第7話 駆け引き

 駆け引きは始まってしまったのだ。

 言ってしまった言葉というのは、もう戻らないのである。


 フランは怪訝そうに私を見つめる。

「お嬢さま、話し方は気をつけたほうがよろしいですよ。それとも、本当に私を脅迫するおつもりですか?」

「えぇ、もちろんです。私と、私の筆頭メイドであるあなたは一蓮托生ではありませんか」

「マリア様が養子になど戯言です。ルート様とあなた様がいらっしゃるのに、わざわざ分家から養子をとる理由がありません」


「この国では魔力こそが悲しいけれど、すべて……と言えるほど重要ではありませんか。分家のマリアが魔力量がかなりあるとなれば、お話は違ってくるのではないですか?」

「それでも、お嬢さまがいるではありませんか。直系の本妻に女児がいるのにもかかわらず、迎え入れる理由になりません」

「それは、………私が相応に魔力をもっていればの話しでしょう?」

「何をおっしゃいますか。アイリス様は直系です。分家が勝るなどありえません」

「その可能性があるから、養子の話が持ち上がっているのではなくって?許容の範囲の魔力量であれば、そもそも私がいるのだからと養子の話は持ち上がらないはず。違いますか?」


 フランは私が魔力をある程度保持していると思っている。

 実際はレベルが上がったとはいえども、たった6である。

 召喚の儀式の魔法陣が発動し、対象とされるのは13歳の時点でMP100以上である。

 私が魔力をあまりどころか、ちっとも保有してないことを本当に話してしまっていいのか……。

 フランは私に見切りをつけるのではいだろうか。


 そうなれば、私の立場は?

 あのゲームのようなことがおきれば、マリアに散々に魔力をもたないクズと散々罵られ過ごすことになるのではないだろうか。


 フランは言葉に詰まっている。

 直系で女児がいるにも関わらず持ちあがるなど前代になかったのかもしれない。

「だからこそ、私は直系だからと甘んじているわけにはいかないのです。魔力量の多さは13歳の召喚の儀で、どちらが先に呼ばれるかでいずれわかってしまいます。そのとき、何としても、私はマリアよりも後に呼ばれなければいけないのです。私が私の場所を守るために」

 まっすぐとフランを見据える。

 もう少しで説得できそうな気もする。

「ですが、お嬢さま、あやしげな薬などお作りになり危ない橋を渡る必要がどこにありますか!」


「すんなりと養子に迎えいれないのは、本当に直系に女の子がすでにいるからだけなのかしら?マリアは性格形成に大きな影響を与える幼少期の大事な時期を分家で過ごしました。分家と本家では扱いが違うのは至極当然です。人格に問題があったらということで、お父様もお母様も、魔力を膨大に保持している可能性があるけれど、養子に踏み込めないのでは?」

 マリアのあの性格が本質的なものであるとすれば、上に立つ者として不適格なはず。

 現に、マリアは公爵令嬢になってからは、やりたい放題でそのツケをエンディングでしっかりと払う羽目となるのだから。


「思うところがあったのでは……?」

 フランをまっすぐに見つめる。

 フランは私の筆頭メイドだ。

 もし、直系の私が使い物にならないとなれば、一番できのいい彼女は……マリアのところに回される可能性だって0ではない。

「養子に来るのがいずれ避けれないとすれば、やはり私が本家の直系で格が上であることを見せねばなりません。召喚の儀という、皆が見守る公正な場で」

「ですが……」

「幸か不幸か……、私の入学の歳は豊作の年となりましょう。この国の王子達、そして、宰相の息子である私の兄。騎士団長の息子……あげればきりがありません。王子が自分の伴侶を学園で選ばれるかもしれません。だから我が家に女児をいれたくないのでしょう? 王家と釣り合いのとれる我が家に」

 ゲームでは、マリアは王子の婚約者となっていた。

 だから、私が入学できないとなれば、マリアは必然的にまた王子の形だけではあるが婚約者としておさまってしまう。

 不本意だとしても、この公爵家の令嬢として。


「そこまで先を、見据えていられるとは思いませんでした」

 フランが折れたのがわかる。

「入学の歳まで、まだ時間はあります。私はマリアほど魔力に精通してないのが自分のことですものわかります。だから協力してほしいのです。フラン、そしてアランも」


「えっ? 俺……ですか?」

 突然話を振られてアランが戸惑った。

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