第17話 好きにして

 いろんなことをはしょったお願いは誤解を招くということを私は痛感していた。


 手紙を送ると計算通りクロードは私には近づかないようになった。やはり一人で一方的に避けるのは無理があったのだ。

 お互い会わないようにする方がずっと遭遇率が下がる。


 フランも事件が起こらないので久々に穏やかな顔をしていた。彼女の眉間のシワをこれ以上深くするわけにはいかない。

 メイドも流石に私がクロードを意図的に避けているのに気づいたようで、あっちにいましたなど鉢合わせしないようにフォローしてくれた。


 私はアランに協力してもらい父の書斎から本をこっそりかりて読んだ。

 レベルは上がらないし、変な称号が手に入ったお陰で散々だし、少なくともこの称号だけはなんとかしたいけれど、称号の効果を緩和する方法や称号を無くす方法の書かれた書物は都合よく見つかるはずもなく空振りしていた。




 それからしばらくした夜のことだった。

 寝ている私の頬をむにゅむゅされたので目が覚めた。

 豹の姿のクロードが肉球で私の頬をむゅにゅむにゅとしていたのだ。肉球の感触がたまらない、飼い猫にこれをされてニヤケてしまう人々の気持ちがわかる。

「おきた?」

 私が起きたことに気づいたクロードは話しかけてきた。

「こんな時間にどうかしましたか?」

 どんなピタゴラスイッチ的なことになるかわからないのでモフモフしたい気持ちを耐える。

「あの……」

 何かをいいかけてクロードは止まる。滑らかな彼の背中に手を回しなでたい。




 長い間だった。

 ようやく彼はもう一度口を開いたのだ。

「ごめんなさい、撫でてもいいよ」

 わかるぞ、これは罠だ!

 私の顔は、甘い誘惑のセリフとは反対に無へと切り替わる。ほほう、では思う存分とちょこっと触った途端、いやヘタをしたら触ろうと手を伸ばして触る前かもしれない。

 私の部屋の扉がバーンと開いて、何らかの理由で私の様子を見に来たフランが現場を発見して私が怒られるというやつね。

 その手には乗らない、乗らないぞ。


 私の頬に、頭をぐりぐりとされて、なでてと言わんばかりである。

ツイツイその頭に伸びそうになる自分の右手の甲を左手でギュッとつねる。

 耐えろ、耐えるんだ私、巧妙な罠とわかっていて飛びこむなどと言うことは馬鹿のすることである。

 それに今は日中ではなく夜だ、フランのお仕置きもどのくらいになるかわからないし、フランの眉間のしわも深く刻まれてしまっては大変である。

 それに、何もしなくてもクロード自ら頬に頭すりすりしてくれているではないか。これで我慢しろ、多くを望んではいけない。


 


 私が一向になでることがないのに気付いたクロードはまさかの追加攻撃を試みたのだ。

 私の布団に顔を突っ込むと、中に入ってきたのだ。そして、理性を保つために右手をつねっている左手に彼の手が重なったのだ。

 あっ、肉球がない。気がつけば私の手は彼の耳へと導かれていたのだ。


 あっ、ふわふわだ~。


 などと考えている場合ではない、彼の手が人型ということは、布団の中は一体どうなっているんだというか、これはヤバいまずいぞ。

 いち早く状況に気がついた私は、両手でクロードに手を伸ばした。

 彼の温かな肌に触れるとかしてる場合ではない。

「えっ? えっ?」

 突然ガッツリと触ってきた私に疑問の声がでているけれど、それどころではないのだ。

「声をあげるな、私の身体に沿うようにくっつけ」

 明確な指示にわけがわからないままクロードは従う。




 ちょうどその時だった、案の定部屋の扉が開いたのだ。

 思った通りだ危なかった。すぐに扉はしまった。

「ふう、あぶなかったわもう出てきても平気ですよ」

 人型から獣にもどったクロードが少しめくった布団から飛び出してきた。

 ただ、完全に私に対して威嚇してしまっている。毛は逆立ち尻尾もピーンとしている。


 私はステータスを確認した。そこにはラッキースケベは消えてなかったけれど、危機回避能力(低)がついていたのだ。

 思わずガッツポーズをしてしまった。



 手招きする私に、どうしよう触ってもいいといったし、どうしようどうしようとうろうろした後そっとやってきたクロードを久しぶりにモフモフした。

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