第10話 馬車の旅
あのスライム退治以来、これといって何もなく一月もの貴重な時間が過ぎていた。
その間たまにスライム退治の報告が寄せられ露天で売る分とは別にゼリー3つほどできそうなほどの僅かな粘液を献上されるくらいだ。
魔物とのことで、期待大だったけれど。
仕上がったゼリーがただ美味しいというだけで特に特殊効果はなしだった。
貰った日は私のおやつがゼリーになり、残り2つのうち、1つはルートお兄様に、あと1つは使用人に順番に与えられる。
デザートを食べた使用人はその美味しさに必ずお礼を言いにくるので誰が食べたかがかならずわかる。
私はひたすらヒールの練習をしていた。
といっても1日に一度しか使えない上に、治りはランダムという、なんともうんこな結果である。
一流であれば、そぎおとされた肉も復元されるらしいけれど、私は転んで擦りむいたところや、紙で指を切ってしまった部位すら治せるときと治せないときがあるありさまである。
それでも、魔法を使用する特有のあの感じ。
傷がほんのりと淡い光をおび治る感じ。
魔法があることをとても実感できるのだ。
フランはだんだん植物が増えるこの部屋にウンザリしているようだが、スライム退治後はかなり目をつぶってくれるようになった。
しかし、このままではまずい。
レベルはちっとも上がらないし。
家でこんなことをしていてはダメなのだ。
ヒールについてはアランが冒険者仲間から上手くやるコツを聞いたのを教えてくれたけれど。
さっぱりである。
そんなときである。
父が明日私を隣街に行くことに誘ってくれたのである。
馬車で二時間ほどの旅である。
新しい何かとっかかりを探すべく私はそれに乗ったのだ!
父と父の護衛と私と私が雇っているアラン。
フランは今回はお留守番である。
日帰りだしね。
「お嬢様が目に余るようなものを欲しがったらきちんとお止めして」
フランはアランにお願いしているが……、私はフランがいないのをいいことにいろいろおねだりするつもりだ。
ニンマリとしてしまう。
「お嬢様、もうこれ以上はお部屋に入りませんからね。聞いていますか?お嬢様にいっているのですよ。他の皆様もお嬢様が可愛らしくおねだりしたときには購入してあげる前に、本当に与えていいものか必ずかならーーーーず考えてくださいませね」
フランのお説教は今日も長い。
「大丈夫だよフラン」
と誰よりも私に甘い父が答えるけれど流石にフランは父には強く言えない。
後ろではなく、手綱を握る従者の横に陣取る。
「お嬢様は後ろですよ」
フランがすかさずツッコミをいれる。
「嫌です、こちらの方がよく外が見えますもの」
「いいじゃないか、大人しく座っているだろし」
父が助け船をだしてくれる。
そう父に言われるとフランは黙る。
私はニンマリと笑うたのしい旅の始まりだー。
馬車は進む、私は見送りに来てくれた皆に手を振る。
街の人にも手を振る。
皆私に手を振り返すし、小さな子供などは私を指差し羨ましいといっている。
悪い気はしない。
道は悪くガタガタと揺れるけれど、楽しい。
一時間ほど走って一度止まり皆で休憩してお茶を飲む。
楽しいー。
私は通りすぎる全ての人に楽しさのあまり手を振り続けた。
すれ違う行商人らしい人は手を振る私を見て飴をくれたりといいこともある。
私はさらに手を振り続けた。
「さっきの馬車は何?」
「あれは食べ物を運んでるのでしょうね」
「今の人はなんだろう」
「あれは軽装でしたからこの辺の人でしょう」
などと質問に答えてもらいながら旅は続く。
通りすぎる馬車。ニコニコしたおじさんがひいていた馬車。
私は通りすぎた後も振り返り馬車を目で追う。後ろには人が乗っているようだ。暑いのか少し後ろの布が開けらる。中に男が何人か乗っているのが見えた。
「何か荷物を運搬する業者でしょうね」
と説明される。
なるほど荷物運びか、運ぶ人を後ろに乗せてるわけね、体格良さそうだったもんな。
馬車もいろんな形があることが見てるとわかってくる。
「屋根があるタイプのもので荷物をのせ運ぶ馬車と人を乗せる馬車は形が違うのに気づきましたか?」
「なんで形を変えているのですか?」
「うーん、所有してることでの税金も違いますが、最初から屋根のある荷運びの馬車は後ろに人をのせてはいけないと決めておくと、見えない状態で人を沢山乗せたいと考える悪い人が悪いことをしにくくなる…って説明でなんとなくわかるかな?」
私になるべく解りやすいように説明してくれる。
あれ………。
先程の馬車には後ろに人が乗っていた。
荷運び用の物のほうがおそらく所有する税金が安い。
パッとみて有人馬車か荷運びの馬車かですれ違う馬車もきっと警戒が違うと思う。
あー、嫌な予感がする。
先程の荷運びと言っていた馬車の後ろには男の人が沢山乗っていた。
私がそういうと先程までニコニコと私と話していた従者の顔が代わる。
「本当でございますかお嬢様」
「あの恰幅のいいニコニコのおじちゃんの馬車」
「なんてこと、なんてこと、荷馬車じゃないか」
狼狽えだし私たちの馬車が止まる。
「何かあったか?」
馬車が止まり後ろに乗っている父の護衛の男が小窓を開けて声をかけてきた。
「大変でございます。荷馬車に人が」
「何!! どこだ」
あきらかな警戒してる声だ。
「10分ほど前にすれ違いました馬車でございます」
私の隣の男はそう告げる。
「なぜ直ぐに言わない」
「申し訳ございません、お嬢様がご覧になったようです。理由を知らなかったようで今しがたそう言われまして」
「とりあえずアイリスを中に」
父の声だ。
「かしこまりまして、いかがなされます?」
「今なら狩れる道を戻るぞ、きっといつもの街道だ」
「かしこまりまして」
私は後ろに乗せられる。
ヤバイことが始まろうとするのがわかる。
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