鬼の舞

江戸端 禧丞

第1話

闇夜やみよに飛び散る鮮血せんけつちゅうなびく黒い装束しょうぞく、振り抜くもなく切返きりかえされる漆黒の刀、彼等かれらは音もなく山を駆け抜けていく。


「ポイントF1〜2651完了」


〈御苦労、帰還せよ〉


「了解」


なにかしらの報告を終えると、彼等は闇へと溶け込んでいった。その闇のずっと先、夜の闇よりも黒い平屋敷ひらやしきが彼等の本拠地だ。普段ならば任務を終えて帰還きかんすれば、各々おのおので自由時間となるのだが、この日は違った。


一族の中で重要な地位にいる存在が、せかいあるじ気紛きまぐれに名指なざしで付き合わされることになったのだ。あたふたと、彼がいない間どうするか緊急会議が開かれ、急ごしらえの対策をどうにかこうにか立てることが出来た瞬間、そらから黒い稲妻いなづまが降ってきた。


そこへ真っ先に向かったのは、せかいあるじのご指名を受けた黒柳くろやぎ 紘之助こうのすけ落雷らくらいしたその場所に立って、ニコニコと笑顔を浮かべている白衣の男性の首を、抜刀ばっとうした勢いで切り落とし、すぐ横から差し出された大きめのびんに頭部を放り込んでふたを閉めさせた。すると、そのびんの中の男性の頭部がさけび始めた。


「ちょっ!今回のは僕のせいじゃないでしょーっ!?ねえ!お願いしますよっ!首がまた増えるーっ!!!」


「相変わらず賑やかな首だなストラーナ、どうせ貴様きさま便乗びんじょうする気だろう」


「……えぇ、そりゃもう」


「先にぶった斬って正解だったな。で、もう首がえ始めているが、貴様のあの腕にある風呂敷ふろしきは何だ」


ストラーナと呼ばれた男性の、血で真っ赤に染まった胴体の前で組まれた腕が、大きくはない風呂敷を抱えている。びんの中の男性の頭部は、包んであるみずからの発明品につけた長い長い名前をいくつか答えた。


「便利だから持っておいて損はないですよー、予備も一応いくつか入れておきました!」


紘之助こうのすけ溜息ためいきを吐きながら、風呂敷をつかんでびんと交換すると、人の姿に変化へんげしていく。ゆるく波打なみう漆黒しっこくの長髪、切れ長い漆黒の眼、紅色の唇、真っ白な肌、長身で妖艶ようえんな姿は、人間に見えるのに人間ではないような、漆黒と赤と白、身にまとう物も黒い、これが黒柳一族の特徴でもある。


すっかりえ変わったストラーナと呼ばれた男性の頭部、彼はまたニコニコと笑みを浮かべて、血がしたたる手を白衣でぬぐうと、胸ポケットから小さなスイッチを差し出した。


目の前にある物がなんの為の装置そうちかは、この場にいる者は分かっていたが、それにしてもあまりの展開の早さに、一同は脱力感を覚えているのだった。紘之助こうのすけも、呆れたような口調くちょうで一言こぼす。


「あの御方おかたにも困ったものだ…」


紘之助こうのすけと大差ない長身、薄茶色のサラサラとした髪に、涼しげな薄茶色の眼の美丈夫ストラーナは、少し悲しそうな笑みで囁くように言った。


紘之助こうのすけさんの前世の世界ページだから思うところはあると思いますけど、考察こうさつにご協力お願いします」


「…まぁ良いだろう、お前達、留守るすを頼んだぞ」


一度振り返ってその場にいる者達に言葉を残すと、紘之助こうのすけはストラーナの血塗れの手にあるスイッチを押した。天空に走る黒い稲妻いなづまと共に、彼の姿は消えた。




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