第13話 私に甘い獣

 素敵なもふもふライフだったけれど。

 数日でクロードは触られることをすっかり嫌がるようになってしまった。

 使用人が姿を見せればサッと隠れてしまうし。

 私の近くにはいるのだけれど、触ろうとすると、毛をたてて威嚇してきてあっという間に姿をくらますのだ。


 でも、少し私がメソメソと嘘泣きをしながらクロードを探す振りをすれば、なんだかんだで出てきてなでさせてくれるのだもの。

 ぶっちゃけチョロい。


 どうしよう、でも泣いてるし……出て行ったほうがいいかな? ……でもモフモフされるのは嫌だし~と考えながらうろうろしてるのが手に取るようにわかる。

 ちらちらと姿を現す姿がいじらしい。


 人型を取ればいいのに、なぜ獣の姿のままなのだろうかとかいろいろツッコミをいれたいことがあるけれど、まぁモフモフで可愛いからいいかと思ってしまう。


 クロードは私の実験のあやしい液体も嫌そうだけどお付きあいしてくれる、貴重な実験台その2としても大活躍だった。



 事件のショックもあるのか話しかけてもミィーとしかなかないので、食事はお肉食べるんじゃない?との推測し与えられた肉の栄養価がよかったのか。

 すくすくと大きくなり、これ、ふれあい動物園とかで出したら駄目なサイズよね…程度にはあっという間に成長した。


 あれほど素敵な抱っこも、だんだん辛くなる。

 けれど、そこは諦めるわけにはいかないんだけれど…もう抱き上げることができなくなるのは時間の問題であった。



「ねぇ、クロードは獣人なの?」

「ミィー」

 相変わらずかわいらしい鳴き声である。

「お話はできないの?」

「…ミィー」

「言葉を教えたら話せるようになる?」

 ミィーと鳴くと思ったのに無言である。

「アイリス、言ってごらん」

 しつこくアイリスと繰り返してみる。

 それでもクロードは話さない。


 ちぇっと飽きてクロードが話してくれることを諦める。



 ヒーラーポイントというのは結局よくわからないし。

 ヒールは相変わらず擦り傷を治せるかどうかの戦い。

 薬は消化がよくなりますってのを発見できたけれど、使い道がいまいちわからない。

 胃もたれとかには効きそうだけれど。



 父は屋敷からあまり私を出してくれなくなっていた。

 盗賊騒ぎもあり警戒してるのかもしれないけど、これではレベルが上がらない。


 何か家の手伝いではどうか? と思ったけれど。

 クエストには該当しないようで、お馴染みのポーンという音は聞こえないし、経験値は入らない。


 やたらめったら経験値を得る切っ掛けを探す私は、木登りにも挑戦することにした。

 屋敷の庭には木が多い。

 木登りできるようになれば経験値を得るようなイベントのチャンスに一回限りだろうけれど家から脱出できるからだ。

 フランに見つかるとめちゃくちゃ怒られるから、あくまでこっそりとである。


 何をするんだろうと言う顔でクロードが私を見つめる。

 よし、やるぞ。

 現状を打破するのだ。

 靴を脱ぎ、さぁスタートだ。


 幹に手と足をかけ登り始める。

 足元ではミィーミィー鳴き始めるのを

「シー、バレちゃうから」

 と黙らせる。


 以外とスルスルとのぼれた。

 しかし、どうやって降りよう。

 行きはよいよいというパターン。

 結構高さがある、下を見るとどうしても足がすくむ。

 一向に降りない私にミィーとクロードが鳴き始める。

 騒ぎになる前にと思うのだけど降りる勇気がない。


 クロードが木の下をうろうろとする。

 私もいつまでもこうしてるわけにはいかなくて降りる決意をする。


 しかし、降りる方が難易度が高い。

 どこに足を掛けたらいいのかわからない。

 私は途中で木にへばりついた状態でどうにもならなくなった。

 このままでは時間の問題で落ちる。


 そう思われたとき、私は庭師のおじさんによって梯子を使い助けられた。

 おじさんのとなりには1人の黒髪黒目で耳と尻尾がついた少年がだぼだぼの上着を着せられ立っていた。

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