第5話 大変なことになった
すでに、中身は大人の私は社交辞令の笑顔を習得している。
にっこりと顔に笑みを張りつかせて害はないの、ほら、私お使いできたのよ、食べて食べて。
まさか、子供が悪意があって、このように表情を取り繕ってくるとは思うまい。
フランはため息をつくと、差し出した普通のほうを食べた。
よし。
男のほうは、雇われだけあって、フランのほうをチラリとみるだけで、串を受け取ろうとしない。
コイツのほうに、一服持っているというのに……。
「どうぞ、お嬢さまも食べるまで折れないことでしょうから」
フランがそう促すと、男は私に礼をいって串を食べたのだ。
ヒッヒッヒと思わず心の中で笑みがこもれた。
悪役の魔女のようなニターっとした頬笑みが心の中で満載。
さすが、一番動ける時期であろう男性だけあって、あっという間に食べ終わってしまった。
人のステータスがみれないのが心底悔しいが、無事効果が表れればいいのだけれど。
しかし、私はミスをしてしまったのだ。
私たちを護衛している男は走る機会がない……ないのだ。
子供2人の足取りに合わせて、緩やかに周りに気を配りながら歩くだけなのだから。
私が走り出すという手もあるけれど、それをしたら今後市場調査なんかには絶対でる許可が出なくなるし……。
どうしたものだろう。
あぁ、今一度私にひらめきを……、なんとかこの護衛に走らせる状況を……。
「アイリスそろそろ帰ろうよ。あまり遅くなってしまうと、お父様もお母様も心配してしまうからね」
ルートお兄様はニコニコと帰宅を促す。
これまでか……。
ヘタに粘ったところで案は出そうにないし、なかなか帰らないということで、次がなくなると……だし。
その時だった。
通りで悲鳴が上がったのだ。
馬が何かに驚いたようで、ひどく暴れている。
悲鳴は通行人の物のようだ。
馬の隣では、馬の持ち主だろう男が馬の手綱を握りなんとか馬をなだめようとするも、その手綱が手からはずれる。
ここは、家からも見える距離の市場で。
私は家柄的にも有数の貴族で。
周りの人々は何も言わなかっただけで、私たちに対してしっかりと配慮していた。
散策の邪魔にならないようにと呼び込みもされなかったし。
すんなり通れるように皆隅により道をあけ、商品棚をきちんと見れるように私たちがくれば、客がいったん遠慮してはなれ、私たちが店をはなれるとまっていた先ほどの客が店に戻ると言った風に。
お兄様は気づいてなかったし、フランや護衛はそれが当たり前のように黙っていたから。
私も黙っていた、皆のようにして!だなんていったところで、街の人も困るだろうし。
これでいいのだと。
しかし、これが裏目に出た。
私たちの散策が邪魔されないようにと、皆道をなんとなく開けてくれてたせいで。
馬は他の住民が隅のほうにより、ひらけたこちらの道に向かって走り出したのだ。
「こちらにきますね。万が一のことを考え切り伏せます」
護衛の男は迷うことなく剣に手をかける。
フランも迷うことなく、私とルートお兄様の手をつなぎ、道のはしに寄ろうとする。
魔物に比べたら馬の一頭切り伏せるのは容易なのだろう。
しかし、馬は高価なものだと思う。
ここで男に切られたところで相手は私たち、馬の持ち主は当然泣き寝入りすることになるに違いない。
暴れた馬の手綱をはなした相手が悪いのだけれど、馬が一頭なくなる損出をうめれるのかとか、一瞬の間にいろいろ浮かぶ。
「切らないで!」
思わずでた、わがまますぎる言葉。
男は困った笑顔を一瞬私に向けた。
「できうる限り」
どうにもならないときは、男は間違いなく迷いなく馬を切り捨てるだろう。
できるだけ、私たちと距離をとってと思ったのだと思う。
男は馬に向かって、走り出したのだ。
その瞬間だ、男は風となった。
大人へのドーピングの効果はすさまじいの一言だった。
私の目の前で1歩踏み出したはずの男は、あっという間に馬の元にたどり着き、そのスピードで手綱を手に取り馬に飛び乗った。
乗り手綱を握ってしまえばもう、こちらのものだったのだろう。
男に手綱を見事にさばかれ。
馬は次第に落ち着きを取り戻し自体は終息した。
馬に関しては………だ。
フランはギョッとした顔から、私へと視線を向け、私はとっさに後ろめたい気持ちから視線をそらしてしまったのだ。
「お嬢さま、お話がございます。おわかりですね?」
なんていう早さだ。
あの男は何ものなんだ。
さすが、お貴族様の護衛に選ばれるのは子供相手でも一味違う。
あの子たちは、まさか直系なんじゃないか?だから凄腕がついていたんだろう。
さっきの護衛の男、加護持ちではないか?加護を賜った人なんて初めてみた。
なんて早いスピードだろう、風のようだった。
市場は騒がしくなっていた。
馬の騒動で人々は馬の動向に注目していた。
そして、馬が一目散にかけようとした、先にいたお貴族様らしき、私たち子供二人に誰しもが注目していたのだ。
万が一、この街で貴族の子に怪我でもされたら。
護衛の男よ、何としても馬を切り捨ててくれ、この場で怪我の一つでもされてしまったら……と町民たちは思ったのだ。
男はあっという間に、町民に囲まれた。
「加護をもっているのではないか?」
「名の知れた冒険者なのか?」
「風魔法の使い手様なのか?」
「とにかく助かった?」
あとは、お礼とありがとうの嵐であった。
町民はかなりの盛り上がり。
「すまないが、護衛の途中ゆえ」
男は護衛の途中と短く告げると私たちのところに戻ってきたのだ。
不思議そうに首を傾げた後、そう走って。
ひゅっと風のきれるような音がした。
すると男は、私たちの目の前に戻ってきていた。
「アランさんでしたね……あなたにも、お話がございます。申し訳ありませんが、今日の報酬をお支払いする前に一度お時間を作ってもらってもよろしいでしょうか。」
フランは男にそうつげ、男はそれを承諾した。
私たちは、その後すぐ家に……戻ることとなった。
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