第2話

とある戦国の世界ページ、晴れた日の昼間に突如とつじょ、漆黒の稲妻いなづまが走った。さとの者たちが何事かと集まって来たその遥か上空じょうくうに、紘之助こうのすけの姿はあった。彼は腕を組んで、眉間みけんしわを寄せひとりごちる。


「上空から落とすとは面倒な…帰ったらもう一度あの首落としてやる」


地面に転移てんいするものと思っていたら、地上は遥か下、こんな高所こうしょから降ってきておいて地面にクレーターを作り、そこから平然と立ち上がってくるような生物が、人間判定される訳がないことくらいは彼にも分かっていた。このまま落下すると、いま人々が集まっている場所に墜落ついらくしてしまう。


少し態勢たいせいを変えて落下速度を落とし、墜落地点をズラす事に成功した紘之助。数秒後、辺り一帯に轟音ごうおんが響きわたると共に土煙つちけむりが舞い上がり、視界がひらける頃には、里のとなりにあった山が丸ごと無くなっていた。そこに紘之助の姿はない、すでに別の山へ移動し、里の人間たちの動向どうこううかがいつつ、どう接触していくかを考えていた。


(とりあえず、適当に行ってみるか…)


彼は四次元機能搭載の黒い着物のそでから、ストラーナに渡された風呂敷ふろしきを取り出し、中にある道具の確認をし始めた。一見すると輪っか状のピアスがあった、簡易的かんいてきな説明書によれば、身につけると前世の姿により近い容姿ようしになるという便利道具らしい、これを彼は早速さっそく使用した。


黒い目と髪と、白い肌と赤い舌に紅色の唇、特徴は変わらないが、ド迫力の貫禄かんろくたっぷりな姿から、わりと可愛らしい14歳くらいの少年の姿に変わった。着物は、身体のサイズにピッタリと合っている、実はこの着物もストラーナ作の不思議発明品の一つである。彼は思いつくままに何でも作っていくのだが、開発過程が謎過ぎるがゆえに、最早だれも何も聞かない。


(さて、後は…声帯変換装置と?異世界連絡用機器、日誌、筆…着替えか)


声帯変換装置は、紘之助の今の姿に合う声にする為の道具だ。14歳の少年の姿だが声帯部分は変わっていない、低く、深い深い魅惑的みわくてきな声で話すのは明らかにおかしいだろう。彼は特に抵抗もなく、その装置そうちをグシュリと自らの喉元に埋め込んだ。数度すうど[あー、あー]と発声を繰り返し、傷口が消えたのを指でなぞって確認すると、高い木の上から音もなく飛び降りた。


そして切れ長の眼を細め、何キロも先で里の人間たちがささやき合う声をひろう。混乱の中、[入舎前に不吉な]という言葉を聞き取り、里の学舎まなびやに潜り込めそうだと唇の両端りょうたんり上げた。


(…丁度ちょうどいい)


そののんびりと徒歩とほで里に向かい、途中、甘味処かんみどころで団子と茶を注文して腹を満たす。彼にとってはひどなつかしい道だ、前世、この里で、紘之助は学舎の仲間の手によって殺された。おぼえのないぎぬだった、拷問ごうもんを受けながら、最後さいご最期さいごまで[信じてくれ]とうったえながら事切こときれた。


ここは、彼が殺されてから一ヶ月後の時間軸じかんじくだと聞かされている。紘之助として産まれてから、既に数千年が経っているが、この世界ページでは違う。げんに、すれ違う人々は、彼の姿を見るなり驚愕きょうがくの表情を浮かべて硬直こうちょくしていく。



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