第ニ章

 その日の午後六時、私と裕子、それに私と同学部の山口弘美は新宿のカフェに集まっていた。

 有名居酒屋チェーン店に午後七時に相手の三人と落ち合う約束になっていた。

「それでどうなの? 今度の三人は」裕子が弘美に訊く。

「大学はみんな別らしいんだけど、登山サークルの仲間なんだって」

「登山サークルか・・さぞ逞しいんだろうね」裕子が期待を膨らませていう。

「ま、三人とも真面目そうなんだけど・・あんたたちはどうなの? どういうタイプの男ならいいわけ?」

「私はもう贅沢は言いません。性格さえ合えば見てくれは二の次よ」裕子がいう。

「恵理はどうなのよ。あんたは浮いた噂も聞かないわね。どういう男が好みなの?」

「私は今までそんなに本気で考えてなかったから」

「ふーん、でも恵理に合う男ってなかなかいないかもしれないね。何せ私たちの中でも飛び切りの優等生だからね。男の方もそれなりの才覚がなくちゃね」

「そんなことないと思うけど・・・」私は弘美の言葉を打ち消しにかかったが、実際それは当たっているかもしれない。高校、大学とそれなりのつき合いをした男子は何人かはいた。しかし、いつも長続きしなかった。それは相手方からすれば私が出来過ぎた女で背伸びをするのがしんどくなって嫌気がさすのだろう。私からすればいつも相手に何か物足りなさを感じ、これまた本気になれない。そんなわけで現在決まった彼氏は存在しなかった。


 午後七時、私たち三人は約束場所である居酒屋に着いた。

 相手の三人はすでに待っていた。三人ともがスーツに身を固めている。私たちは軽く会釈すると三人の向かいの席に腰をかけた。座った順番は左から弘美、裕子、そして私だった。そして自己紹介が始まる。

 弘美の向かいに座っているのは高木俊介といい、関東大学工学部四回生。なかなか清潔そうなさっぱりした印象の青年だ。


 裕子の向かいに座っているのは西岡和也で西南大学経済学部四回生。眼鏡をかけており、ぽっちゃり型で少しコメディアンのような雰囲気を持っている。

 そして私の向かいに座っている青年はバッポーと名乗り、法城大学法学部四回生。スーツも着慣れた感じはしない。おそらく今日のために誰かに借りたのだろう。私の憶測であるが・・・ワイシャツも少しよれよれっぽい。控えめな性格か話す時以外は下を向いている。

 そして皆で簡単に食事を取り、アルコールも進んでだいぶ話も盛り上がってきた。

 西岡和也はやはりおもしろい青年だった。大学の落語研究会に所属していて就職は一応決めているが将来落語家になりたいという夢は持っているという。裕子はそんな彼の話をきゃっきゃっと笑いながら聞いている。弘美の方も高木俊介と何やら親密に話が進んでいる様子だ。

 最悪なのは私たちのところだった。お互いに話す言葉が見つからないのだ。二人とも無言で下を向いて時間が過ぎていった。私は業を煮やして切り出した。

「バッポーさんは就職はどちらにお決まりなんですか?」

「それが、今だに未定で・・何社かは面接受けたんですけど」

 私は聞かなければよかったと後悔した。それでも何とか気を取り直し、「私の父は国会議員でね。私も将来政治家になりたいなんて思ってるの」

「そうですか。それはすばらしいことです」

「バッポーさんは将来の夢って何ですか?」

「僕は早く司法試験に合格して弁護士になりたいんです。そして世の中で苦しんでいる人を一人でも多く救いたいんです。世の中の人みんなが幸せになることが僕の夢なんです」

「へえー、そうなんだ」彼の風貌と言っていることがミスマッチしているところがなぜか印象深かった。

 午後九時を過ぎ、その日はお開きとなった。

 裕子も弘美もかなり呑んだらしく、ほろ酔い状態だったが、私はほとんど呑んでいなかった。

「ねえ、タクシーで帰ろうか」裕子が通り沿いで手をあげる。三人はタクシーに乗り込んだ。

「弘美、あんた満更でもなさそうじゃないの。つきあう気あるの?」裕子が訊く。

「うん、まあ・・一応携帯の番号は交換してるんだけど」

「あら、それはおめでとう」

「裕子だって楽しそうだったじゃない。つきあうの?」

「うん、しばらくはつきあってみてもいいかな」

「ところで恵理のところはどうだったのよ。あまり会話が弾んでなかったみたいだけど」裕子が心配そうに訊く。

「私は今回はパス。真面目そうな人だけど」

「あら、そう。残念ね」

 三人を乗せたタクシーは夜のハイウエイを突っ走って行った。

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