第11話 盗賊

 馬車は先程までとは違い速度をあげて走りだし来た道を戻りだす。

 揺れる。

 窓の外をみる余裕などない。

 私は父にぎゅっと抱き締められ、私も父をぎゅっと抱き締め返した。


 ただ事ではないことが起きているそれだけがわかる。

 時折小窓が開けられ、もっと急げとさらに速度を上げるよう指示が出される。

 車輪が小さな石に乗り上げる旅に馬車が跳ねるのがひどく怖かった。


「見えました、残念ですがお嬢様がみたのは本当でございました。応戦中のようです」

 横手のドアがノックされ馬に乗っていた従者がそう声をかける。

「応戦中だと…戦える者が乗っていたのか?…先に行き援護してやれ」

「かしこまりまして」

 そういうと馬に乗っていた従者が離れる。



「お父様何が?」

 あまりにも空気がピリピリしている。

 父は見たことないほど厳しい顔だ。

「アイリス、君は賢い。いまから起こる出来事はとてもショックを受けてしまうことになるだろう」

 お父様はそういって、私の髪を撫でる。



「盗賊だ……やつらは既に人を何人も殺めてる」

 父がそう言う。馬車が急停車した。

「シルビオは残れ、残党がきたら迷わず切り捨てよ」

 父がそういい馬車から離れた。



 どのくらい時間が経過したのだろうか。

 私はシルビオにしがみついて震えていた。

 父がでてからはほんの僅かな時間であったがひどくひどく長く感じた。


 馬車のドアが開き、私はあわててシルビオから離れ頭を抱え馬車の隅に小さくなった。

 私がしがみついていてはシルビオは戦えないからだ。

「終わったぞ」

 父の声だった。

 父は返り血をあびて服がひどく汚れ、独特のにおいをはなっていた。


「アイリス君は賢くとても優しい子だ。こちらに」

 父がさしのべた手を訳がわからないまま掴む。

 父が私を抱えあげ走った。

 アランよりもずっと早い。


 みるも無惨な死体がいくつも転がる。

 襲われた馬車だろうものは車輪が外れみるも無惨な状態だ。

 馬車の従者と護衛はほぼ壊滅状態のひどい有様だ。

 そんなボロボロの馬車の扉を守るように息も絶え絶えな女が一人いたのだ。

「みろ、うちの子だ。盗賊ではない」

 父がそういって、女に私をみせた。

「……中に息子が………お助けください」

「安心しろ」

 父はそういうと私を地面に下ろしすでに身体が言うことをきかないだろう女の人を馬車のドアの前からどかした。

 腕が千切れそうなほど損傷しており、脇腹からの出血が酷い。


 ドアを開けると何か動物が飛び出てきた。

 黒い小さな豹だった。

 ボロボロで、息も絶え絶えな先程の女性の前に立ちはだかると、私の父に対して毛を逆立て威嚇している。

 時折背後にかばう女を気にしチラチラみている。

 女の人はもう言葉を話さない。


「子は獣人か人型をまだとれないのか…本能で獣になったか……」

「お父様、早くあの方を治して魔法が使えるのでしょ?」

 父は首を横に振る。

「攻撃に特化した魔導師は回復魔法を使えない。今日連れてきてる者は戦うことは出来ても人を殺めすぎてるから癒しの魔法は使えない。アイリス君はほんの少しだけれどその歳でもうヒールで人を癒せるね。知っているんだよ」

 父はそういって、私を見つめた。

「私の術では……」

「最後にほんの少しだけでも痛みを和らげ安らかにいかせてあげなさい」

 最初から、ほんの少しだけでも苦痛を楽にするために私は連れてこられたのだ。

 私の術ではまず助からないとわかっている相手に。


 ヒールという単語が聞こえたのか豹がすこしだけ下がる。

 私は一歩踏み出す。

 ミャオーと豹がなき必死に女のそばに身体を寄せ始める。


「可のものに、安らかな癒しを ヒール」

 なけなしの魔力が身体中からすべて集められる。

 私の手から柔らかな光が現れ女性を包んだ。


 腕がくっついた。

 人生で一番の効果を今発揮したのだ。

 女性はほんの少しだけ顔をあげると小さな豹を見つめた。

 柔らかな柔らかな表情で。

「クロード愛してるわ……」

 そして、動かなくなった。

「よくやった、馬車に乗せろすぐに近くの街へ」

 父がそういった。


 小さな豹はゴロゴロと咽をならし女にすり寄る。

 彼女の息は細いけれど運よく命が繋げたようだ。

 従者が急いで馬車に女性を乗せる。

 私は豹を抱っこした。


「お前達は死体を埋葬してやれ、あとで戻る」

 父は馬車ではなく馬にまたがると従者に支持し自分の前に私と豹も共に馬に乗せた。

「街に先に行き治癒魔法を使えるやつを探すぞ。」



 馬車よりも先に馬はかける。

 治癒できるものが何人も集められ後からきた馬車に乗る女に回復魔法が盛大にかけられた。


 光のシャワーのように女の人が魔法を浴びたあと。

 お約束のポーンという音がした。

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