第18話 運命の夜

 あれから、あっという間に時が流れた。ラッキースケベに見舞われつつも私はレベルを上げるべく奮闘した。

 勉強の傍ら必死にレベル上げに役に立つ薬品を作ってきた。ここ1年はずっと一時的でいいからMPが増える薬品は作れないか? という研究を続けてきた。

 家族もメイドも皆は私が学園に召喚の義で呼ばれるに違いないと思っているのがわかる。



 何を言いたいかというと、私は努力したが目標に届かなかったのだ。

 それが今日全て明らかになってしまう。私が魔力が少なく学園に召喚されないこと、マリアが高魔力もちということで学園に召喚されること。

 努力は実る、そう思いたかったけれど現実は残酷だ。



 父と母は『今夜は特別な夜だ、学園でアイリスが召喚され現れることを楽しみにしている』と一足先に学園へと行ってしまった。

 でもMPが100に到達していない私は今日召喚の義で呼ばれない。



 私はクロードのモフモフの毛皮に縋りついていた。

 様子の違う私を気遣ってか、すっかり人型でいる時間のほうが長くなったクロードが珍しく獣の姿で私に寄り添う。

 なめらかな毛並みをなでる。



「どうしたの?」

 優しくそう聞かれるけれど、それは答えなくてもいずれわかる。

 クロードは召喚されて、アイリスは召喚されないのだから。

 だから、私は首を振った後、今度はいつなでることができるかわからないなめらかな毛並みに顔をうずめた。




 時間はゆっくりと過ぎる。

 でも、その時はとうとうやってきた。

 クロードの身体が赤色の光に包まれる。これは高魔力の物が召喚される時の物だ。

 MPの低いヒロインは青色の光で召喚され、後半の魔力の高い主要キャラたちは赤の光とともに召喚される。

 クロードと私はお別れの時がやってきたのだ。


「なんだこれ……」

 本来なら、魔力が高いことで養子にはいったクロード。だけど、我が家にいたクロードは自分の魔力量などわかっていない。

 突然身体が赤の光に包まれて不安そうな瞳が私を見上げる。

「召喚されてるのよ、クロード。お別れね」

 不安げな顔をしてるから、頭を優しくなでてやる。

「アイリスは!?」

 私はどうなのか? ととう彼に首を軽く横に振った。

 私のMPは今86。万が一召喚されるなら青の魔法陣で先に私が学園に呼ばれていたはずで、高魔力の者を呼ぶ赤の魔法陣に切り替わったということは私がもうよばれることがないことを示す。


 彼の口が開き、私の服の袖を噛む。

 でも、召喚されるのは本人だけ。温かな毛並みのクロードは部屋から消えてしまった。



 お父様もお母様もクロードが出てきたら驚くだろうな。

 そして、私が呼ばれないことにもっと驚いてがっかりするのではないか。

 オープニング映像だと、マリアの後にクロードが召喚されていた。

 マリアは学園へ、私は家に取り残されたまま。

 私は参加できなかったが物語は進むのだ。




 窓から月を眺めた。私のがんばりは報われなかった。

 召喚は続くだろう、もう一番最後に召喚されるマリアの婚約者である第二王子ジュリアスは呼ばれただろうか。

 私はどうなるのだろう、私が学園に行くことが叶わなかったということは、マリアは我が家の養子にはいるだろうか。




 そんな時だ、私の身体が白く光り出したのだ。こんなのゲームになかった。

 どういうこと? 私に何が起こっているの?

 わけがわからない。でも、これはきっとタイミング的にこれしかないのだ。





 父と母は青の光が終わり、高魔力持ちが呼ばれる赤の光に切り替わってからうろたえていた。

 娘が一向に現れないのだから。

 そんなことより、家で娘の従者として使えていたクロードが突然現れたことで父と母は驚いた。

 クロードのところに駈け寄るものなど他にはいないことを知ってる父と母はクロードに駈け寄った。

「こんな順番でまさか君が召喚されるだなんて思ってもみなかった。ところで娘は?」

「アイリス様とはさっきまで一緒にいて、それで気が付いたらここに俺……いや私だけいて。」

 次の召喚が始まったので、話はそこそこにクロードを連れて召喚の陣から離れた。



 しかし待てど暮らせど、アイリスは召喚されなかった。



 とうとう、第二王子であるジュリアスが現れたことで、もう娘は召喚されない。そう思った時だった。

 魔法陣が白く光り出す。

「まだ召喚の続きがあるぞ。二十数年ぶりの色代わりの陣だ。ジュリアス様を早く陣から出せ」

 陣は通常魔力の低いものを呼ぶ時は青色に、高魔力の者を呼びだす際は赤色に変わる。それ以外の色をまとって召喚されることがまれにある。

 色の違う陣で呼ばれるということは、青でも赤でも引っ張ってこれなかった特殊な人物を呼ぶ証なのだ。

 今回の色は白。学園でも二十数年ぶりの陣の色を変えることができる潜在能力を備えた者が呼ばれることであたりはざわついていた。



 魔法陣がすべて輝くと、光は2mほどのところで終息する。

 呼ばれたのは誰なのか、皆固唾をのんだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る