第三章

 その日の深夜、俺たちはアジトに集まっていた。

 揃ったのは四人だった。そして菅原からメンバーだった中田茂樹と森村達也の二名が脱会したと知らされた。

「あくまで本人の意志を尊重する。誰も強制することはしない。それが飛龍のやり方だ」そういうと菅原は三人の顔を見て、「抜けたい者は遠慮しないで申し出てほしい。咎めることはしない」

 落胆した口調だった。

「私の決意はそんな中途半端なもんじゃないわよ。リーダーはわかってる筈じゃない」目黒良子が眉間に皺を寄せていう。彼女はウエブデザイナーの仕事をしていた。自己主張が強く女性にしては気が強い。

「俺だって同じっすよ」住川輝幸も不機嫌極まりないという顔でいう。

 俺だって二人と同じだ。だが菅原が最近弱気になっていることを俺はわかっていた。

「近いうちに新しいメンバーが三人出来そうです」住川が皆に報告する。

「あら、すごいじゃない。それで素性は大丈夫?」目黒が訊く。

「三か月かけて調査したからバッチリですよ」

 住川輝幸は探偵社で仕事をしていた経験があった。従って人の素性を調べるのはプロである。

「住川君、よくやってくれた。来月にも地区統括がここに監査に来る予定なんだ。だが関東第三区は他の地区と比べたら伸びが悪いからなあ」菅原は頭を抱え込んだ。

「人数が少なくても俺たちはどこよりも結束は固い。堂々としていればいいんですよ」住川がいう。

「そうよ。卑屈になることはないわ」目黒も同調する。

 数年前に発足した飛龍も今や巨大な組織に成長していた。活動は地域ごとに行い全国の地方ごとに管轄する。その責任者が地区統括という役職であった。現在、全国に十六人の地区統括がいた。そして本部は千葉にあった。そこにわれわれの最高責任者である総統がいた。いわば飛龍の創設者である。

 俺は総統にまだ会ったこともなければ顔も知らない。だが彼は人並み外れたカリスマ性と明晰な頭脳を持つ人間であることは間違いない。短期間でこれだけの数の人間を集めたのだ。そして固い団結力でまとまっている。

 われわれの組織が政府に劣るなどと誰も思っていない。なぜなら今の政府の要人たちは中国共産党に飼われている犬に過ぎないからだ。もはや誰も自分の信念や理念を持っていない。わが身可愛さに言われるがままに動いているだけなのだから。





 その夜、俺は住川とシャンで呑んでいた。

 組織の中ではリーダーの菅原以外で一番気心の知れた人間が住川であった。それは俺と年齢に差がないのと性格もよく似ていたからだ。それに車関係が趣味という共通点もあった。従って正直なところ菅原と呑むよりは彼と呑む方が楽しかった。

 だが、今日ここを訪れたのはもうひとつの目的があった。それはニューフェイスの留美の顔を見ることだった。

「へえー、新しい子入ってるじゃない」住川は留美を見ていう。

「新しく入った留美ちゃん。ご贔屓にしてあげてね。こちら住川さん」ママが紹介する。

「留美です。よろしく」と、もうだいぶ慣れた口調で接客する。

「おい、おまえ目的はこれか?」彼が小声で俺にいう。

「なんだよ、それ」

「正直に言えよ」

「そんなことまだわかるかよ」俺はわざと恍けた。彼は現在、俺に彼女がいないことを知っていた。

「俺も彼女がいなければ即アタックするのに。でも留美ちゃん、岡は彼女募集中だから安心してよ」

「そうねえ、住川ちゃんは彼女を泣かせるようなことしちゃダメよ。岡ちゃんはいい人よ。やさしいしね」ママも焚き付ける。

 そして夜は更けていった。

 その日は店の客がいつもより少なくママは留美を俺の横に座らせた。彼女は以前より積極的に自分から話すようになっていた。

 彼女は四国の香川県出身で二十歳まで地元で過ごした。母一人子一人の家庭で高校を卒業後、飲食店で働いていたが母親が病弱な為、東京に働きに出たのだった。そして昼はレストランで働き夜はシャンでアルバイトをしているのだという。そんな彼女の直向きに生きる姿は男として優しく包み込んでやりたいという気持ちを駆り立たせる。

 俺と留美との雰囲気を察してか住川はカラオケを歌いまくって過ごしていた。

 俺が留美との会話に熱中し気づくと十二時前になっていた。留美の勤務は十二時までであった。聞くと彼女の住むマンションはこの近くらしい。

 やがて十二時になり、俺と住川は店の勘定を済ませ留美といっしょに店を出た。

 住川は何とか終電に間に合うといって駅に走っていった。

 彼女のマンションは俺のマンションとは方角が違うが、その日の彼女はかなり酔っており、深夜に若い女性がひとりで歩くのは物騒だと思い彼女のマンションまで送っていくことにした。

 彼女のマンションは十階建ての七階であった。

 俺がマンションの前で帰ろうとすると彼女は部屋の前までついてきてほしいという。仕方なく二人でエレベーターに乗った。そして部屋に着いた。彼女の部屋は七○七号室だった。

「それじゃ、おやすみ」俺が帰ろうとすると彼女は俺の腕を掴んだ。

「帰らないで。お願い」

 俺は彼女の言葉に逆らえなかった。俺は彼女に誘われるままに部屋に入った。

 彼女はよろよろとベッドに向かいゴロンと横になった。

「暑いわ」そういうと寝転がったまま着ていたワンピースを脱いだ。下着は身につけていなかった。若い滑々した美しい裸体が露わになった。俺は股間の一物が急速に固く大きくなっていくのを感じた。そのまま彼女の体に覆いかぶさり胸のカップブラをやさしく外した。そして俺は彼女を抱いた。

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