第20話 マルクール

 私は陣から2mほどの高さのところに浮いていた。

 下に落とされると思ったけれど、一向に落ちない。

 とりあえず何とか無事、学園に召喚されたことだけはわかるけれど、どうなっているの? と辺りを見渡した。

 陣の周りには、学園の制服とは違う同じ服装をした大人が沢山いた。陣を管理する人達だろうか。



 陣の傍には、この世界にいることは知っていたけれど、初めてお会いする第二王子ジュリアスが人に付き添われ座り込み、碧の瞳でこちらを見上げていた。

 私は公爵家なので本来であればパーティーで王子様と面識があっても不思議ではないのだけれど、私の中身があまりにもアレなせいで。父と母がパーティーでやらかしては大変といつも私はお留守番だったのだ。



 レベルが上がってもMPはなかなか増えなかったので私の部屋にある葉っぱコレクションはクロードがやって来た日がかわいい量だったと思えるほど増えていて、ついには人様が来たときに通すための別室を与えられるほどになってしまった。

 端から見ると植物オタクの変わり者でしかなかった私。



 それにしても初めて見たけれど、本当にいたんだ。



 というか私すごい演出の登場の仕方してない?

 ジュリアスがいるということは私がもしかしてトリ?

 しかもジュリアスめっちゃこっち見てない?

 これ、大丈夫なのかないろんなこと。



 陣から少し離れたところに獣姿のクロードと一緒に私の父と母がいた。

 手を振ろうと思ったその時、白い光が消えた。

 光が消えると私の身体は重力に従い落下し始めた。


「アイリス」

 クロードが私の名を呼ぶ。

 彼が人ごみを縫うように進みこちらまで駆けるのはあっという間だった。


 一番最後の大きな跳躍で私のところまでクロードは到達し、その背に私は落ちた。

 すっかり乗りなれた背中に落ちたらヤバいとしがみついた。

「クロード」

 今確実に両足折れたかもって思った。

 賢い、賢いぞクロード。ペットをなでるように人前だけれど頭を丁寧になでてやるとクロードは目を細めた。



 パンパンと2回手をたたく音がした後よく通る声が辺りに響いた。

「さぁ、さぁ。召喚の儀は今年も無事終わりました。陣からさっさと出なさい」

 この声はこの学園の校長にして、最強の女マルクールだ。

 特徴的な巻貝のようにまとめられた紫の髪、小太りにも関わらず誰よりも美しく戦場を駆ける矛盾を持つ女である。



 皆すぐに指示に従い陣から出た。

 すると、同じ服をきていた先ほどまで陣を取り囲んでいた人物が私とクロードはこちらと案内する。



 今回召喚された入学者達は並べられ、そこにマルクールがゆっくりと現れる。




「状況を理解してない者も多くいるでしょう。ここは国立魔法学校、魔法学園と呼ぶかたもおります。ここに今日呼ばれた皆さんは一定量以上の魔力を有する次世代を担う人たちです」

 平民も多いのか、それを聞いて辺りがざわついた。

「お静かに!! ネズミにされたいのですか?」

 お決まりのセリフである。

 その途端辺りは再び静寂に包まれた。


「えぇ、よろしい。素直な生徒は嫌いではありません、今年は近年まれにみる豊作な年となりました。国全土から、青106、赤12、白1の者が学園の入学資格を得て今宵召喚されました」

 おそらくこれは、陣の色だろ。私の周りは主要キャラクターがいるので、おそらく私は赤の中に混ぜてもらう形となったようだ。



「最初に召喚された者も、後半に召喚された者も皆一定以上の資質があり集められた人材であることを肝に銘じ。入りたくとも呼ばれなかった者の分まで勉学に励むように」





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