画にコメントをつけられる。ほんの少し魔法で文字を書く技術があれば、誰でも投稿主にメッセージを届けられるのだ。


 その“コメント”をざっと流し読みして、次の動画に使えそうなものを探す。


「ねーねー、テンちゃん。どんなコメントが寄せられてた?」


「……先日のビキニアーマーの件で、大激論が繰り広げられている。ハナの露出度について、コメント同士でケンカして、うわっ、呪詛まで送ってる奴がいる。これはしばらく着ない方がいいな……荒れるのはカンベンだ」


「う、うん、私もできればあんまり着たくない……かな。テンちゃんがどうしてもって言うんじゃなければ……」


                       *


「――というわけで、今日の質問コーナーはこのくらいにしたいと思います。魔力の問題で、あんまり長い時間、録画できないんです」


 俺に向かって手を振っているハナ。


 彼女の言うとおり、長時間の録画はキツい。

 俺の“魔眼”が見たものを全て記憶するためには、それなりの魔力が必要になる。

 ザラザラした画質の動画ならいいが、ハナの美しい姿を克明に伝えるためには、一秒につき常人ひとり分くらいの魔力が欲しい。


 正直、録画の後はいつもドッと疲れる。


 だが、これもハナのためだ。


「それじゃ、今日はこのへんでバイバイ! チャンネル登録はこちらから! 次回も勇者アマリリスチャンネルを――はい?」


 その時、部屋のドアがノックされた。


「すみません……勇者様はいらっしゃいますか?」


「あっ、宿屋のおばあちゃん! どうしたんですか?」


「あのね、勇者様に食べてもらいたくて、おこわ作ったの。もし良かったら、お夜食にでもと思って……」


「おこわ! うっわぁ、美味しそう! ありがとうございますー!」


「いいのよ、町を救ってもらったんだから。ライスボールにしてあるから、あとでゆっくり食べてね」


「ううん、美味しそうだから、今すぐいただきます! …………うわっ、おいしーい! この町はライスの料理がとってもおいしいですね! えへへへ、あっという間にいっこ食べ終わっちゃいそう……」


 色のついたライスボールを頬張るハナ。


 俺の“魔眼”はその様子もしっかりと録画していた。


「もういっこ食べちゃおっかな……でも太るかな……いいや、食べちゃえ! えへへ、おいしーい! しあわせー!」


「あらぁ、勇者様、本当においしそうに食べるのねぇ。嬉しいわぁ」


 脳の血管が焼き切れそうだ。

 だが、あんなに嬉しそうに食べる顔を見たら、録画を止める事なんてできない。


 ハナの笑顔は俺だけのものだ。


 だが――それをもっと多くの人に観て欲しいという矛盾した感情も、確かに存在する。

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