第23話 泣きはらしたフラン

 どうしてフランは泣いてるの?

 夢の中のフランはずっと泣いていた。何度聞いても答えてくれなくて、座り込み彼女らしくなく泣きじゃくっていた。


 私が目を覚ましたのは、あの脱走した夜から丸一日経過してからだった。

 いつもの私の葉っぱだらけの部屋のベッドの上だった。

 隣にいると思っていたけれど、私の隣にいたのはフランではないメイドだった。


「お嬢さま」

 メイドは私に気がつくとそう声をかけてきた。

「フランは?」

「……フランは責任を取り、屋敷を去る準備をしております。でも、これはフランだけのせいではございません。私も含めて獣人と暮らすことを深く考えていなかったせいにございます」

 フランが屋敷を去る?


 私は慌ててベッドから身体を起こした。

「ちょっと、待ってフランは今はどこなの?」

「自室で荷物をまとめていると思われます。お嬢さま、まだ置き上がってはいけません」


 私は立ち上がり、フランの部屋へと走り出す。

 まだ何が起こったか自分の中で整理できてない、けれど、フランが去る。

 結婚をどれだけ勧めても私が心配だからと首を縦にふらなかったフランが屋敷から去る。



「フラーーーーン!!」

 フランの名前を呼びフランの自室に飛び込んだ。

 もう荷物はまとめられていて、アランとともにフランはいた。

 二人とも私に気がつくと、その場で地面に額をこすりつけて謝罪の言葉を並べた。


「お嬢さま、謝ってすむことではありませんが。申し訳ありませんでした」

 アランはそう言う。

 フランも頭を下げているけれど、泣いてしまっているようで言葉になってない。

 フランを落ち着かせて顔を上げさせる。


 自分のせいで、取り返しのつかないことになってしまった、ごめんなさいとフランは何度も何度も泣きながら謝罪してきた。



 屋敷をクロードと一緒に脱走して、それで……。私は自分の首筋に触れる。

 そこには歯型などはもうない。

 けれど、そこに触れると、首筋に噛みつかれたこと、身体が熱くて仕方なかったことを嫌でも思いだした。


「私はフランにそんなに謝らせるようなことをしてしまったの?」

 私がフランに質問すると、フランは謝罪の言葉を述べながら何度もうなずいた。

「私はどうなったの?」

「お嬢さまは、クロードのモノになりました。今旦那様が番いの解除の方法がないか血眼で捜しておられます。今回の責任はフランだけではなく護衛として雇われていた私にもあります。本当に申し訳ございませんでした。私も明日御暇させていただきます」

 泣いて答えることができない、フランの代わりにアランがそう答えた。


 クロードのモノ? 番い?

 聞き慣れない単語に戸惑う。

「クロードはどこ?」

「屋敷の地下牢におります。といっても、すでに閉じ込めても遅かったですが……すでにお嬢さまを番いにしたので、大人しくしております」


「私は今後どうなるの?」

 今後がわからなくなった私は声が震えた。私の腹心でもある二人がともに責任を取り去ると言うのだ。ただ事ではない。

「ジュリアス様との縁談はなかったことになるかと思われます。番う前ならともかく、すでに儀式は済んだ後ですので。番いに異性が寄り付けば、嫉妬からジュリアス様を殺しかねません。本当にお守り出来ず申し訳ありませんでした」

 アランも涙を流しながら頭を下げた。



 皆クロードを子供の時から知っていたこと。まだ子供だと思っていたこと。

 獣人は物心付くと、毛並みを触られるのを嫌いだすこと。

 それは第三者、親しい者、母と身内ですら触られることを嫌がるようになるという。

 私がクロードに触れ続けられることは、親しい者だから触れられると皆思っていたこと。

 そこに、番いにしてもいいから触れることを許していたとは誰も思ってもみなかったらしい。



 確かに、クロードは私に触れられることを拒否した時期があった。

 それで私もラッキースケベのこともあり距離を取ろうとしたこともあったけれど、その時クロードのほうから触れてもいいとやってきたのだ。

 あの意味を私はようやく知ったのだ。



 手軽にモフモフ、気持ちいいとやっていたけれど、彼がどういう気持ちで私が触れるのを受け入れ目を細めていたのかを……。



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