第三章
俺は車で高速を走っていた。時刻は午前零時過ぎ。
助手席には目黒良子が乗っていた。いよいよ今日俺たちの運命が決められる。そういっても過言ではなかった。
アメリカはアジア連合国に対してどのような行動に出てくるのか。それが読めないのが不安だった。
「きっとアメリカは私たちに加勢する気になってくれたのよ」目黒が自分に言い聞かせるようにいう。だが大国であるアメリカが日本に存在する微力な反政府組織に加担してくれるのだろうか。過去の歴史の流れから考えてもアメリカという国は自分勝手な国である。どのような行動を起こす時も自分たち以外の者のことは考えない。従って俺は決して楽観的な考えはしていなかった。むしろ最悪の事態に陥ることをおおいに恐れていた。
やがて夜の闇の中に秩父の山並みが浮かんできた。その黒い巨大な壁はじわじわと迫りくる大津波のように見えてきた。
集合場所の建物に到着したのは午前二時前だった。
すぐ近くに機能を修復した電波通信網の中継基地があった。
建物の一階には三十名ほどが集まっていた。そして皆パソコンの画面に見入っていた。その中に関東地区総統の根岸もいた。
俺と目黒は、「おつかれ」と声をかけて入ったが、皆の顔は緊張でこわばり返ってきた返事も弱々しかった。
「どうやら全面戦争に突入しそうな気配だ」根岸が俺たちの傍に来て小声でいう。
「確かな情報ですか?」
「おそらく・・・まもなくアメリカの高官からわれわれに意向を伝えてくる筈だ」
根岸の顔は俄かに引き攣っていた。目黒はすばやく椅子に座ると持参してきたパソコンを開いた。そして十分ほど経過した時だった。
「メッセージが入りました」メンバーのひとりが叫んだ。
俺はすぐに目黒のパソコンの画面を見た。そこには長いメッセージが記述されていた。発信元はアメリカ国防省ワーナー国防長官となっていた。そしてアジア諸国の同志宛となっている。その文面を読むと俺は一気に血の気が引いていった。
その内容とは明後日、三月九日にアメリカ軍は中国の北京とロシアのモスクワを一斉に空爆を開始するというものであった。
「これって、核戦争?」目黒は声を震わせていた。
メンバーたちも皆パニックに陥りだしていた。
「俺たちいったいどうすれば・・・」俺は根岸に訊いていた。
「俺にもわからん。しばらくは様子を見るしかないだろう」彼もそう答えるだけで精一杯の様子だった。
「ねえ、これ見て」突然、目黒が叫んだ。
彼女のパソコン画面にはアメリカ国内のインターネット情報が表示されていた。そこには、(高性能人工知能МRついに開発。合衆国最強の軍事秘密兵器)という見出しがあった。
「これが噂の人工知能ってわけ。でもアメリカ国内のあちこちでトラブルが発生してるみたいよ」と彼女がいう。
「それってどういうことだ?」根岸が訊く。
「つまり今のアメリカ社会の労働力の九割をこのМRが担ってるわけよ。ところがこの人工知能にはある程度自分の意志も機能するように組み込まれて創られたのよ。つまりその自我に目覚めたってことかな」
「つまり人工知能が反乱を起こしたってことか?」今度は俺が訊いた。
「まだ反乱というほど大がかりなものじゃないようだけど」目黒が答える。
とにかくアメリカの国内は現在、かなりややこしい状況にあるようだ。そんな中で日本、いや、日本国内にいる多数の民主主義者たちはどう決断すればいいのだろうか。誰もがこの瞬間、どちらの方向に足を踏み出せばよいのかわからず立ち尽くしていた。と、その時だった。埼玉地区総統が大声でいった。
「みんな聞いてくれ。今、亀井総統からの指示が入った」皆静まり返った。
「総統は予定通り行動を起こすといわれている。そしてアメリカを説得する努力を続けるつもりだと」
この場に及んでどう行動するのがよいのか誰にもわからない。だが間違いなく世界は大きく変化しようとしている。そんな中で総統は自分の意志を変えず最後まで行動を貫くことを決断された。ならばわれわれもそれに従い突き進まねばなるまい。もう何年も前からその覚悟を決めてこの道を選んだのだ。俺もここにいる仲間たちも。
そして副総統と誓った目的達成は何としても成就させねばならない。それは誰もが平和に暮らせる世の中を創ることだ。
いつしか俺の中から恐怖心は失せていた。そして今までにない闘志が湧き上がってくるのを感じていた。
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