第14話

「ただいま戻りました、燈吾様」


「………さま!!?ぶっふぇっ…」


 紘之助が礼をする動作に合わせて、アルフォンソも燈吾に向かい礼をしたが、普段いる世界ページに存在する十三武神じゅうさんぶしん喰闇鬼始祖氏くろやぎのしそうじせかいあるじ以外に対して紘之助が[さま]を付けて呼ぶのを生まれて初めて聞いて、彼が思わず驚きを口にした結果、頭を鷲掴わしづかみにされて更に深く頭を下げらされた。りが深く美しい見慣れない服装の者が、どこか親しげな様子で紘之助と共にやって来たと思った瞬間、礼をしつつたわむれ始めたのを、燈吾は目を丸くして見ていた。


「いだだだっ…こ、紘之助さん、首、首折れますからっ」


「反省したか」


「もちろんでずっ」


「いいだろう、次はり潰すからな」


 ボソボソと物騒ぶっそうな言葉のやり取りがその耳に入ってくる、今まで全く聞いたことがないような口をきく紘之助の姿を見ると、他所よそからわざわざ来てくれた青年に対してうらやましさが込み上げる。燈吾はモヤモヤとした気持ちに駆られたが、二人が顔を上げると同時に無理矢理見なかったことにした。


 いや、実際にはできなかったのだが。にもかくにも、彼は客人を持てさねばとアルフォンソを客間に案内して茶菓子ちゃがしを出させると、障子しょうじそばに控えている紘之助と夜之助に聞いた。


「そなた達は、古くからの付き合いなのか?」


 この問いには正直に答えられなかった、いつからの付き合いかと素直に言うならば約五千年前からである。夜之助にいたっては産まれるより遥か昔からだ、かといって、紘之助としては完全な嘘を言うのもはばかられて、苦心くしんすえにこう答えた。


「…十年以上前からでございます」


 その言葉を聞いた途端とたんに、アルフォンソは茶を気管きかんに詰まらせて思いっきりせた。まだ十六の燈吾からすれば、とても長い年月を共にしながら生きてきたようにしか思えなかったが、噎せ返っている彼からすれば、五千年以上の付き合いを十年以上と表現されて、確かに嘘ではないのだが、どれだけ紘之助は燈吾の存在に重きを置いているのかと、笑いがせり上がってくるのを感じられずにはいられなかった。


「なるほど…ところで体術はいつ見れる?」


「そうですね…しばらく実戦をしておりませんから、半刻はんこくほどお待ちいただけますか?」


「息を合わせる練習が必要ということか?」


「その通りにございます」


 紘之助の言葉を聞いて一度頷くと、彼は振り向きざま無意識のうちにアルフォンソへ羨望せんぼう眼差まなざしを向けていた。古くからの仲で強い絆があるのだろうと考えると、まだ短い付き合いである自分とは違う何かがありそうで、思わず二人の関係性と自分達の関係性を比べてしまったのだ。アルフォンソは擦り潰されるのが嫌で必死に笑いをこらえていたが、燈吾からの視線に気づくと、途端とたんなごやかな笑みを浮かべてゆったりと丁寧ていねいな口調で言った。


「燈吾殿、我等われら酒呑さけのみ仲間であり、仕事の都合で一族間での協定きょうていを結んでいる。それだけの間柄あいだがらでございます」


 と言いきってしまえる程の関係ではないが、彼は前世での紘之助の話を一度か二度聞いたことがあった、面白がってはいるが、紘之助が燈吾を大切に思う気持ちは理解できる。殺し屋の一族に生まれて偉大なる殺戮者さつりくしゃとなった紘之助にとっては、この世界ページは特別な場所であるだろうし、きっと、失いたくない人間が目の前の少年なのだと。


「-!!?」


 何故なぜ、自分が紘之助のことを気にしている事がバレたのかと彼は焦った、それほど表情に表れているのかと思うと、藤丸への想いを忘れてしまうのではないかという罪悪感と、紘之助を想う気持ちがハッキリと芽吹めぶくのを感じて混ざり、それらの想いを恥じいるように顔が火照ほてった。





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